「妹ブーム」研究・その3(1994年ごろのエロゲ妹)
この記事の続きです。
1993年ごろのパソコン事情
ここまで、90年代序盤ごろの兄妹系エロゲを振り返ってみました。
オムニバスの中に「近親ネタ」はあるものの、即ヤって終わりという感じで、ストーリー性の高い兄妹の恋愛はないという感じです。
それには、当時のパソコンの事情も関係していました。
そもそも、最初期のエロゲが出たころのパソコンは複雑な処理が難しく、野球拳程度がやっとでした。
それから、パソコンの性能が上がるにつれて、エロゲでできることの幅がも広がっていきます。
そして、それなりにストーリー性の高いエロゲが多く出るようになるのは、1993年ごろでした。
「恋愛ゲーム」の登場(92~94年ごろ)
昔のエロゲでは、女の子が登場してからエッチに突入するまでの時間が異常に短いものが多く、「その辺の女の子を口説いて即ヤるだけ」の「ナンパゲーム」というジャンルがありました。
1992年12月の『同級生』は、さらなるナンパゲームの高みを目指して、「女の子と親しくなる過程のドラマ」を当時の限界まで作り込みました。
しかし、その結果完成したものは、もはや「ナンパ」の範疇を超えて「恋愛」と呼べるストーリーに昇華していました。
それが「恋愛ゲーム」の始祖となり、『ときメモ』などへつながります。
「マルチシナリオ」の普及(93~94年ごろ)
また、1992年ごろまでのエロゲのアドベンチャーゲームは「一本道のシナリオ」が多く、エンディングが少し分岐する程度でした。
しかし、『奈緒美』(93年7月)あたりから、進め方によってどんどんストーリーが分岐していく「マルチシナリオ」の概念が出現。
それを活用した『河原崎家の一族』(93年12月)のヒットを受けて、1994年からマルチシナリオのゲームが激増し、のちの『Kanon』などにもつながる流れになります。
1993年末~1994年の妹エロゲたち
「恋愛ゲーム」の登場が「妹」に影響するのは、1995年以降になります。
しかし、ストーリーに凝った「マルチシナリオ」のゲームが増えたことは、1994年ごろのエロゲ妹界隈に大きな影響を与えました。
以下、当時の「兄妹で肉体関係や恋愛感情のあるエロゲ」について、ざっと見てみると……。
『禁断の血族』(93年11月)
大学生の主人公が事故で両親を失い、養子縁組で大富豪の家に入るところから物語がスタート。
大富豪の館には5人姉妹がいて、主人公より年下の四女と五女が義妹ということになります。
ただ、この四女と五女、
といった描写が原因か、あまり「妹」っぽい感じはしません。
シナリオは完全に一本道で、主人公の本命は館のメイド。
最後は必ず主人公とメイドが結ばれ、5人姉妹は全員死ぬことになります。
このゲームはメイドさん一直線で、妹エンドなど存在しません。
妹は兄が好きなのに、兄は妹を恋愛対象として見ないのでした。
(セックスだけは何度もします)
『アラベスク』(94年4月)
お金持ちのK氏は、館に4~5人の愛人を囲っており、その全員を平等に愛しているという設定のゲーム。
その館に、K氏の義理の妹もいっしょに暮らしています。
妹もK氏のことが好きで、兄の愛人に葉っぱを食べさせたりしてイジメていました。
結局、妹もハーレムの仲間入をして、
「これからは、僕は君の義兄さんじゃない。君も、僕の大切な恋人の一人だ」
ということで、いちおう相思相愛になります。
ただ、このゲームは愛人視点で、兄妹の会話や交流の描写はほとんどなく、兄妹のHシーンもありません。
(兄が妹の乳首にピアス穴を開けるだけ)
メインヒロインは別の愛人で、展開は一本道なので、「兄妹もの」という感覚は薄いです。
『夢現(ゆめうつつ)』(94年7月)
全体的に作りが古いゲームで、そろそろ廃れつつあった「オムニバス形式」の残党。
主人公が眠るたびに、「教師と女生徒」「憧れの先輩」といった定番シチュの夢を見ていく……という形式で、その1本が「兄妹もの」でした。
『横浜(ベイシティ)エレジィ』(94年9月)
死んだ恋人の復讐のため、社長の愛人を抱いて情報を得たり、広域暴力団会長の孫娘をこましたりする物語。
主人公には血のつながらない義妹がいて、いろいろと助けてくれます。
例:アイドルのコンサートのチケットをダフ屋から9万円で買うのにお金が足りない主人公24歳が、大学生の妹に頭を下げると、「しょうがないなあ。はい、5万円」。
これもストーリーは一本道で、妹は兄が大好きですが、兄は最後まで昔の恋人が好き。
妹とエッチはするくせに、相思相愛になりません。
『マスカレード』(94年11月)
不思議な館に招かれた主人公が、朱の扉を開けると「メイドもの」、緑の扉を開けると「レズもの」のエロを幻視する……という設定。
当時のエロゲ雑誌のレビューでは、
という認識がコメントされています。
ともあれ、碧の扉を開けると、「親の再婚で義妹と義姉ができた」という話がスタート。
この妹は、「超マズい手作り弁当をニコニコしながら差し出す」「眠っている兄を体当たりで起こし、朝勃ちに気付いて赤面する」などのお約束を繰り出してきます。
オムニバスなのでストーリーは短く、「夜中に妹の部屋に忍び込む → 眠っている妹のパンツを脱がせる → 目が覚めて驚く妹に『好きだ!!』と言いながら抱きつく → エッチする → ハッピーエンド」という展開でした。
『雑音領域』(94年12月)
主人公が、義妹的存在の真理子といっしょに、謎の館に行く話。
そして、主人公は知らないのですが、謎の館では、主人公の生き別れの実妹が暮らしています。
物語は、真理子を助手席に乗せて車を運転している場面からスタート。
簡単に状況が説明されたところで、「赤い傘を持った女が、突然森の間から飛び出してきた」というメッセージが出ます。
ここで「ハンドルを切る」を選ぶと、真理子がフロントガラスに顔面をめりこませて死んでバッドエンド。
「クラクションを鳴らす」を選ぶと、まだ出会ってもいない実妹をひき殺してバッドエンド。
開始10分で妹を殺せるわけですが、正解は「ブレーキを踏む」でした。
そんな感じで、
など、多様すぎる妹バッドエンドが楽しめます。
流行のマルチシナリオで、主人公の死に様だけで12種類ほど用意されているのですが、両想いルートがあるのは、真理子と館のメイドだけ。
実妹に対しては、お尻にホイップクリームを浣腸して「俺に従順を誓え!」といったプレイはできるのですが、恋愛関係にはなれませんでした。
話の整理
……という感じで、1994年までの兄妹系エロゲを見てきました。
この時期は、次のような要素を持つADGが増えていました。
当時の流行は、閉鎖的な「館」を舞台にしたインモラルな話でした。
なので、その世界観的に、近親相姦や複雑な家族関係がなじみやすく、「義理の妹」に類するキャラが登場する機会も多くなりました。
そして、マルチシナリオならば、多数あるシナリオのひとつとして、妹との恋愛ルートが存在可能です。
しかも、オムニバス形式の短編と違って、ボリュームのあるストーリーで兄妹の恋愛を描くこともできます。
1994年までは、「妹とマルチシナリオが噛み合ったエロゲ」は登場しなかったのですが、これほど条件がそろえば、この流れから強力な妹ゲームが登場することは必然と言えたかも知れません。
以下に続きます。
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ちゆ12歳のオタク日記
芸歴20年、ネットアイドルちゆ12歳のエッセイです。サイトやツイッターに書けないこと、読んだ漫画のレビュー、アニメの感想、最近思ったこと、…
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