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リニアより大切なもの。

 静岡県の川勝知事が任期途中で辞任することになりました。きっかけとしては、この4月に新たに県職員になった人たちの前で、「あなたたちは、農林水産業をしている人たちとは違うんです。」と言ったことが農林水産業従事者から批判を受けたからということになっていますが、実際は、その直前に、JR東海が進めていたリニア新幹線が2027年に開業することを諦めたという発表をしたことが影響していると、川勝知事自身が辞任会見で述べています。
 川勝知事が知事として県内のリニア工事を認めないことが、リニア工事の障害となって、完成に時間がかかっているといわれています。

 知事が県内のリニア工事を認めない理由として、トンネル工事に伴って大井川の水量が少なくなり、地域の農業などに影響が出るからということになっていますが、それは表向きの理由です。本当は、静岡県内にのぞみが止まらないことに対する静岡県の抵抗が今回の事態に至っているです。新幹線の線路の真上に、羽田や関西の空港とは距離的に就航便を出せない富士山静岡空港を建設したのは、そんなJR東海への当てつけとしか思えません。これは川勝氏個人の問題ではなく、静岡県側が今までJR東海と戦ってきた歴史でもあります。JR東海は在来線においても、東海道本線では未だに快速電車が走っていないなど、静岡県内を冷遇しています。(そもそもJR東海が在来線を冷遇するのは静岡に限った話ではないのですが)
 知事は県民によって選ばれる県民の代表です。JR東海が静岡県民に対してこのような仕打ちを続ける限り、静岡県民のJR東海への感情は変わることがなく、おそらくリニア推進を政策として知事の選挙で掲げると、その候補は支持されないと思います。
 そもそもリニア新幹線が必要かということを考えていかなければなりません。関西から東京方面に行くとき、また東京から関西方面へ行くとき、そのハイライトの1つが、車窓から見える富士山です。観光目的で新幹線に乗る人はもちろん、そうでない人も、その時だけは富士山を見るという場面があると思います。リニアの場合は、それがありません。ほとんどが地下を通るので、景色を見るという場面すらありません。飛行機ですら窓から外を見ると、雲の下に風景を見ることができますが、それすらありません。最初は物珍しさでお客さんを集めることができるかもしれませんが、そうではなくなると、ただ速いだけのつまらない乗り物になる可能性があります。
 それに、現在リニア新幹線が開通を予定しているのは東京から名古屋までなので、それより遠く、例えば関西方面に行きたい人はリニアには乗りません。名古屋駅で乗り換えが必要になるので、乗り換えの必要がない新幹線や飛行機を選びます。ということは、リニア新幹線が開通してメリットがあるのは、名古屋の人だけということになります。リニア新幹線ができると、途中駅ができるといわれている、山梨県や長野県南部や岐阜県東部の人には悪いですが、いかに速く東京と名古屋を結ぶかというリニア新幹線のそもそもの目的に照らし合わせると、そのような駅に止まっている暇はないのです。途中駅に停まるぐらいなら新幹線で十分です。これで東京と短時間で結ばれるとか、そんな都合のいい話はありません。むしろそれがあったとしても、東京への流出がさらに進むだけです。諦めましょう。
 そもそも、リモートでなんでもできるようになってきた時代に、そこまで移動に対する需要が高いのかについては疑問があります。観光や冠婚葬祭なら、現地に行かないと意味がないのは分かりますが、それ以外の場面では、わざわざ移動しなくてもできることは増えてきました。人の移動に関わる仕事をしている以上、そういうことを考えたくないのは分かりますが、時代の趨勢を読み解くには社会人として最低限の責務です。
 それから、リニア新幹線の建設には大量の人や資材が必要ですが、建設業界は人手不足業界の1つです。なぜ人手不足なのかというと、いわゆるキツイ・キタナイ・キケンの3K職場といわれているからです。さらに今年4月からは、いわゆる働き方改革推進ということで残業時間の規制が始まり、建設業もその1つに加えられました。この限られた建設業のリソースをどこにつぎ込むべきかというと、新しい何かを1から作るより、既存の物件をいかに維持保存していくかということの方が重要です。さらに、能登半島では地震があって、これから復興していかなければなりません。東北の震災も未だ復興半ばです。大阪万博にしてもそうですが、とても優先度が高い事業とは思えません。それに、仮にできたとしても、どうやって運転手を確保するのか。あのような高速で移動する物体を、安全に操縦するスキルを一朝一夕に身につけられるものなのか、甚だ疑問です。
 鉄道はインフラ業であることを、忘れてはなりません。そもそも国鉄が分割民営化したときに、NTTは東日本と西日本に分かれただけですが、JRは北海道、東日本、東海、西日本、四国、九州の6つに分かれました。当時強かった労働組合を分断するためにここまで細かくしたともいわれていますが、それは本末転倒な議論です。インフラ業であるならば、東京と四国では同じレベルのサービスを受けられなければなりません。それは別に四国でも山手線と同じ頻度で電車を走らせろという意味ではありませんが、四国では未だにICカードも使えず、電車すら走っていない(ここでいう「電車」とは電気を使って走る鉄道のことであって、それ以外の鉄道は走っています)のはインフラ業としてどうなのかということを言っています。(そもそもなぜ西日本から四国だけ分離したのかというのも気になります。)北海道などでは、廃線の議論も盛んにおこなわれています。そんな中、JR東海だけはリニア新幹線を建設しようと前のめりになっているのはいかがなものかと思うわけです。リニア新幹線は国の事業ではなく、JR東海の独自事業とされているだけに、余計にそう思います。
 JRの発足当時は認められていませんでしたが、今は持ち株会社というものが認められています。JR各社における収益の格差を是正し、全国一律のサービスを実現するため、そういうことも考えていった方がいいのではないかと思います。地方における鉄道の惨状を考えると、リニアとか言って浮かれている場合ではないと思います。

※今週のカバー画像。やっぱりリニアといえばPerfumeの「リニアモーターガール」でしょ。この曲、発売が2005年ということで、もう19年も前になるんですね。
 


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