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泊まれる演劇への参加機会をこれまで3年間も逃してきたみんなへ

泊まれる演劇『雨と花束』が、2023/7/31をもって全公演終了となりました。

私は7/22-23の回に参加してきたので、その感想をここに記していきます。


Q.泊まれる演劇ってなあに

公式サイトには「宿泊型イマーシブシアター」「革新的な宿泊体験」などと書かれていて、「つまりなんなんだ」ということになるわけですが。

まずこの「イマーシブシアター」は、おそらく今後どんどん注目が集まっていく言葉だと思うので、今のうちに覚えておいて損はないはず。
今のところは「体験型演劇作品」と訳されるらしく、要はお客さん方も大人しく座って観てないで参加してくださいと、そういう趣向を持つ演劇のことを指すようです。immersive=没入感のある、theater=演劇。

その内容は公演によって様々で、リアル脱出ゲームに近いような謎解きメインのものもありますし、演劇に登場するキャストたちの人間性の方に焦点を当てたものもあり、多様です。参加者が主人公となってグイグイ場を動かすのか、モブとなって世界をひたすらに観測するのか、それもまた多様です。

その中でも私が参加した「泊まれる演劇」は、ホテルまるまる一棟を貸し切ってイマーシブシアターを上映するという思い切った方針をとっています。
夜中から始まり、ホテル内を歩き回って、宿泊者たちと会話をして、時にロビーへ集められて大きく場面が動き、浸り、いつのまにか0時を越え、みんなそのまま各部屋に一泊して、翌朝を迎えます。
寝ても覚めても、そこはある種ずっと舞台の上である、というあたりがこの公演の大きなミソだと感じました。あの夜~朝における私は間違いなくチビではなくアヤメであり(後述します)、登場人物たちは今もどこかでそれぞれの道を歩んでいるのです。

Q.そんなのどうやって見つけたの

今年に入ってから、品田遊(ダ・ヴィンチ・恐山)氏のnoteの定期購読を始めました。それで過去の日記を片っ端から読み漁っていたところ、2021年12月10日の内容に目が留まりました。

「すっっごかった。」以降は有料部分なので紹介が難しいですが、とにかくいかにイマーシブシアターが新感覚で、情報量が多く、一つの世界として確かに存在しているか、ということについて書かれていました。スゲェ!と思いました。演劇もすごいし、まんまと行きたくなる感想を書く氏もすごい。

しかし、この日記内で紹介されているDAZZLEさんの常設公演は、お台場ヴィーナスフォートの閉館に伴ってすでに終了してしまっていました(現在は白金で別の公演が始まっています)。ならば他のものをと検索してたどり着いた第2の選択肢が「泊まれる演劇」だったと、そういうことです。

Q.演劇に詳しいの/不安はなかったの

ぜ~~んぜん詳しくないし、めちゃめちゃめちゃめちゃ不安でした。だってなんにもわからんから。
どんな内容なのか全貌が見えない上に、参加済の方々もネタバレ防止のためきちんと情報を伏せていらっしゃって、どういう心持ちや服装で参加すれば浮かずに済むのかがわからず心臓バックバクでした。「これから演劇に参加する」ということしか決まっていない予定、怖くないですか?
急にアドリブでセリフを求められたらパニックになるだろうなとか、そういうことをずっと考えながら会場のホテルに行きました。観劇経験は劇団四季を2回だけとか、そんな感じです。

でも、特に問題はありませんでした。いやもしかしたらあったかもしれませんが、没入を保ったままそれとなくストーリー上へ誘導する仕組みがかなり緻密に設計されていて、全体的に初心者に優しいつくりになっていました。

いつもよりちょっと人の話をよく聞いて、これだけはダメだと言われたことさえ守れれば、誰でも容易に参加できると思います。なにより役者の方々の「世界力」みたいなものがすごくて、ぽつりぽつりとお話していくうちに勝手に物語の内部へ引き込まれていくので、あとは身をゆだねるのが吉。

ところで私は単独ではなく大学時代の友人と二人で参加したのですが、私から「イマーシブシアター見に行くべ」とだけ言われて「おもしろそ~~」と二つ返事でOKしてくれた友人の順応力が一番すごいと思っています。
彼女の同行なくしては成し遂げられなかった観劇ですので、銅像を作って家の前に建てようと思います。ありがとう。

Q.それで率直な感想は

本当に、面白く、切なく、味わい深く、愛おしく、衝撃的で、手に汗握る、それはもう最高のエンターテイメントでした。
ジャンルで言うなら、サスペンス・ヒューマンドラマ・ミステリー・恋愛・ホラー・アート・コメディーみたいな感じです。ごった煮だぁ!!

すごかった。泣いた。微笑んだし泣いた。感情の動きの絶対量が大きかったです。そしてそのすごさに触れれば触れるほど、「こんなことが京都や大阪の片隅で行われてきたのか……?」「これまでの3年間、これを目撃してこなかった私って一体……?」という気持ちになりました。
だからこの感想文のタイトルも煽りのようになってしまったんですね。圧倒的にもったいなかったなという実感を込めてね。

これまで逃してきた公演の分、これからの公演に全力を注いでいこうという気概に私は燃えています。ただ夏の京都は暑すぎるということがわかったので、時期を考慮しつつ。



ということで、次、決まっています。

なぜ私が7月に行われた公演の感想を10月の今に書いているかというと、次の公演のチケット最速抽選を待っていたからです。万が一、億が一、この感想を読んで「自分も次のやつ行こっかな」という人が続出してしまったら、私の分がなくなるじゃないですか。それは困ります。

もう無事にチケットは取れましたので、安心してご紹介できますね。
次の公演のテーマはなんと「学園モノ」×「不思議な力」。3つの寮に分かれ、模擬授業を受けられるそうです。そしてそこに忍び寄る不穏な影……

どうですか。脳内にホグワーツのテーマが流れてきませんか。
ぜひ一緒に目撃しましょう、冬の大阪で。
最速抽選は終わったので、皆さんは一般で買ってください。


公演中の思い出

ストーリー全てを書こうとは思いませんので、思い出に残っている場面を少しだけ。雰囲気が伝わればいいなと願います。

アヤメとモクレン

エントランスの幕をくぐるとすぐに、コンシェルジュの方から公演についての説明があった。公演中は決して本当の名前を名乗ってはいけないという。
代わりにアヤメとモクレンのカードを手渡され、どちらを名乗るか話し合って決めていいと。友人が「モクレンがいい」とはっきり言ってくれたので、私はアヤメになった。
そのままチェックインし、部屋に入る。荷物を整理しながら、私はアヤメ、私はアヤメと繰り返し呟き、体に落とし込む。言われてみればなんだか私はアヤメっぽいような気もするし、友人もなんだかモクレンっぽいような気がしてきた。名前とアイデンティティの結びつきは不思議だ。

儀式(ガチ)

告げられた時間通りに1階ロビーへ集合する。まだ少し始まるまでに時間があるようで、アイスクリームとお酒を注文してリラックスしながら始まりを待つ。コンシェルジュは計3名。儚い雰囲気のスイレンさん、物腰柔らかくテキパキと動くミヤコワスレさん、明るく話しかけてくださるシオンさん。
モクレンが声を潜めて語りかけてくる。「ねえ、ミヤコワスレさんってさ」「……アヤメが好きそうな顔?」「そう」「正解」「ワハハ」

ほどなくして、支配人を名乗る男性が中央に現れる。ギターが上手い。え、ちょっと上手すぎる。何者なんだ。

「皆さんにはこれから、僕の走馬灯に入ってもらいます」と彼が言うので、参加者全員で輪になって言われた通りの手順で儀式を執り行った。一番大切な記憶を両手で包み込んで、薄く目を開け、同じ音でハミングする。
思っていたよりも長い。コンシェルジュの面々が私たちの周りをぐるぐると回っている。鳴らす鈴の音がハミングと共鳴する。会場の音響が騒がしい。嵐の中にいるみたいだ。方向感覚がなくなっていく。まだだろうか。周りの人、なんか増えてないか?気のせいか?体がグラグラと揺れる。

次の瞬間、パッと照明が明るくなり、儀式は無事に終了した。
私たちは記憶の中、数十年前の運命の日にやってきた。

過去の世界の住人

ここからは自由に動き回っていい、ドアの開いている部屋には入っていいと言われ、私たちは散り散りになった。友人のモクレンとも別行動をとる。
私たちはこのホテルに住人がいったい何人いるのかも知らない。ここからは、どの部屋を訪れ、誰と何を話すかで物語の見え方が全く異なってくる。

コンシェルジュの3名も、ここでは過去の世界の住人として振舞っていた。特に衝撃的だったのはミヤコワスレさんだ。あんなに紳士的にテキパキと行動していた彼は、過去の姿に変わるなり、ベロベロの千鳥足で参加者の前に現れた。呂律が回っていない。床に寝そべっている。あまりに自由だ。
なるべくメタ思考をしないように気をつけて臨んでいた私だが、さすがにこのときは「俳優すげえ……」と思わざるを得なかった。切り替えが鋭角で。実際、同一人物であることに全く気が付いていない参加者もいた。

真相に迫る後半戦

公演はざっくり前後半に分けられる。前半はこのホテルがどのような世界なのかを知るターンで、後半は私たちがなぜこの走馬灯に来る必要があったのかを突き止めるターンだ。
どうやら、このホテルには魔女がいる。人の記憶を奪って暮らす、忘却の魔女。支配人は若い頃にその魔女に呪いをかけられ、0時を迎えるたびに周りからその存在を忘れられてしまうようになった。

私たちも、本当の名前を魔女に教えてしまうと同じ呪いにかけられる危険があるという。だから代わりに花の名を与えられていたのだ。護身のために。

魔女はいったい誰なのか、またホテル内を歩き回って情報を集める。前半は登場人物がそれぞれ自分の部屋にいるところへ訪問する形だったが、後半はなんと登場人物たちも部屋を自由に移動し始めた。スイレンさんの部屋にスミレさんが腰かけていたり、話しながら一緒に階段を上り下りしたりする。

「なんかあそこ人いっぱいいるっぽいし他の部屋行こうか!」と、その場の状況に合わせて行動を変えているような様子もあった。みんな自然に一人の人間として立ち回り、セリフではなく完全に自分の脳から出た言葉として身の上話をしている。そこに至るまでの稽古量を考えると頭がクラクラした。

結局のところ、魔女はこのホテルのオーナーではないかということになった。オーナーとはお話ししていなかったのでどんな人物か不明だが、儀式が終わった直後に正面のバーカウンターに座っていた様子は覚えていた。
モクレンもそれは同じだったようで「ああ、あの爆美人か」と呟いていた。オーナーが魔女なら納得できる。なにせ爆美人なので。

スニーキングミッション発動

とうとう魔女がその本性を現した。呪いを解く方法を探そうとする私たちの不審な動きに気がついた彼女は、支配人の記憶を無理やり奪い取り、私たちを走馬灯の世界から締め出した。
魔女が目を光らせていてはもう何もできない。私たちはいったん・・・・部屋へ帰るようにコンシェルジュから促された。


ノックの音がし、ドアを開ける。シオンさんから一枚の紙が手渡される。


突然のアクション編が今、始まる。

部屋を出てすぐに、シャン……シャン……という鈴の音が聞こえてきた。さっそく魔女が近づいている! 慌てて開いている部屋へ飛び込んだ。
私は入って右側の隅へ、モクレンは入口扉の裏へ。しゃがみこんで息を殺す。懐中電灯の光がゆっくりと入ってきて室内を照らした。二度三度、光は左右に揺れる。このまま奥まで来られたらおしまいだ……!!

光がふっと消えた。
シャン……シャン……と音が遠ざかっていく。助かった。

ゲームなどではこういう場面をよく見るが、いざ己の身をもって体験するとこれがとんでもなく怖いということがよくわかる。しかも魔女の巡回ルートによってはこの遭遇が3回くらい発生する。呼吸止めすぎて肺ないなった。

選択

無事に魔女から身を隠すまじないを成功させた私たちは、そこで支配人の真の願いを聞いた。

実は、先ほどの魔女が判明するシーンで、アジサイという一人の少女が私たちの目の前から消えている。彼女は支配人と同じく人から忘れられる呪いにかかっていたが、意を決して「呪いを解く」と宣言し、とある言葉を大声で叫び、そして、跡形もなく消えた。空からは雨と花びらが降り注いでいた。

「忘れ去られたまま生き続けるのか、死してなお記憶に残るのか」
手段は既に用意されている。


彼は後者を選んだ。
空からは雨と花びらが降り注いでいた。

そこで0時の鐘が鳴る。

私は彼のことを覚えている。


『泣いた赤鬼』などに見られる「平和になったこの世界に、しかし君だけはどこにもいなかった」的な話にめっぽう弱い私には、この展開がもう本当に感情ど真ん中でつらくてつらくてたまらんかった。勘弁してくれや。
あまりにつらいのでバッドエンド分岐を一瞬疑ったが、どの日の公演も結末はどうやら同じらしい。ほな……仕方ないか……

ラジオ

翌朝、ロビーでモクレンと朝食をとった。本当に「昔からの友人を亡くして一晩経過した」ときの気持ちになっていて、装飾の変化を確認したり、あの晩に支配人が弾いていたオルガンなどを見たりするたびに、ピカチュウ映画の画像素材みたいにシオシオ…………としょぼくれていた。

シオシオしながらワッフルを切り、口にシオシオと運んでいると、程なくしてラジオの音が流れる。普通のFMかと思ったが、パーソナリティーが一言。

「いやあ、ゆうべは驚きでしたねぇ~~!! 花が降ってくるなんて!!」

シオシオ……

「今日のゲストは、ファフロツキーズを専門に研究されている……」

シオシオ……


総括

心にデカい感情を抱えっぱなしになりました。夢にまで出てきた。
この公演の内容を「覚えている」こと自体が重要なテーマなのと、その記憶のトリガーが雨と花という普遍的な自然物なので、まあ……引きずりますわね……
私が参加したのは7月の終わりの時期で、外に出た瞬間暑すぎカンカン照りで現実に戻ったのですが。梅雨の時期に行っていたらまただいぶ感じ方が変わっていたかもしれません。

モクレンとの感想戦にもしばらく花が咲きました(花だけにな)。
人によって見る物語が異なるという性質上、気の置けない友人と一緒に参加して、見てきたものを全部開示してめちゃくちゃ考察するというプレイングが断然おすすめです。他の参加者と臆せず話せるならその限りではないですが、初心者にはややハードルが高いかもしれません。


しつこいようですが、

絶対行った方がいいよ。


アヤメ


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