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とある元メイド喫茶常連の忘備録<その25>

※この物語はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。イベント当日になった。

開場は十一時からだが、混雑が予想されるため。店到着が十時頃になるように出発した。
店に到着した。三〇人ほど店前に並んでいた。予想道理だった。列には入らず、店の前の公園に向かった。
公園奥の木の下に国領氏、浅田氏、城田氏が談笑していた。
「お早う。あたる君は一巡目は入らない感じかな」
「はい。自分はめめのライブだけは見ようかなと。見て欲しいと言われたので」
「フフフ。めめちゃん歌うの? というか歌えるの?」
めめメイドはオヤジギャグ連発、チェキの落書きは幼稚園児レベルと店ではかなりのおバカキャラで通っている。しかし家は裕福で質の高い躾をされて育ち、本人も超高学歴である。源氏名の由来も本当は爻(こう)と言う文字が好きだからという理由である。爻(こう)と言う文字はメという文字が縦に二つ並んでいるように見えるのでめめという源氏名にしたらしい。ちなみに父親は海外で活躍する考古学者で母親は元地方局のアナウンサーらしい。「女は賢く見えたらいけすかない思うんですよ」という理由でおバカのフリをしているという恐ろしい人だった。

「めめちゃんって誕生日サービスの時の歌もひどいもんね。あんまり言いたくないけど」
浅田氏も続く。通っていた店では誕生日に入店した人には無料のケーキとシフトに入っているメイド全員からハッピーバースデーの歌を歌って貰えるというサービスがある。めめメイドはほぼ箇所の音を外しているのだ。もちろんわざとである。
「まぁ、お手並み拝見ですよ」
「めめのライブ以外はどうするの?」
「自分は今日十六時までしかいられないんで、出来るだけ入店という感じになります」
「へえ。てっきり何時に誰が何やるのか全部知っていると思ったよ」
国領氏が冗談っぽく言ってくる。店はシフトが一切公開されない為、事前の発表は無かった。
「いや全部は知らないですよ。めめのライブの時間は本人からなんとなく聞いてますが」
「フフフ。本当かなぁ。桶川さんはは全部知ってそうだから聞いてると思ったけどな。フフフ」
「桶川さん昨日店で明日は十九時のぐらいに仕事中抜けして参加」っていってたよね
「浅田ちゃんそれつきのライブの時間だよ。やっぱ知ってるんだな」
「つき」メイドとは桶川氏のお気に入りのメイドである。話し込んでいる間に店の扉が空き客がどんどん吸い込まれていった。

「フフフ。もう入れちゃうみたいだね。まだ十時五十分だけどさすがに前倒しか。フフフ」
「あの人数入れちゃうんだ。寿司詰めだね」
「俺国領さんとくっつきたくねえよ~」
「大丈夫だよ! 俺の方から離れるから!! ほら並びに行くぞ!!」
四人で店の前に向かい並ぶ。公園や、近隣のビルの影から常連がワっと押し寄せ、店の前には何重にも折り返した列が出来た。
「すごいな……」
国領氏が驚いたように呟いた。
「フフフ。二巡目はぎんれいと雪子いるんだっけ? そりゃ並ぶよね。フフフ」
雪子メイドは長身で細身、整った顔立ちではあるが薄化粧で眉毛は最低限しかいじってないという見た目、性格はサバサバしており趣味はボーイズラブ全般という当時のオタクメインの客層のメイド喫茶では男性ウケはもちろんの事、女性ウケも良かった。所謂腐女子なので当然少年ジャンプや月刊少年ガンガンを好んで読んでいる。少年漫画の話が出来るため一見の男連れの冷やかし客の相手役として店側からも重宝されていた。源氏名は好きなボーイズラブ作品のキャラの名前を本人は希望したが全て却下され、好きなアニメ作品である火垂るの墓のキャラから拝借する形になった。したがって「せつこ」と読む。そうこうしているとたなかメイドが元気よく店の扉を開けて登場した。しかしメイド服では無く、背中に店名が書かれたピンク生地の法被をスーツにを着ていた。

「朝早くからありがとうございます! 当店にはまだ若干の余裕がございます!!」
某演芸番組の橙色の着物でおなじみの出演者の決まり文句であった。
「諸星さんどうですか?」
嫌な予感はしたが、自分に振ってきた。
「自分は次の回で入店します。ピンクの小粒、コーラックです」
「あんまり面白くないですね! 山田君!! 座布団全部持っていって!!」
とっさに思いついたにしては上出来だと思ったが……
「本日の立食イベントは全時間帯この私たなかが店におります! 皆様ご安心して頂いて、ふるってご参加下さい!! それでは!!」

それだけ言うとたなかメイドは店に戻っていった。
「騒がしくなりそうですね。というかメイド服じゃ無いんですね。どこまでもウケを取りにいく姿勢だけはすごいですね」
「見張り役でいるんじゃ無い?」
立食と言う事は普段許されていない店内の立ち歩きが許される。常連がメイドにひたすら話しかけるという行為もやりやすくなる。囲んでしまえばいいわけだ。しかし、たなかメイドが場にいることで抑止力になる。

「フフフ。国領さんの言うとおりだろうな。ちなみにだけどたなかさんはシフト入ってない時にバックヤードにいる時はあの格好だよ」
「え? 法被なんですか?」
「そんなわけないよ。スーツでしょ? 家電量販店の人じゃないんだから」○暴氏に突っ込まれる。
「あたる君はすっかりウケを取る癖が付いたな。しかし制服じゃないってことは今日は裏方のポジションなんだろうけど志願してホールにも出るんだな。出来る人間に業務が偏るのは何処も同じだね」
「フフフ。国領さんの推測って当たらないからな。フフフ」「
そうそう! 国領予想は適当だからね」
「ちゃんと考えてるよ!」
「まぁ、聞いてみたらいいんじゃないですか?」
話し込んでいるウチに九〇分が経過した。
入れ替えの時間になった
<つづく>

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