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「妹ブーム」研究・その7(1997年ごろのエロゲ妹)

※2021年2月に書いたnote記事が公開停止になったため、問題があったと思われる箇所を修正して、無料記事として再公開いたします。
(連続した記事の一部なので公開停止のままにしておくわけにもいかず、このような措置とさせていただきました)

こちらの続きです。

 

1997年ごろの状況

1996年のエロゲの「兄妹」題材では、

実兄に犯されて精神を病んだ少女がメインヒロインの『雫』
・主人公が義妹といっしょに壊れていく『魔性の貌』(妹のお馬さんになるMエンド妹を犬にするSエンドの両対応)

など、まだダークなものが多かったです。

しかし、依然として人気の高い『同級生2』や家庭用ギャルゲーブームの影響から、エロゲ界全体が「最近の流行はダーク系ゲームから恋愛系ゲームに移行しつつある」(『イーログイン』1997年3月号)という流れになっていました。

そんなわけで、1997年ごろからは兄妹の関係も、『ときメモ』や『トゥルラブ』のような世界観の恋愛が中心になります。

 

『STARS』(97年3月)

『同級生』と似たシステム(マップから移動先を選んで女の子と会っていくタイプ)の恋愛ゲームで、攻略対象が16人もいるのが特徴。

そのうちの1人が実妹のひとみで、風邪で寝込んだ主人公に、口移しで水を飲ませてくれたりします。

妹の攻略には、食べたいものを聞かれたときに「ひとみが食べたい」と答えるのが正解で……。

この選択肢を選ぶと、数日後に、妹が自分を食べさせにやって来ます。

そうして、兄の寝るベッドに全裸で夜這ってきた実妹と本番H。
しかし、目覚めると妹の姿はなく、「痕跡もない?」「……夢? 夢だよな…? だけど…」「夢だっ! あれはきっと夢なんだっ!!」

と、夢オチの体裁になります。

(当時、エロゲの実妹セックス描写は全面禁止ではありませんでしたが、「近親相姦は妄想シーンのみ」「近親相姦は死亡ルートのみ」といったものが多かったです)

夢オチのあと、妹を「攻略」してもクリスマスを過ごすだけのラストで、恋人関係には発展しませんでした。
(このゲーム自体がそういうノリで、妹以外にも、エンディングを迎えても恋人にならないキャラは複数いました)

 

※『STARS』については、ネット上に「キャラが竹井正樹」と書かれることがあります(参考URL)。しかし、竹井先生の真筆には見えず、ゲーム内・パッケージ・説明書などに竹井先生のクレジットもありません。
(『メガストアギミックス』vol.5では「謎の女性原画家・水野なぎさ」とされております)

 

『メロディ』(97年3月)

『メロディ』は、システムやシナリオに凝っている恋愛ゲーム。
攻略対象の中に、小5から同居している異母妹の檸檬がいます。

しかし、この妹は序盤から「実は他人」という可能性が示唆されています。
彼女が血縁なのか非血縁なのかは、ゲーム進行によって変化するという仕様でした。

具体的には、選択肢を間違えなかった場合、幸運32、知力48、愛情1920以上で非血縁が確定します。

このゲームの主人公(と制作スタッフ)には、

・妹と血がつながっていなければ、恋人になれる(幸福)
妹と血がつながっていたら、恋人になれないしHもできない(不幸)

という前提があるようです。
なので、条件をクリアして、「血縁関係はなかった」と判明して恋人どうしになるのが成功ルートというゲームでした。

どちらのルートでも、妹本人は自分の素性を知っているという設定。
物語終盤では、事実を教えるから、その前に抱いてほしいとお願いされます。

という言葉を信じて、妹に挿入すると……。

知力48以上なら、非血縁が判明して結婚・妊娠エンド。
知力47以下なら、最高の笑顔でやっぱり実妹だと告げられて、近親相姦してしまったバッドエンドとなります。

※『PC Angel』1997年6月号の攻略では、知力32が必要と記載されていますが、正しくは48だと思われます。(32は、もっと前の段階の条件)

ともあれ、妹が血縁かどうかの分岐があるゲームとしては、これが最初期のものだと思います。

 

『グラフィティ』(97年7月)

マップから移動先を選ぶタイプの恋愛ゲームで、11人いる攻略対象のうち、1人が妹。

「ブラコンは勲章」

実妹だと思っていたら、物語終盤、輸血をきっかけに非血縁が判明。
それまで「血縁だから」と抑えていた気持ちを止められなくなって、できちゃった婚エンドという感じでした。

・『STARS』や『メロディ』のサイコ妹に比べると、『グラフィティ』の妹は、兄にベッタリのブラコンになるまでの境遇や回想の描写に、それなりに説得力がありました。

・『BUGBUG』1997年8月号では、このゲームについて「ブラコンの妹をかわしながら恋人を捜すのだ!」と紹介しています。

・後継作『Myfriends』には、「兄に失恋したあとの『グラフィティ』の妹」が攻略対象として出演して、他人の立場から彼女を攻略することができます。

 

「○○と思っていたら実は××」シリーズ

と、『STARS』『メロディ』『グラフティ』あたりを代表例に、1997年以降、「妹を攻略できる恋愛ゲーム」が激増しました。

それに伴って、いわゆる「義理オチ」のゲームも大量に発生します。

  • 『脳力者』(1997年5月)では、妹とセックスした後で、「やっぱり知らなかったのね」と、妹が戸籍謄本を取り出して非血縁が判明。

  • 『週刊フロムH』(1997年5月)でも、妹とのエッチ中に突然、「血が繋がってないもん」と明かされます。

  • 『さんしょくコロッケ』(1997年12月)は、主人公だけが非血縁だと知っているという逆パターンでした。

あと、特殊な例を挙げてみると……。

 

『RK』(1997年11月)

『RK(リバーシブルカルテ)』の主人公は、精神科医。
担当する患者のなかに、主人公を兄と誤認して、「お兄ちゃん」と慕ってくる対人認知障害の少女がいます。

ややマニア向けの設定

この子のルートに入ると、終盤で、実は本当に実妹だったと判明します。

よくあるやつ

 

『久遠』(1998年1月)

『久遠』には、主人公を「お兄ちゃん」と慕ってくる年下の女の子が登場。
それを攻略すると、終盤で突然「私ね、お兄ちゃんの妹なの…… 血は繋がってないけれど……」と告げられます。

つまり、「妹みたいな存在」だと思っていたら、実は本物の義妹だったというパターンでした。

どういう趣旨のサプライズなのかよく分からないのですが、「妹みたいな存在」から「義妹」にランクアップしたらしいです。

※「本物の義妹」……主人公が実家を出たあとに、主人公の実家に引き取られた少女という設定。

 

当時のエロゲの広告

と、色々なネタが出てくるくらい、1997年ごろのエロゲには、兄妹のエッチが増えました。
当時の広告を見ても、「兄」を強調するものが多くなっています。

「初めまして、親愛なるお従兄さま(オニイサマ)」

97年7月発売『誓いのエッセンス』

「兄が私をおもちゃにするの」

97年10月発売『解剖狂室』

「みんな お兄ちゃんの事が大好きなんだよ…」

97年7月発売『グラフィティ』

こういった広告は、鳴沢唯の流れから「お兄ちゃん」の需要が高くなったということで、90年代後半に増えたものと思われます。

 

『お兄ちゃんへ』(97年7月)

『お兄ちゃんへ』の登場

そんな雰囲気の中、1997年7月に『お兄ちゃんへ』が発売されました。

これまでは、メインヒロインが妹のゲームでも、タイトルは『淫従の堕天使』とかでした。

タイトルからひと目で「兄妹もの」と認知されたエロゲは、『お兄ちゃんへ』が最初だと言えると思います。

※『お兄ちゃんへ』と近い時期に、別のメーカーが『妹』というタイトルのエロゲの発売を予定していたのですが、発売されませんでした。

※1995年に『緋色の姉妹』が出ていますが、それは『愛姉妹』や『三姉妹』の系譜で、「兄妹もの」と認識されるタイトルではなかったと思います。

※同人ソフトでは、『妹/LOVELY SISTER』(1994年)、『いもうと~14歳の夏に~』(1995年)あたりからあります。

この『お兄ちゃんへ』が、発売時の月間売上ランキングで3位。
年間売上でも11位に入りました。
(『PC Angel』1997年10月号、『イーログイン』1999年2月号など)

元々は、1・2作目がイマイチだった新規ブランドの3作目。
ジャンル的にもそろそろ下火の「館もの」で、内容的にも特に優れていたわけではない作品……。

それがまあまあ売れたのは、「妹」の需要が高まっている時期に、タイトルが良かったのだと思われます。

※『お兄ちゃんへ 設定原画集』でも、社長・プログラマー・シナリオ担当者・音楽担当者が、売れた理由に「タイトル」を挙げています。

 

『お兄ちゃんへ』の詳細

『お兄ちゃんへ』には、義妹が3人も登場します。

・主人公の義妹(両想い)
主人公の父親の義妹(妹の片想い)
主人公のイトコの義妹(兄の片想い)

と、兄妹3組で両思い・片思いのパターンをコンプしていました。

「マルチシナリオ」で展開が変化するのですが、基本的に、義妹3人は全員各自の義兄を相手に処女喪失します。

※たとえば、「主人公の父親の義妹」はお兄ちゃんが大好きな36歳で、既婚の兄に迫ってセックスしたという猛者でした。

 

『お兄ちゃんへ』の妹

そして、「主人公の義妹」は、ゲーム冒頭で3年ぶりに兄と再会。

お兄ちゃんっ!? お兄ちゃん…。お兄ちゃんだ…。お兄ちゃんがいる! ああ…、お兄ちゃんの声だ。お兄ちゃんが呼んでるっ。お兄ちゃんが、琴美を呼んでるっ!! お兄ちゃん! お兄ちゃん! お兄ちゃんっ!! お兄ちゃんの声だ。お兄ちゃんの匂いだ。本物のお兄ちゃんだ」

と、ロリボイスで「お兄ちゃん」を連呼しながら抱きついてきて、プレイヤーをKOします。

ただ、「館もの」なので、この子も少しおかしいところがありました。

せっくすと唱えてお兄ちゃんを召喚

と、実はこのゲーム、ジャンルとしては「サスペンス」なのでした。

制作側は「横溝正史作品みたいなゲームを作りたかった」らしくて、最初から「妹属性」をターゲットに絞った企画ではなかったようです。

タイトルが『お兄ちゃんへ』で義妹が何人も出てくるのに、「妹ゲー」という主旨ではないのです。
これが「妹」の歴史を語る上で特筆する価値のある作品なのかは、すっごい微妙なところになります。

 

『お兄ちゃんへ』の良いところ

前述した『アラベスク』というエロゲ(1994年)では、次の会話がありました。

兄「もうこれからは、僕は君の義兄さんじゃない。君も、僕の大切な恋人の一人だ
妹「お‥‥お義兄さま」
兄「義兄さんじゃないよ……わかっ たね?」
妹「……はい」

このような「妹」か「恋人」かの二者択一というのは、わりと一般的な発想ではあるようです。

それで、『お兄ちゃんへ』のトゥルールートのラストシーンでも、兄が妹にこう聞くのですが……。

兄「俺と琴美は、本当の兄妹じゃないんだ…」
妹「そんなのやだよ。琴美は、お兄ちゃんの妹だよォ」
兄「いいかい、琴美。俺は琴美が好きだ。でも、兄妹は結婚できないんだ」
妹「じゃあ、琴美がお兄ちゃんの妹じゃなければ、お兄ちゃんのお嫁さんになれるの?
兄「ああ…。琴美は、どっちがいい?

それに対する、妹の答えは……。

この言葉を聞いた主人公は、「俺…、たぶん真実を見つけたよ…」と感動して、妹に愛を告げるのでした。

そう、『お兄ちゃんへ』をタイトル買いするような「妹属性」のユーザーの多くは、妹をやめて恋人になってほしいのではなく、妹と恋愛をしたいのでした。

にも関わらず、エロゲで妹を攻略したら、

・兄が「これからは兄妹ではなくて、恋人だ」などと言い出す
・妹が「これからは『お兄ちゃん』じゃなくて、名前で呼ばせてください」などと言い出す
本当の兄妹ではなかったことが判明してハッピーエンド

といったケースが、非常に多いです。

そんな中、『お兄ちゃんへ』というゲームは、「妹のままお嫁さんになりたい」と言い切った点で、特筆に値すると思っております。
(このエンディングだけで、私の中の『お兄ちゃんへ』の評価は意外と高くなっております)

 

『ナチュラル』の千歳

そんなこんなで……。
1997年には、完全に「妹に特化したエロゲ」はまだないのですが、ある程度「お兄ちゃん属性」を狙ったゲームは珍しくなかったです。

それをジャケ買い・メーカー買いでプレイしたユーザーが、新しく「お兄ちゃん」属性に目覚める、という循環も起こります。
特に、1998年2月に人気メーカーから発売された『ナチュラル』は、多くの人間を「お兄ちゃん属性」に転ばせた作品となりました。

これについては、いちおう以前のnoteに書いたので……。

今回は詳しく触れませんが、個人的には『ナチュラル』のポイントはボイスだと思っております。

というのも、『同級生2』の時代のエロゲは、まだボイスがないのが普通でした。
しかし、Windows95の発売後、CD-ROMで提供されるエロゲが徐々に増えていき、ボイスが付くのも普通になっていった……という時代背景があります。

その過渡期に発売されたのが『ナチュラル』でした。
だいぶボイスが当たり前になってきたけど、まだ音声なしの新作も出ていて……。なんというか、まだ現在ほど「エロゲボイス」が成熟していませんでした。

で、当時の感覚としては、『ナチュラル』のヒロイン・千歳を演じる声優さんは、独特の艶っぽさに抜きん出たものがありました。
そして、その声で「お兄ちゃん、大好きです」と告ってくるのが、異常に破壊力の高いエロ萌えボイスとなりました。

てことで、『ナチュラル』の千歳は、「お兄ちゃん」ボイスの威力で妹好きを増やしたと思っております。

千歳は、主人公の元カノの妹で、「かつて本当の妹のように思っていた少女」という設定。
義妹でもない微妙な立場で、「妹」に分類すべきではないと言われることもあるのですが、90年代妹ゲーの歴史上、おそらく「鳴沢唯・乃絵美・みさき」に次ぐ役割を果たしたのが千歳で、これをリスペクトしないのもおかしいと思います。

 

以下に続きます。(※上記の「乃絵美」については次項で触れます)


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