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住んでから,どうにかする。 【地方空き家サバイバル】

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ある30代男性は,ひとりで地方に移住することにした。 住む家は築50年くらいで,窓ガラスは割れ,カギもしまらない。 知り合いがいるわけでもなく,お金もなく,仕事もない。 さらには…
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#日記

地方移住を決断するまで

5年間,働いた会社を辞めたのは,虚無感に耐えれなかったからだ。この仕事に何の意味があるのか,誰の何に役立っているのか,そんな疑問を感じながら働くことは虚しかった。 仕事を辞め実家に戻った。早朝にスーパーで品出しのパートをし,午後は読書という生活を送った。コロナ禍の影響もあり,こんな生活を2年半も続けていた。品出しの仕事は,達成感や誰かの役にたっている実感があり楽しかった。どうやら,私にとっての報酬は,お金ではなく,達成感や有能感といった感情なんだと気づいた。 では,達成感

さらば家 【地方空き家サバイバル,32日目,2022/6/23(木)】

最後の朝。お気に入りの森のランニングコースを歩いた。走る元気はなかった。少し残った梱包作業を終わらせ。荷物の発送を見送った。 引っ越しはこれまで何度かあった。その度に,使えるモノを処分していた。送料が高いし,梱包作業が面倒だからだ。そんな私にとって,祖父母の遺品を処分する日々は,いいお灸になった。もうゴミを捨てるのはウンザリだ。いままでだったら処分しているモノを梱包して,実家に送った。 2ヶ月に1度しかない金属家電ゴミの回収には,間に合わなかった。その日のために,外にま

人を知る 【地方空き家サバイバル,31日目,2022/6/22(水)】

この地から出ていく段取りは,すぐに終わった。来るまでの段取りの,1000分の1くらいに感じた。生活用品の配送,飛行機,電気,水道の停止,といった手配は,あっという間に終わった。この地を離れるのは,明日の夕方になった。 その後は,あいさつまわり。畑を貸してくれた人に事情を説明した。畑を中途半端に投げ出すことになったが,嫌そうな顔ひとつせず,むしろ今後のことを応援してくれた。この人だけでなく,あいさつにいった人たちはみんな,今後のことを応援してくれた。やりたいことだけやって,

睡眠を求め,思い出の旅館へ 【地方空き家サバイバル,30日目,2022/6/21(火)】

生活の破綻に気づいたのは突然だった。毎朝しんどかったが、全然いけると思っていた。作業を始めてしまえば、しんどさはどこかへ消えた。 2日前,散髪と図書館のために家を出た。作業から解放された脳が少しずつ状況を整理したようだ。散髪を終え,図書館でこれから読む本を借り,帰ろうとしたとき。ふと思った。今の生活は持続可能か。そこからの検証作業はつらかった。ひとつわかったのは、この家には住めないこと。 国道からの騒音により起きた,睡眠障害。今後のことを考えたいが,頭がボヤケて考えられな

手洗いと草マルチ 【地方空き家サバイバル,28日目,2022/6/19(日)】

移住して4週間たった。まだ洗濯機は買ってない。置く場所が定まらないのと,手洗いに可能性を感じるからだ。今は週2回ほど手洗いしている。手洗いの課題は、すすぎと脱水。すすぎは,バケツとタライの導入で効率が跳ね上がった。だが、まだまだ石鹸カスが残る。脱水は手つかず。腕力で絞っている。何かスマートな方法を考案したい。 そんな私の,手洗い生活28日目を記す。 やったこと今日やったことは,以下のとおり。 ・庭のゴミの発掘 ・畑に草マルチ ・洗濯(手洗い) 草は草で制せるかこれからは

眠れぬ家は持続不可能 【地方空き家サバイバル,29日目,2022/6/20(月)】

残念だが,この面白い家での生活は続けられないようだ。すぐ横を通る国道からの騒音のため,よく眠れないのだ。 朝起きたとき,眠いのがこれほどつらいとは知らなかった。移住初日から眠れぬ日々を過ごしてきた。原因は,家のすぐ脇を通る国道である。地方の森に住んでいるのに,車の騒音で眠れぬ日々を過ごすことになるとは。車通りの激しい国道で,一日中10tトラックがバシバシと風圧で家を叩きながら通っていく。 これから,家の問題を自分でなんとかしていこうと思っていた。しかし,この騒音問題は自分

活力を上げるもの,下げるもの 【地方空き家サバイバル,27日目,2022/6/18(土)】

私は自分の行動を記録している。いつ,どこで,なにをしたのか。そして,その行動後にどんな状態になったか。とくに重視しているのが,活力が上がるか,下がるか。例えば,私にとってランニングや読書は活力が上がること。一方で,買い物や事務手続きは活力が下がり消耗する。このように,行動後の活力を基準に,自分という謎の生き物の性質を把握しようとしている。 今日は,庭に埋められたゴミの発掘作業を行った。樹脂やガラスのような土に還らないモノを拾いあげるたびに,活力が奪われていくのを感じた。自然

野菜への信頼を育む 【地方空き家サバイバル,26日目,2022/6/17(金)】

種をまき,ほっとする。芽が出て,またほっとする。家庭菜園ビギナーの私にとって,種という小さな粒が野菜に化けるのは信じがたい。ひとつひとつ自分の目で確認しながら,野菜との信頼関係を築こうとしている。 今日は,種をたくさんまき,苗をたくさん植えた。インゲン,ラッカセイ,エンサイ,オカヒジキ,サニーレタス,バジル,エダマメ,モロヘイヤ。これらの野菜はどのような生育を見せてくれるのか。雑草まじりの未熟な土という,過酷な環境で。 だいたい種まきは終わった。これからの1ヶ月は雑草との

観光の反意語 【地方空き家サバイバル,24日目,2022/6/15(水)】

観光の反対の意味をもつ言葉はなんだろう。今私がやっていることは観光の真逆のことだと思う。 私が思う観光とは,トラブルが起きないように整備され保障された旅のこと。個人的には退屈に感じる。何の保障もない地に自己責任で乗り込み,トラブルは現地人に尋ねて解決していく旅のほうが好きだ。一つ一つ自分で判断して,成功と失敗を体に刻みつけていく。整備や保障の不備に怒る旅より,トラブルを解決したときの達成感や有能感を味わえる旅。思わぬ助けに感謝できる旅。そんな旅が好きだ。 いろんな場所が,

嫌なのは最初だけ 【地方空き家サバイバル,23日目,2022/6/14(火)】

脳の学習能力はすごい。良いことも悪いことも,すぐに色あせる。そんなことを,日々実感している。主に,悪いことからだけど。 今日は,キッチンの水漏れの原因を調べた。キッチンの棚ごと取り外してみたが,そこには最悪の光景がひろがっていた。うごめくGたちと積年の汚れだ。とはいえ,こんなこと,この家に来て何度目のことだか。もう慣れてしまっている。掃除の邪魔をしてくるGたちを潰しながら,ゴミを取り除いていった。 この家に来て,嫌だと感じることは結構あったが,どれも慣れた。ハエのたかるト

ワイルドな遊び場 【地方空き家サバイバル,22日目,2022/6/13(月)】

今日は,庭の畑に畝をたてた。畝立て作業は,楽しい。子供の頃,砂場で街を作ったことを思い出す。道路や川をつくる気分で,通路の土をすくい,畝に土を盛っていく。ここはサトイモ,ここはホウレンソウ,と区画をくぎっていく。3×3mくらいの小さな畑なので,1時間くらいで終わった。楽しい範囲で終わるのが,家庭菜園のいいところだと感じた。 近所をうろつくと,家庭菜園をやっている畑をたくさん目にする。それぞれの人が思い思いの畝をたて,野菜の街をつくっている。支柱のたて方,ネットのはり方など,

遺品が伝えるもの 【地方空き家サバイバル,21日目,2022/6/12(日)】

30年放置された祖父母の遺品たちが,モノとのつきあい方を見直すきっかけを与えてくれた。 今日は,地下室の掃除をした。ここには大量の生活用品が放置されていた。おそらく30年前以上前のもの。食器,ふとん,洗剤,ボンド,電気ヒーター,こたつ,ホットプレート,靴,傘,木製家具などなど。 これらの製品で,私が再利用できそうなものは5%くらいだった。あとの95%はゴミになっていた。電化製品は,私では状態確認ができないため,すべてゴミ。服や靴などは繊維の劣化が顕著でゴミ。また樹脂製品は

孤独な歩道利用者 【地方空き家サバイバル,20日目,2022/6/11(土)】

地方に移住して約3週間がたった。車を持っていないため,移動は自転車か歩きである。車通りの激しい国道で1人,歩道を利用している。たまにすれ違うのは,下校中の小学生や中学生。なにかおかしい。歩道の利用者が少なすぎる。 ここは島根の西部,土地の8割を森林が占めている。住人の主な移動手段は車。バスも鉄道もあるが,ほぼ学生しか使わないため,最近赤字路線として,JR西日本が公表した。歩道の利用者は,学生か私。高齢者は,免許を剥奪されることを恐れている。現状,私がわかったのはここまで。

レジ打ちと対人不安 【地方空き家サバイバル,19日目,2022/6/10(金)】

今日は,ホームセンターでレジ打ちのパート。島根に移住してから,最もたくさんの人と接した日だった。独り身なので,誰とも話さない日もある。近所の人は積極的にからみに来てくれるが,それでも,誰も来ない日もある。 レジ打ちの仕事は,人と接する機会を持てて良いのかも知れない。というのも,コロナ禍で家に引きこもっているとき,じゃっかん対人不安が強くなった経験があるからだ。そのときは,何をされるわけでもないのに,周りに人がいるのが嫌だった。気になり,『社交不安障害』という本を読んでみた。