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【読書】のマガジン

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2020年1月の記事一覧

フェアかアンフェアか?

■アガサ・クリスティー『アクロイド殺し』(ネタバレあり) 「先生、こうした事件に何度もぶつかっていると、あなたにもおいおいわかりますよ。どの事件も、ひとつの点で似ていることにね」 「どういう点ですか?」わたしは興味をそそられてたずねた。 「関係者全員が、何か隠しているということです」(P.137) ※物語の性質上、ネタバレを避けられませんので、まだ読んでいないかたはご注意を。 ☆ 「フェアかアンフェアか」と議論を巻き起こした……と話題の一冊。前情報があったおかげで、隠

論理的推理の魅力

■エラリー・クイーン『Xの悲劇』 「あいにく、わたしたちの相手は想像力に欠けた司法なのです。司法は確たる物証を求めてくるのですよ。ご助力願えますか」(P.201) 初めてのエラリー・クイーン。 クイーンのデビュー作は『ローマ帽子の謎(The Roman Hat Mystery)』。そこから始まる「国名シリーズ」では、作者と同名のエラリー・クイーンという探偵が登場する。 一方、この『Xの悲劇(The Tragedy of X)』で始まる「レーン四部作」に登場する探偵はド

「恋は画家で、相手は画布だ」

■武者小路実篤『友情』 「男と女はそう融通のきかないものではないよ。皆、自分のうちに夢中になる性質をもっているのだ。相手はその幻影をぶちこわさないだけの資格さえもっていればいいのだ。恋は画家で、相手は画布だ。恋するものの天才の如何が、画布の上に現れるのだ。(略)恋が盲目と云うのは、相手を自分の都合のいいように見すぎることを意味するのだ。相手はそう唯一と云うことはないのだ。その人にめぐりあわなければ恋は生じないときまったものじゃない」(P.31) エラリー・クイーンを読んで

精神的疲労を連れてくる傑作集

■エドガー・アラン・ポー『ポオ小説全集 3』 「赤死病」が国じゅうを荒らすのも、すでに久しいこととなった。これほど助かるすべもない、おそろしい疫病もこれまでにはないことだった。(P.121) ポ―ほど面白い物語を書く小説家にはなかなか出会えないのに、なぜ彼の著作はまともにまとめられもせず、この古めかしい状態(半世紀前から更新されていない)でしか手に入らないのだろう? (追記:新潮社から10年ほど前の新訳が出ていますがレビューが良くないので購入はためらいます) 有名どこ

ホームズの恋?

■アーサー・コナン・ドイル『シャーロック・ホームズの冒険』 シャーロック・ホームズは彼女のことをいつでも「あの女(ひと)」とだけいう。ほかの名で呼ぶのを、ついぞ聞いたことがない。彼の視野のなかでは、彼女が女性の全体を覆い隠しているから、女といえば、すぐに彼女を思いだすことになるのだ。(P.7) 「あの女(ひと)」の話、『ボヘミアの醜聞』でこの一冊は幕を開ける。 ホームズがアイリーン・アドラーに抱いた感情は恋愛感情ではない。と、冒頭でワトソンがわざわざ断っている。だがしか

カウントダウン・サスペンス

■ウィリアム・アイリッシュ『幻の女』 「自分の命がかかっているというのに、きみが持ち出すのは、ふたつの名詞と、ひとつの修飾語だけだ。“女”、“帽子”、“風変わりな”」(P.119) 今まできちんと区別もできず使っていた「ミステリー」と「サスペンス」、というジャンルを初めて意識したように思う。 この作品はよくできた「ミステリー」であると同時に、よくできた「サスペンス」でもある、と思った。刻一刻と迫りくるタイムリミット、忍び寄る足音……そういうハラハラを味わった。 うーん

『ボヘミアの醜聞』ではじまるその一冊は妙に手の中に重く、読みたいけれど読むのが勿体ない、こんな感情は初めて抱く。 「新潮文庫ではいくつかの短編が編集の都合で割愛され…」 そんなのどうだってよくない? と思っていたのがつい先日のこと、今では大きな問題に思えてしまって笑える。

「ホーム」のあたたかさ

■アーサー・コナン・ドイル『四つの署名』 「僕は何かしら頭を働かせる問題なしじゃ生きていられない。考えること、それをのぞいてどこに人生の意義があるというのだ?」(P.16) 「犯人を当てること」にこそ、ミステリーの醍醐味があるのだと思っていた。 でも、ホームズシリーズを読んでその常識が覆された。犯人の名前は早々にホームズが喋ってしまったりするからだ。さらに犯行の方法も、推理も、そこまで緻密にこしらえている感じではない(ホームズの能力が超人的すぎる感も若干あったり)。

ポーが詩に描こうとした美

■エドガー・アラン・ポー『ポオ 誌と詩論』 ぼくなら手始めに効果を考える。独創的であることを絶えず念頭に置きながら―この明らかに容易に得られる興味の源泉を和えて無視するのは自己欺瞞である―まず最初にぼくは、「感情や知性、(更に一般的には)魂が感受する無数の効果や印象の中から、今の場合はどれを選んだものだろうか」と自問する。(P.221) ※今日はミステリーの話ではないし、ちょっと小難しい話です。 詩という表現にこれまでほとんど触れたことがないので、前半の詩に関しては評価

「なにもオリエント急行のなかで殺されなくたっていいのに」

■アガサ・クリスティー『オリエント急行殺人事件』(若干ネタバレあり) 「それにしたって、なにもオリエント急行のなかで殺されなくたっていいのに。ほかにいくらでも場所があるでしょうが」(P.118) 『ロング・グッドバイ』『モルグ街の殺人』に続いて、これもオチを知っていて読んだミステリーの一つ。 つくづく思うけど、ミステリーはオチを知らないほうがいい(当たり前か)!でも、オチを知っていながらもラストには少しウルっときた。 「嘘つき問題」というものを作ろうと試みたことがある

ホームズとワトスン

■アーサー・コナン・ドイル『緋色の研究』 いったい不思議と神秘とを混同するのはまちがっている。もっとも平凡な犯罪が最も神秘的に見えるものです。つまり、推理を引き出すべき斬新な、または特殊な材料が見あたらないがためです。(P.99) 初めてのコナン・ドイル。順番通りに読むとよいそうなので、ちゃんと調べて買いました。 新潮文庫と光文社文庫で迷ったけど、昔から新潮文庫推し(笑)なのと、表紙のデザインがかっこいい……という不純な動機で、新潮文庫に(常日頃からジャケ買いをします)

描写の上手さに圧倒される

■レイモンド・チャンドラー『さよなら、愛しい人』 突然訪れた沈黙は水浸しになったボートのように重かった。いくつもの目が我々を見つめた。それらの栗色の目は、ねずみ色から漆黒のあいだのどこかにあてはまる色合いの顔面におさまっていた。首がゆっくりと曲げられ、瞳がきらりと光り、こちらを凝視した。異なった人種に対する反感がもたらす、痛いほどの沈黙がそこにはあった。(P.11) 「いいものを見せてもらった」 と、よくどこかのおじいさんが言って去っていくけれど(一体なんのイメージだろ

一度だけ無知で楽しめる

■アガサ・クリスティー『そして誰もいなくなった』 面白く、数時間で一気に読めた。 謎解きをしていて我慢できずにヒントや答えを見てしまった時の「なぜわからなかったのだろう?」という自分への失望。に似たものを結末で感じた。 真実は単純な場所にある、とこれまでいろんな作品で言われてきたはずなのに(ポアロもデュパンも)、なぜ忘れて取り込まれてしまうのだろうなぁ。いつもいつもまっすぐ見ているつもりが、物語が進むにつれて次第に目を逸らされてしまう。 そんなもどかしさ……。もう二度

世界初の探偵は曲者だった?

■エドガー・アラン・ポー『ポー名作集』 「真理はかならずしも、井戸の底にあるわけじゃない。それに、真理よりももっと大切な知識ということになると、こいつは常に表面的なものだとぼくは信じるな。深さがあるのは、ぼくたちが真理とか知識とかを探す谷間のほうなんで、それをみつけることができる山頂には、深さなんてない」(P.31) アガサ・クリスティー、レイモンド・チャンドラーときたミステリーの旅、3人目はエドガー・アラン・ポー。 ポアロ、マーロウときたからにはデュパン……と言いたい