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ラジオ取材のインタビューに関する自問自答~インタビュアーの道は一日にしてならず~

※この記事は2020年10月にブログで公開した文章を再編集したものです。記事画像は「ラジオ機をインタビューしている様子」をAIで作ってもらいました。


ラジオ本とは言っても、実際はインタビュー本ばかり作ってきました。しかし、いまだにその手法で悩む毎日。そこで、改めてラジオの取材における考え方を中心に自分の方法論をダラダラとまとめてみました。例によって、自問自答形式による脳内インタビューです。偉そうな物言いに感じた方は「これ、自分で自分をインタビューしてるんだぜ。キモイだろ」と鼻で笑ってやってください。


とにかく下準備が大事

――今回は村上さんが「インタビューについて語りたい」と言っていると聞いてやってきました。

村上 『芸人ラジオ』や『ラジオの時間』シリーズって要はインタビュー本じゃないですか。制作時期によるんですけど、5~6割は編集長である僕自身が取材も原稿作りもやっているんです。現時点でどんな感覚でインタビューをしているのか、改めて考えてみたくて。読者の方もインタビューって言われても漠然としていると思うんです。あくまで僕の意見であって、まったく違う考え方の人もいるでしょうが、ちょっと話してみたいなと。

――確かに村上さんが作るムック本はどのインタビューも1万字近くありますし、それがどうやって作られているのかは気になるところです。取材対象を決めて、オファーし、OKをもらったところから始まるのはわかりますけど、それからどういう過程があるんですか?

村上 これも想像できると思うんですけど、下準備、そして実際の取材、音声の文字起こし、編集……と作業が進んでいく形ですね。その後には校正や各所のチェックなどもありますが。

※初めてラジオに関するインタビューをしたのは、この本での諏訪勝さんでした。確か自分ひとりじゃなく、3人ぐらいで話をうかがったはず。

――村上さんはよく「下準備が大事」と言っているイメージがあります。

村上 読者の皆さんは「そりゃ、取材が一番大事だろう」って思うかもしれないですけど、一番大事なのはやっぱり下準備ですね。

――例えば、ラジオ番組を取材するとしたら、準備にどのぐらい時間をかけているんでしょう?

村上 状況によってそれぞれですけど、ラジオ番組の取材で言えば、僕は少なくても20時間、多い時は200時間ぐらいかけてますね。

――一番比重を置いているのはやっぱり過去の音声を確認する作業ですか?

村上 そこが一番大変ですね。僕自身、時間が許すなら、過去の音源を全部聴きたい人間なんです。それは時間的に無理だとしても、3~4年続いている番組なら、1年分ぐらいはチェックしたいですね。本当なら「取材をお受けします」から、実際に取材するまで3~4ヵ月ぐらい時間がほしいんですけど、そう都合良くはいかず、場合によっては「来週お願いします」なんてパターンもあるんですよね。それで、仕事をお断りしたこともあるぐらいで。

――えっ? 準備の時間が取れないからって、インタビューを断るんですか?

村上 他媒体からオファーを受けた時ですけど、実際に何度かあります。自分がやるんだったら、普段からちゃんと番組を聴いているライターさんがやったほうがいいんじゃないかって。

※今も大量の番組を録音するために使っているラジオレコーダー。新機種が発売されなくなり、ラジオレコーダーという存在が絶滅しつつあります。


――そうか、自分が普段聴いてない番組の取材依頼が来ることだってあるんですよね。

村上 それはラジオ本を定期的に作るようになった編集者・ライターが必ずぶつかる問題だと思います。最初は自分の好きな番組だけを取り上げていけば形にできるんですけど、2冊、3冊と重ねていくと、絶対に無理が出てくるんです。

――まあ、ラジオ好きといっても、聴ける時間は週に20~30時間ぐらいが限界でしょうからねぇ。

村上 そこを他のライターさんに補ってもらうわけですけど、そうなると原稿料が増えるし、クオリティーの問題も出てくるわけで。だから、僕の場合、まったく知識のない状態から時間をかけて、ちゃんとその番組のヘビーリスナーになり、パーソナリティを好きになり、番組の魅力を理解していくっていう作業をしています。でも、これって凄く楽しいんですよ。早めに動かなくちゃいけないので、取材オファーと同時に過去の音声を聴き始めて、数十時間チェックした段階でインタビューが流れたという案件が過去にいくつもあるんですが……。

音源確認にこだわる理由

――なぜそこにこだわっているんですか?

村上 「○月○日にこんな事件が起きた」というのを拾っていくのも大事なんですけど、一番重要なのは番組全体の雰囲気を知るためですね。それは番組のウィキペディアを読んでもわからないですし、ある程度の時間を積み重ねる必要があるので。あとは、もはや強迫観念みたいな部分もあります(笑)。ヘビーリスナーの方に「コイツ、この番組のこと、知らないな?」って思われるのが怖いというのもありますし。

――だたの思い込みじゃ……。

村上 それと、最終的なインタビュー原稿を制作する際に、パーソナリティの喋り方が頭に入っていて、想像できるのって大切なんですよ。読みやすく言葉や言い回しを直す場合でも、脳内でその人の声で再生できるようにしておくと、変にならないですから。「記事を読んでいたら、パーソナリティの言葉で再生できた」と言っていただけることがあるんですけど、それはこの準備のおかげだと思います。さすがに他のライターさんにここまでやれとお願いできないですが、基本的に番組をちゃんと聴いている方にオファーしているので、他の雑誌媒体と比べて、僕の作っている本は「番組を知らないライターが取材している」という状況が圧倒的に少ないと思います。

――どういうシチュエーションで過去の音声を聴いてますか?

村上 基本は「ながら聴き」です。運動している時もあるし、原稿を書いている時もあるし、移動中もありますし。プロレスの取材で出張に行く時は一気に消化してますね。

※下準備に時間を掛けた記憶が残っているのは『お笑いラジオの時間』の山里亮太さんの時。ちょうど仕事的にも暇な時期だったので、『不毛な議論』を3年分聴き直しました。


――なるほど。集中して聴くという感じではないんですね?

村上 さすがに他のことをせずに集中して聴くスタイルだったら、僕の生活が破綻しちゃいますよ(苦笑)。ながら聴きしながら、気になった発言や事件があったら、スマホのメモ帳に書いていく、というパターンが多いです。

――てっきり1回1回を詳細にメモしているのかと思いました。

村上 そこは結構適当で、個人的にひっかかりがあった部分だけですね。で、そういう作業をしながら、どんな質問をするか考えていくんです。リスナーとして知りたい事実確認みたいな部分から、「番組の根っこに何があるのか?」みたいな部分だったり、取材自体のテーマだったり。

他の媒体と同じ内容にはしない

――それ以外にも下準備することってあるんですか?

村上 まず取材対象がやっている他の番組もチェックします。あとは他の雑誌やインターネット上にあるその人のラジオに関するインタビューも調べますね。ラジオの記述があると知ったら、ご本人のエッセイやフォトブック、ブログ、X(旧Twitter)なんかもかなり掘り下げます。

――その作業の必要性はどういうところにあるんですか?

村上 これはラジオに限らずですけど、インタビュー記事が同じ内容になるのを避けたいんですよね。どちらも同じリスナーさんが読む記事なので、ある程度被るのは仕方ないにせよ、前の記事よりさらに深い部分に触れたいなと考えていて。極端な話、同じ内容止まりだったら、その時点で取材オファーをしないこともあるんです。これはライターや編集者として必要な感覚だと思いますし、イベントのMCなんかも同じ考え方を持っているんじゃないかと。

――でも、リスナーさんは単純に「好きな番組が取材されるのは嬉しい」という感覚で、そんなこと考えてないんじゃないですか?

村上 実際のところ、その本が売れる・売れないとあんまり関係ないこだわりだと思うんですが、僕自身がひとりの読者としてラジオ本に触れる時にいつも感じていたことなんですよね。だって、「パーソナリティの写真なんて1枚ぐらいでいいから、とにかく知らない話を教えてくれ」って昔から思ってきたんで。

――それは偏りすぎでは?(笑)。

村上 自分でもそう思いますけど、そういう性分なんです(笑)。僕はプロレスのマニアックな専門誌に携わっていたこともあって、「専門誌」的な本の作り方をしているんですよ。「他とは違うものにする」っていうのが大事なんだと思うんです。いざラジオ番組の取材をしても、記事に載せたことはウィキペディアですでに説明されていた……なんてことになったら意味がないし、恥ずかしいと感じるので。

全体の流れを考える

――実際の取材に向けて、質問はどんなタイミングで考えるんですか?

村上 僕の場合は直前ですね。さっき話したスマホのメモを見つつ、質問案をまとめます。取材対象の生年月日や過去に担当した番組なんかの細かい情報も押さえつつ。個人的に重視しているのは質問の流れですね。どんな風にインタビューを展開するかを大事にしています。

※以前に藤井青銅さんをインタビューした時の質問リストが残っていました。これが1枚目で、実際はもう1枚あります。合わせて簡単な資料も作っていたはず。

――ざっくりと箇条書きにしてまとめているだけかと思ってました。

村上 これも人によって違うので、まったく質問事項を紙にまとめず、手ぶらで取材する方もいるし、パソコンを持ち込む方もいるんですよ。流れというのは……例えば、いきなり「今、好きな人は誰?」と聞かれたら答えづらいじゃないですか。でも、初恋から順に追っていって、失恋経験なんかも語ってもらって、その上で「今、好きな人は誰?」と聞かれたら、勢いのままに答えちゃうじゃないですか。

――そのたとえはピンと来ないとしても(笑)、そうやって順を追って掘り下げていくのもテクニックなんですね。

村上 そんなに大袈裟じゃないですけどね(笑)。個人的には流れをあまり考えずに質問すると、相手に意図が伝わりづらく、無駄にストレスをかけてしまうんじゃないかなって考えています。他にも質問する手法みたいのはいろいろあると思いますね。バカなふりをするなんて手もありますし……。

――バカなふりをする?(笑)。

村上 自分から「不勉強で知らないんですが……」とか、「勢いで聞いちゃいますけど」とか、「本当に失礼な話なんですが」とか、マイナス要素をこっちから先に口にして触れるというやり方です。他にも「自分の不幸な身の上を話した上で、ネガティブな話題に進む」なんていうこともありますし、明確に意識しているわけじゃないですけど、それなりに経験を積んではいるので、自分の中でいくつか話の展開方法はありますね。あとはそういう過程で「俺はこの番組のことが好きなんだよ。しっかりと聴いてるんだよ」というのも何となく伝わるように心がけてます。それが伝わると、やっぱり腹を割って話してくれるので。

――そんなこと言っちゃうと、これを読んだ芸人さんや声優さんからうがった目で見られますよ?(笑)。

村上 いや、根っこにあるのは単純なことで、「気持ちを伝える」という作業なんですよ。テクニックとか、言い回しとか、そういうことはどうでもよくて、ちゃんと自分の気持ちを伝えることが大事なんじゃないかなと思っています。

――他にも意識していることってありますか?

村上 うーん、これも当たり前の話ですけど、人の目を見て話すなんていうのもそれに当てはまるかもしれません。やっぱり「ちゃんと話を聞いている」という姿勢を見せることにも繋がると思いますから。ただ、目を合わせたくない方、目を合わせるのが苦手な方も取材相手にはいるので、その辺は状況判断をしつつという感じでしょうか。

――よく言われることですけど、結構難しいですよね。

村上 僕もそもそもこの仕事を始める前は人の目を見て話せない人間だったので、だいぶ苦労しましたが、今は「うわー、スゲエ美人」なんて内心思っていても、目を離さずに会話できるようになりました(笑)。トレーニングすればなんとかなると思います。他には、ちゃんと相手の言葉に反応するのも大事かなあと。面白いと思ったら笑う、興味深いと思ったら頷く。日常よりもちょっと強めに気持ちを表すぐらいがちょうどいいと思います。知っている話でも、その時初めて聞いたように反応する、なんてこともありますが。

取材しながら考えていること

――実際にインタビューしている時ってどんなことを考えているんですか?

村上 相手の話に集中しつつ、時間配分などを冷静に考えてますね。取材時間が1時間ならば、質問の流れを考えた時点で、「この質問は○分ぐらい」とザックリとした時間配分を考えています。その上で、盛り上がって時間をオーバーしてしまったら、他の質問を切る場合もあるし、反対に絶対にしなきゃいけない質問を前倒しにしたりもしますし、そこはフレキシブルに対応していますよ。もちろん事前の考えにガチガチに縛られるのはよくないことで、思いもよらない話で盛り上がるのもありなんですけど、特集などに組み込んだ場合は、ある程度のコントロールも必要になります。

――『芸人ラジオ』や『ラジオの時間』の場合、村上さんが編集長にして、ライターをやっているじゃないですか。そうなると変わってくる点もあるんですか?

村上 本来ならば、編集者がテーマを設定して、ライターに取材をお願いするという流れがあるわけです。もちろんライター側がアイディアを出す場合も多々ありますけど。だから、ライター側がテーマを勝手に修正することって難しいんですよ。でも、僕は両方兼任なので、「こっちを話の軸にしよう」なんてこともその場で判断できるので、そういうことをよく考えてますね。「この記事のページ数を増やそう」とか、「掲載順を最後に持っていこう」なんてことも意識してます。その場で判断できるのは、兼任している点で大きいと思います。

――村上さんが感じる「いいインタビュー」ってどういうものなんでしょう?

村上 これは他の人とまったく違う可能性があるんですけど、僕の場合、インタビューをするようになった最初の頃から「その人の根っこにある部分に触れる」という感覚があるんです。グッと引き込まれて、感動すら覚える瞬間があって。「そんなことがあったのか!」って感じることができたら、僕の中でそれはいいインタビューなんです。それが快感と言えるかもしれません。

面倒臭いけど楽しい文字起こし

――取材が終わった後は「文字起こし」という作業になりますが、1時間の音声だとどのぐらいの文量になるんですか?

村上 喋り方によって違いますけど、だいたい15,000~20,000字ぐらいですかね。媒体によってはこれを3,000文字にするなんて必要があるんですけど、『ラジオの時間』で言うと、だいたい半分ぐらいに落とし込む作業が「編集」になります。

――今って文字起こしも自動でできる時代になりつつあるじゃないですか。村上さんはどうやって対応しているんでしょうか?

村上 ICレコーダーで録音した音声を元に、再生ソフトを使って自分で文字起こししています。

――再生ソフトというのは自動で文字起こししてくれるんですか?

村上 いや、そんな最新のものじゃなく、ファンクションキーで再生・巻き戻し・早送りができたり、一時停止すると、自動的に数秒戻ったり、そういう機能がついたシンプルなソフトですよ。文字起こしって本当に面倒臭いし、「自動でできたらどんなに楽か」って何年も前から思っているんですけど、同時に楽しくもあるんですよね。

――なんですか。その嫌いじゃないけど好きでもないみたいな話は。

村上 まず自分の声を長時間聴くのは、ライターを長年やっていてもきつくて、本当に嫌なんですよ。しかも「この話に反応できてない」「大事な言葉を聴き逃してる」「早口で聞き取りづらい」なんてことに気づいてへこむんですよ。でも、だからって他人に任すと、面白さがこぼれ落ちちゃう感覚があって。改めて聴き直して、文字起こしをする過程で、全体の構成を考えたり、中身を吟味していったりするから、個人的にはとても大事な作業なんです。人に任せるライターさんも多いんですけど。

難しい「編集」のさじ加減

――文字を起こしてから始める「編集」という作業も読者的には謎なんですが、どんなことをやっているんでしょう?

村上 文章的におかしいところは修正しますし、一人称の「僕」「私」「俺」なんかを揃える作業もあります。表現的に理解しづらいところはシンプルな形にもするし、話題の順番を変える時もあるし、重複する部分は削りますし、本当にライターによっていろいろですね。かなりの改造手術をする人もいれば、なるべく手を加えないようにするという考え方の人もいますよ。そのさじ加減は難しくて、僕はいまだに悩み続けてます。

――実際の取材と大きく変わることもあるんですか?

村上 過去にあったのは、他のライターに取材をお願いしたら、まったく盛り上がらなくて、「どうしましょう?」と音声だけを渡された経験がありますね。取材対象の話したことは変えないですけど、聞き手の発言をいろいろ変えて、「盛り上がらないのではなく、あえてそういう話をした」という雰囲気にしました。これは行き過ぎた例ですけど、「リアル」なやりとりをそのまま形にするというよりも、「リアリティー」のあるテキストにまとめるという作業なんだと思います。

――他にはどんな作業を?

村上 文章量を調整するのに連動して、「この企画を何ページにするのか?」「写真と文字のバランスは?」「文章を何段組みにするか?」なんてことも考えます。あとは記事のタイトル、リード、見出しなんかも作っていく感じですね。それでやっとインタビュー記事が1つできると。

初めてのインタビューはボロボロだった

――そもそも村上さんが初めてインタビューをしたのっていつなんですか?

村上 僕がライターっぽいことをやり始めたのは、2003年5月なんです。高校を卒業してから、プロレス・格闘技会場で6年間バイトしてて、そこで生まれた縁でプロレス・格闘技系のモバイルサイトのスタッフになって。ほぼ素人同然の状態で、その年の夏ぐらいから選手のロングインタビューをすることになりました。

――ラジオリスナーらしく人間関係が不得意な状態で、インタビューするのはきつかったんじゃないですか?

村上 試合の記事を書くことには憧れてたんですけど、自分がインタビュアーになるなんて想像はまったくしてなかったので、かなり尻込みしてましたね。ただ、前任者がプロレスについて詳しくなくて、かなりズレた質問ばっかりしてたんです。だから、「この人がやるなら、俺がやったほうがいいだろう」なんて気持ちになって、必死に挑戦しましたね。でも、そのパッとしない前任者のインタビューに2~3回同席しただけで、いきなり1時間の取材をすることになったので、初めてした時はボロボロでした。

――いやあ、フリーターに毛が生えたような状態だったら無理でしょう。

村上 しかもいきなり2人を相手にする形だったので散々な結果でした。盛り上がらないし、テンパるし。1時間もらったのに、40分ぐらいで終わってしまって、逃げるように帰ったのを今でも覚えてます。本当に自分でゼロからやる必要があったから、それはそれは苦労しました。

※最初にインタビューしたプロレスラーは池田大輔選手とモハメド ヨネ選手の2人。池田選手と話が噛み合わなくてテンパったんですが、その後はオフィシャル的なお仕事もさせてもらいました。こちらの記事も村上が担当。

タクシーの運転手相手に特訓

――どうやって克服していったんでしょう?

村上 当時はとにかく月に3件ぐらいは1時間のインタビューをしなければならない状況でした。ただ、日々の大会取材で、プロレスラーや格闘家に試合後のコメントをもらう必要があったんです。地方の大会の場合、自分しか聞き手がいない場合もあるので、言わば2~3分のミニインタビューを毎日のようにしていったんですよ。あと、同じ選手をスポーツ新聞の記者や専門誌の記者と囲むこともあって、そうやって言い回しとか、質問の仕方とかを学んでいきましたね。それ以外でいうと、タクシーが実践の場になりました。地方出張も含めて、当時はタクシーに乗る機会が多かったので、運転手さん相手に話を盛り上げたり、聞き出したりする手法をいろいろ試したりしてました。

――結構苦労しているんですねぇ。

村上 そういう過程で、「他の媒体に載っていない情報を掘り下げる」「勝手に後追いする」「先んじて取材を進めていく」なんてことを試していたのが、今の考え方に繋がっていると思います。あと、毎日プロレスの取材をしていると、それがルーティーンになってしまって、刺激がなくなってしまうんですよね。そういう時でも、インタビューはとても刺激的だったので、自分のモチベーションにもなるようになりました。特に印象に残っているのが、鈴木みのる選手のインタビューで。

――おお、今は世界的に活躍している“世界一性格の悪い男”ですね。

※こんな感じでにらまれたら、目を逸らす以外選択肢はありません。(記事の中身は特に関係ないです)

村上 記者歴半年ぐらいで、鈴木選手をインタビューすることになったんですけど、シチュエーションがカフェで2人きりで。本当にビビって大変だったんですけど、その時に「強気の姿勢の裏側に弱い自分がいる」という話を聞き出すことができて、さっき話した「その人の根っこにある部分に触れる」という感覚になったんです。

――プロレスラーや格闘家以外の取材はいつから?

村上 モバイルサイト、プロレス雑誌を経て、アイドル雑誌の『スコラ』に携わることになりまして、編集者兼ライターとして編集部の一員になったんですよ。それが2008年頃なんですけど、それからアイドルを取材するようになったんですね。まだブレイクする前のAKB48とか、解散してしまいましたけどアイドリング!!!なんかも取材してましたし、表紙のグラビアアイドルのインタビューも担当したんです。それこそ、グラビアアイドル時代の仲村みうさんや手島優さん、大島麻衣さん、原幹恵さんとか……。あと、一応総合誌でもあったので、ここで関根勤さん、山里亮太さん、バカリズムさんの取材も経験できたし、声優の取材も実はしていて。

――ちなみにどなたをインタビューしたんですか?

村上 初めて取材した声優は古谷徹さんなんですよ。あと、まだ声優として活動する前の小倉唯さんとも関わったことがありました。で、この時期に、インタビュアーとして挫折も味わっているんです。

※『スコラ』には2010年まで2年間携わっていました。検索したらオリコンニュースさんの記事が出てきましたが、この記事内の表紙に名前が載っているアイドルは全員インタビューしたことがあります。

キャバクラや合コンでもインタビュー?

――それはどんな体験で?

村上 ちょうど『スコラ』が復刊するタイミングで関わるようになったので、自分の企画として、AV女優さんの硬派なインタビューという企画を立てたんです。で、初回がデビューした直前の希志あいのさんだったんですけど……。

――うらやましいシチュエーションじゃないですか!?

村上 でも、全然うまく取材できなくて。セクシー女優を取材するのって羨ましがられるんですけど、実際にその人を前にして、しかも普通の会議室で、エッチな質問をするのを想像してみてください。予想以上に大変だったんですよ。

――何度も言うようですけど、根っこは暇でモテないプロレスファン&ラジオリスナーですもんねぇ(笑)。

村上 それは個人的には凄い挫折でした。その後、だいぶ汚れてしまったんで(苦笑)、今なら普通にできると思うんですけどね。プロレスラーの取材が基本だった人間とすると、アイドルを取材するのはハードルが高かったので、最初は上司にキャバクラに連れて行ってもらって、そこでインタビューに慣れていったなんてこともありました。今思えば、この頃が人生で一番女性と話す時間が長かった時期なんでしょうねぇ。よく「アイドルの話を聞いて稼いでいるから、お金を払って女性と話すキャバクラの感覚が理解できない」なんて言ってましたよ(笑)。合コンとかでも、インタビューモードで仕事の愚痴なんかを聞いてました。誌面の企画で、アイドルにインタビューを教えるという試みをやったのも印象的です。

――いやあ、今でこそいっちょまえに「編集長」なんて言ってますけど、村上さんなりに紆余曲折を経てきたんですね。

村上 それなりのキャリアを積んできましたけど、今でも迷ったり、凹んだり、泣きそうになったりしてますもん。でも、最初は尻込みしてましたけど、インタビューをするようになったのは、自分の人生にとってもプラスになったと思います。昔はずっと人嫌いだと自分のことを考えてましたけど、今は人好きなんだなあって感じるようになりましたから。他人との会話に困った時は、インタビューモードに切り換えるというのはオススメですよ。何気なく読んでいるインタビューの裏側を想像してもらえたら幸いですね。

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