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【読書】のマガジン

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2020年8月の記事一覧

「若くて美しいというのは、罪なことです」

■アガサ・クリスティー『ゴルフ場殺人事件』(最下部にネタバレあり) 「無分別もいいところだが、それはきっと若くて、美しい女性なんでしょうな。若くて美しいというのは、罪なことです」(P.159) 『スタイルズ荘の怪事件』に次ぐ、ポアロシリーズの二作目。 ある意味でとてもミステリーらしく、同時にとても物語らしい。ミステリーが好き!……というわけでは“ない”人にとって、読みやすい小説だと思う。 この頃のクリスティはまだ、ホームズとワトスンを意識しているような気がする。ポアロ

「心のうちで有難いと恩に着るのは銭金で買える返礼じゃない」

■夏目漱石『坊っちゃん』 他人から恵を受けて、だまっているのは向うを一と角の人間と見立てて、その人間に対する厚意の所作だ。割前を出せばそれだけの事で済むところを、心のうちで有難いと恩に着るのは銭金で買える返礼じゃない。(P.72) 漱石先生の文章の上手さ、リズム感がすごい。これ、一週間で書いたというから驚愕です…… 個人的には『こゝろ』のほうが好きだけど(やっぱり文学は悲劇に限る!というのが私見)、面白いし笑えてスカッとする物語、さすが。 冒頭の引用が一番好きでした。

ミステリーと冒険譚、最後にして最高の出会い

■アーサー・コナン・ドイル『恐怖の谷』 ホームズシリーズの長編4作のうち、個人的にはこの『恐怖の谷』が紛れもなく最高の出来だと思った。 ホームズを読むといつも感じる。言語化できる教訓めいたもの──つまり一般的に「哲学」と呼ばれるような内容があまりなく、それでいて単純に、ものすごく面白いのだ。 長編1作目『緋色の研究』でとられたような二部構成。第一部はホームズが殺人事件に立ち向かい、第二部は過去に遡る、という構成自体はほぼ一緒。 しかしまぁ……『緋色の研究』の時にも思っ