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Ringlet the Fairytale 7.8thリリース


78話「盗賊を見初めた少女」あらすじ

 盗賊被害に悩まされていた王様はとうとう自ら退治に乗り出し、激戦の末に捕らえる。死刑判決を下され、市中を引き回される盗賊を見た豪商の娘カーリンディーは彼に一目惚れしてしまい、恩赦か殉死を申し出る。困った父親は王様になんとか恩赦を願い出るが……。

出典と補足

 原版はソーマデーヴァという11世紀後半の詩人が書いた「カターサリットサーガラ(物語の流れ注ぐ大海)」という書の第十二巻に収録されている「ヴェーターラパンチャヴィンシャティカー(屍鬼二十五話)」の中の一話です。これは頓知のような問答集(翻訳した上村氏は「コント集」と書いてます)が文字通り二十五話入っているもので、もともとは独立した一冊の書だったと推測されています。

「カターサリットサーガラ」はそれ自体がインド文学史における重要な本ですが、あらためて別の機会で触れる予定なので、ここでは「ヴェーターラパンチャヴィンシャティカー」に焦点を絞って解説します。

 先述の通り「ヴェーターラパンチャヴィンシャティカー」は「カターサリットサーガラ」に挿話の中の挿話という形で組み込まれていて、あらすじは下記のようになります。

 「カターサリットサーガラ」の主人公であるナラヴァーハナダッタ王子が隠者ピシャンガジャタと出会い、彼は王子にムリガーンカダッタ王子の話を聞かせる。ムリガーンカダッタ王子は従臣のひとりがヴェーターラ(人の死体に憑依する存在、屍鬼)に告げられた予言に従ってウッジャイニーの王女シャシャーンカヴァティーを妃にしようと旅立つ。しかし、道中で従臣たちと散り散りになってしまい、そのうちのひとり、ヴィクラマケーシャリンはある村で毒蛇に咬まれた老バラモンを手当する。彼はお礼にヴェーターラを操る呪法を授けると申し出るが、ヴィクラマケーシャリンがその有用性を疑ったところ、老バラモンはヴェーターラの恩寵でヴィディヤーダラ(半神族)の王となったトリヴィクラマセーナ王の二十五の物語、すなわち屍鬼二十五話を語る。

 少し複雑ですが、屍鬼二十五話はムリガーンカダッタ王子の物語の中にさらに挿入された枠物語と言えます。この話は原典「カターサリットサーガラ」のさらに原典である「ブリハットカター」の他系統伝本には載っていないため、後世に挿入されたものと推測されているわけです。

 では、もとはどんな書だったのか? ということですが、ヴェーターラ信仰の本だったのではないかと推測され、かなり古いらしいということ意外はよく解っていません。現代まで残っている中で年代が確定できるものはソーマデーヴァの先輩に当たるクシェーメーンドラが「カターサリットサーガラ」と同じくカシミール版「ブリハットカター」を再編集した「ブリハットカターマンジャリー(ブリハットカターの花束)」に収録されたもので、11世紀前半にあたります。底本にも当然載っていたはずですから、遅くとも10世紀末くらいまでは遡ることができるでしょう。

 チベットでは「屍語故事」という名で知られており、モンゴルでは「シッディ・クール」になっています。これは珍しく(?)伝播の過程が確認されているもので、サンスクリットの「ヴェーターラパンチャヴィンシャティカー」が原典になっています。

 では、それはどんな内容なのか、もう少し詳しく書いておきます。

 各話は千と一夜の書のような繰り返しで、トリヴィクラマセーナ王に担がれたヴェーターラが面白い話をしてあげようと言って物語を語ります。最後に謎掛けをし、王が答えるとヴェーターラは元の場所に戻ってしまいます。そこで王はまた彼を担ぎ直しに行くのですが、これが二十四回繰り返されます。

 Ringlet版に収録した「盗賊を愛した少女」は十四話目の物語で、大筋は原版通りですがオチ部分を変更してあります。この話に限らずインドの話では「夫または恋人に殉死する女性」が非常に多く登場しますが、これはサティーと呼ばれる実際にあった儀式のようです。この話と同じく薪の山で焼身自殺した他、縊死や身投げなどの例もあるようです。

 殉死しようとするオリジナルストーリーも以下に載せておきます。

 原版では盗賊は死刑になってしまいます。
 悲しんだ娘は盗賊の死体と共に火葬用の薪の山に登って一緒に死のうとしますが、そこにシヴァ神の声が響きます。

 シヴァ神は彼女の献身を讃え、願い事を叶えてやると言うと、彼女は父(大商人)に百人の息子が出来るように願います。なぜなら、彼女が死んだあと父に子供がひとりも居なくなるのは困るからというわけです。

 シヴァ神はその願いを叶えると約束し、さらに志操堅固な彼女に他の願い事はないかと尋ねます。そこで彼女はようやく夫(盗賊)を生き返らせてくださいと願い、それも叶えられます。ついでに家に帰ると、大商人は百人の息子も授かりました。

 そこで王もシヴァ神の威光と恩寵を知り、盗賊を将軍に取り立てます。
 盗賊は足を洗い、正道を歩んで幸福に暮らします。

 Ringlet版では王が問いかけ、盗賊が心境を吐露する構図ですが、原版ではヴェーターラがなぜ盗賊は泣いた後に笑ったのかと問いかけ、トリヴィクラマセーナ王がそれに答える形になっています。

・ヴェーターラ(屍鬼)

 ヴェーターラは鬼神の一種で死体に憑いて活動させる存在で、漢語の音写では毘陀羅、毘多荼などとされます。ゾンビと違って死体を攻撃してもヴェーターラ本人(?)がダメージを受けるわけではない点が特徴です。また、鬼神そのものではなく呪法もヴェーターラと呼ばれる例があります。

 仏教では密教と結びつきが深く、ヒンドゥー教シヴァ派の中ではシヴァの眷属として登場しますが、おおもとは土着信仰であったと推測されています。6世紀の占星術書には「呪文と儀式によって死体を再び動かす」呪法がヴェーターラと呼ばれ、失敗すると術者自身が死ぬという典型的ペナルティも記載されています。

 「カターサリットサーガラ」に記されている呪法によれば「黒月の一四日目(新月)の深夜の墓地に人骨の粉で描かれた曼荼羅に血を撒き散らし、四方に血を満たした瓶を置く。明かりの脂は人間の脂肪で、術者は真言を唱えてヴェーターラを死体の中に呼び込む。閼伽水として頭蓋骨の器に血を盛り、人間の眼球を火に焚べて焼香し、人肉を供物とする」とあります。グロです。

 ヴェーターラは単体で実態を伴うことも出来るようで「カターサリットサーガラ」では「色は黒く、丈が高く、駱駝のような首、象のような顔、雄牛のような足、梟のような目、驢馬のような耳を持つ」と欲張りセットな書かれ方をされています。

 意外ですが、少なくとも物語に登場するヴェーターラは(物語の主人公に)協力的、友好的な存在として描かれることが多く「ヴェーターラパンチャヴィンシャティカー」のエンディングでもヴェーターラは行者を出し抜いてヴィディヤーダラの王になる策をトリヴィクラマセーナ王に助言した上で、祝福と労いの言葉を後に帰っていきます。

・リンク

https://ringlet.sakura.ne.jp
公式サイト
https://www.freem.ne.jp/win/game/20958
ふりーむ!
https://kampa.me/t/vgv
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