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『キャプテン翼』開始時、「サッカー漫画が他になかった」というのは本当か

高橋陽一先生曰く

1981年に始まった『キャプテン翼』は、「サッカー漫画」というジャンルを大きく切り開き、日本のサッカーに絶大な影響を与えました。

作者の高橋陽一先生は、どちらかといえば野球の方が好きっぽいのですが……。

「当時、野球漫画といえばスポーツマンガの王道で、水島新司さんはじめ、描き尽くされた感もあったんです」
「僕は新人だし、ほかの人がやらないものを、ということで、サッカーマンガを連載しようと」

『編集会議』2004年1月号

という理由で、サッカーを選んだそうです。

 

補足

実際、当時野球漫画が圧倒的に主流だったのは、間違いありません。

『週刊少年ジャンプ』誌上でも、1970年代には、

『父の魂』『アニマル球場』『涙の逆転ホーマー』『ケッパレ! 太田投手』『球速0.25秒!』『怒りのマウンド』『侍ジャイアンツ』『アストロ球団』『プレイボール』『炎の巨人』『1・2のアッホ!!』『悪たれ巨人』『実録巨人軍物語』『BIG1』『すすめ!!パイレーツ』『ロックンロールベースボール』『野生のバイブル』『熱球水滸伝』

※「野球漫画」「連載」の定義にもよる

……といった野球漫画が連載したのに、サッカーの連載は数作品だけ。

漫画界全体でも、1981年以前に「大ヒットしたサッカー漫画」と言えるものは無かったと思います。

※『アタックNo.1』『あしたのジョー』『エースをねらえ!』『巨人の星』(バレーボール・ボクシング・テニス・野球)などと比較して。

※巨人のV9(1965年~1973年)の頃には、「主人公が異世界に転生して、美少女にモテる」くらいの勢いで、「主人公が巨人に入団して、王さんや長嶋さんと一緒にプレイする」という漫画がたくさんありました。

 

「サッカーマンガがほかになかった」

それで、『キャプテン翼』の高橋陽一先生は、次のように仰っています。

サッカーマンガがほかになかったので、やっぱり最初はすごく苦労しました」
手本になるマンガがなかったので、全部自分で考えださなければならないのが辛かった」

『編集会議』2004年1月号

ーー 当時はサッカーまんがは少なかったですよね?
高橋 なかったですね。

『ぱふ』1986年9月号

しかし、この「サッカーマンガがほかになかった」という話には、若干、疑問があります。

 

『キャプテン翼』の10年くらい前

いちおう、今日の本題は、『キャプテン翼』が始まる直前の数年間に『週刊少年ジャンプ』に連載していたサッカー漫画の話なのですが……。
1960年代後半ごろの話も、少しだけ書いておきます。

 

『ハリスの旋風かぜ

とりあえず、『ハリスの旋風かぜ『夕やけ番長』など、「スポーツ万能の主人公が色々な競技をしていく漫画」の中で、「サッカー編」が描かれることはありました。

『ぼくら』1967年10月号の記事。当時、『ハリスの旋風』は大人気で、サッカー編でした

サッカー専門の漫画ではないのですが、サッカーを題材にした漫画で、早い時期に人気があったものだとは言えます。

 

『赤き血のイレブン』

そして、1969年から『週刊少年キング』に連載した『赤き血のイレブン』は、「サブマリンシュート」「ブーメランシュート」などの必殺シュートが出てくるサッカー漫画でした。

月曜の夜7時からテレビアニメも放送されて、

『近代映画』1970年5月号では、スポーツ漫画の新番組として、サッカーの『赤き血のイレブン』とボクシングの『あしたのジョー』を並べていました。

曰く、

このところ静かなブームをよんでいるサッカーですが、4月13日から始まる『赤き血のイレブン』はサッカーに情熱を傾ける少年たちの物語」

『近代映画』1970年5月号

とのことで、1970年当時、サッカーが静かなブームだったらしいです。

なお、この『赤き血のイレブン』には、美杉 純(みすぎ じゅん)というキャラクターも登場します。

赤き血のイレブンの「美杉 純」(少年キング 1970年23号)
キャプテン翼の「三杉 淳」(少年ジャンプ 1982年10号)

なお、『赤き血のイレブン』の美杉純も、こんなゴルゴみたいな顔で「美少年」という設定らしいです。

少年キング 1970年12号(美杉純の必殺技は「流星シュート」です)

 

『青春にキック!』

また、『小学五年生』1969年3月号~『小学六年性』1970年4月号には、横山まさみち先生の『青春にキック!』が連載。

第1話はこんな感じで……。

『小学五年生』1969年3月号

1ページ以上使って丁寧にトラップの説明から始めているのは、60年代っぽいかも知れません。

※この漫画、単行本が電子化されているのですが、連載の前半までしか収録されてなくて、後半は読めません。
(単行本は「日本一のチームをめざし いかに活躍していくか。青春にキック! 完」と終了。連載ではその後、日本一になるまでの話がありました)

 

『くたばれ!! 涙くん』

『週刊少年サンデー』でも、1969年7号~1970年45号に『くたばれ!! 涙くん』が連載。

週刊少年サンデー 1969年7号

『巨人の星』に対抗して、「マガジンが野球なら、サンデーはサッカーでいこう」という企画だったそうです。(武居俊樹『赤塚不二夫のことを書いたのだ!!』の証言)

これはネットで全話無料で読めるので、レトロ漫画が好きな方にはオススメしたいです。

ちょっとだけご紹介すると、この漫画、相手選手を踏み台にしてジャンプしたりするノリで……。

コイツが、いままで一度も失点したことがないというキーパー「ゼロの黒豹」さんです。

この「Vキャッチ」から得点しようと思ったら、死を覚悟する必要があります。

 

時代背景?

1968年10月、メキシコ五輪のサッカーで日本が銅メダルを獲得。
世間は大いに盛り上がり、7得点をあげた釜本選手は少年たちの憧れになりました。

さらに、『週刊少年マガジン』の野球漫画『巨人の星』が大ヒットしたので、他誌が「ならばこっちはサッカーで…」と企画したりして、

・1969年1月号から『とんから大将』(まんが王)
・1969年2月9日号から『くたばれ!! 涙くん』(少年サンデー)
・1969年3月号から『青春にキック!』(小学五年生→小学六年生)
・1969年5月号から『挑戦兄弟』(別冊少年マガジン)
・1969年9月号から『サッカー番長』(少年画報)
・1969年10月号から『サッカー野郎』(小学五年生)
・1970年2号から『赤き血のイレブン』(少年キング)
・1970年14号から『雲をけとばせ!』(少年チャンピオン)

など、サッカー漫画が一時的に増えました。

『雲をけとばせ!』(週刊少年チャンピオン 1970年23号)

そうして、1969~1970年ごろに、サッカー漫画の「静かなブーム」みたいなものがあったと言えそうです。

別マガ 1969年11月号/まんが王 1969年11月号/少年画報 1969年11号

しかし、ここから大きなヒット作は生まれず、1973年~1978年ごろは、サッカー漫画の新連載が少なくなります。

 

『ヘッド!牙』

てことで、ここからは『週刊少年ジャンプ』の話をいたします。

少年ジャンプでは、他誌より少し遅れた感じで、

週刊少年ジャンプ 1971年52号

1971年11月から『ヘッド!牙』という短期連載を載せました。

「サッカーの魅力が30ページにあふれる漫画」には見えない扉絵(53号)

※作者の望月三起也先生はサッカー狂の漫画家として有名で、80年代以降も『極道イレブン』『蹴球七日』『騒世記』といったサッカー漫画を描きました。

試合当日、主人公チームの主力6人が留置所に入っていて試合に出られないというピンチに。
しかし、そこから6人が留置場を脱走して試合に駆けつける! という感じの熱い漫画でした。

あと、相手チームは審判を買収していて……。

1972年2号

と、試合中に殴ったり蹴ったりしてくるのですが、主人公たちは、歯や肋骨を折られながらも、骨折した足でボールを蹴って勝利しました。

 

『ザ・キッカー』

さらに、『ヘッド! 牙』から半年ほど後、同じ作者(望月三起也先生)による『ザ・キッカー』という短期連載も載りました。

週刊少年ジャンプ 1972年32号

こちらは、実在の選手・菊川凱夫さんをモデルにした「川田菊一」が主人公のセミ・ドキュメンタリー。
(菊川選手の所属していた三菱重工業サッカー部などに取材して描いたそうです)

実話ベースなので『ヘッド! 牙』ほどハジけた内容ではないのですが、最終回でキーパーに殴られるのは同じでした。

1972年 38号

 

補足:単行本のこと

『ヘッド! 牙』『ザ・キッカー』のジャンプコミックスは出ませんでしたが、だいぶ後になって、ひばり書房からこの2作をまとめて収録した単行本が発売されました。

※Kindle版はなく、ebookjapanでだけ電子版が買えるタイプ

ただ、この単行本、雑誌掲載時は「チンポコすれすれ」だった台詞が「チンポコごしごし」に変わっているのが謎です。

ジャンプ 1972年32号 → 単行本

元々、「菊川選手がお風呂に入っていたら、祖父が風呂に突き立てた日本刀が、菊川選手のチンポコすれすれを通過した」という、理解しがたいシーンなのですが……。

「チンポコすれすれ」なら意味が通るところ、「チンポコごしごし」だと菊川選手が脈絡なくオナり始めたみたいで、修正の意図が分かりません。

 

『さよなら初恋さん』

それから、1972年48号には、平松伸二先生(新人)による『さよなら初恋さん』が掲載。

この読切には、のちの『キャプテン翼』の「スカイラブ・ハリケーン」に似た技が登場します。

さよなら初恋さん(1972年48号)
スカイラブ・ハリケーン(1984年18号)

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