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「心のうちで有難いと恩に着るのは銭金で買える返礼じゃない」

■夏目漱石『坊っちゃん』

他人から恵を受けて、だまっているのは向うを一と角の人間と見立てて、その人間に対する厚意の所作だ。割前を出せばそれだけの事で済むところを、心のうちで有難いと恩に着るのは銭金で買える返礼じゃない。(P.72)

漱石先生の文章の上手さ、リズム感がすごい。これ、一週間で書いたというから驚愕です……

個人的には『こゝろ』のほうが好きだけど(やっぱり文学は悲劇に限る!というのが私見)、面白いし笑えてスカッとする物語、さすが。

冒頭の引用が一番好きでした。この話、なるほどなぁと胸に刻みました。

ちょっといま分析して文章を書く気力がないので、引用をいくつか載せて終わりします。


考えてみると世間の大部分の人はわるくなることを奨励している様に思う。わるくならなければ社会に成功はしないものと信じているらしい。たまに正直な純粋な人を見ると、坊っちゃんだの小僧だのと難癖をつけて軽蔑する。それじゃ小学校や中学校で嘘をつくな、正直にしろと倫理の先生が教えない方がいい。いっそ思い切って学校で嘘をつく法とか、人を信じない術とか、人を乗せる策を教授する方が、世の為にも当人の為にもなるだろう。(P.68)
おれが何か云いさえすれば笑う。つまらん奴等だ。貴様等これ程自分のわるい事を公けにわるかったと断言出来るか、出来ないから笑うんだろう。(P.88)
議論のいい人が善人とはきまらない。遣り込められる方が悪人とは限らない。表向は赤シャツの方が重々尤もだが、表向がいくら立派だって、腹の中まで惚れさせる訳には行かない。(P.125)




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