20歳の冬

この年齢付近が1番心霊スポット巡礼を精力的に行っていた。
仲の良い男3人、プラス女の子居たり、居なかったり、ほぼ居たり。
夜ご飯をみんなで食べて、心霊スポットに向かって探検、その後各々しけ込むみたいなのがルーティン化していた。
ここが私のアナザースカイ!心霊スポットです!的な

経済に関する講義をなんとなーく聞き流しながし、昼飯何しばこうかなとか考えている時に、遅れて教室に入って来た顔見知りが俺の横に座った。

講義で会うくらいで大して仲良くもないが、
俺が熱心に心霊スポットを回ってる話しを誰かに聞いたらしく、話題を振ってきた。
自分も行ってみたい、と興味津々みたい。
正直、いつもの慣れたメンバーで行く方が気を遣わなくて楽なのでビミョーだなと思っていたのが、恐らく顔に出ていた。
それを知ってか知らずか、
女友達が3人居て、その子達も行きたいと言っていたと後出しの情報を出してきやがった。

俺は1番重要なことを聞いてみた。
その子達は美人なのか?

名前を挙げられたが、ぶっちゃけ分からん。
他の講義を取ってる3人いつも一緒にいる子達と言われて、ぼんやりイメージが湧く。
まあ時間は有り余ってるし、ほぼ知らないメンバーで行ってみるか。
日時もブサイク(俺)に合わせるし、集合場所もしかり、慣れてるだろうから車も出して欲しいとのこと。
程よく言ってるけど、おんぶに抱っこじゃねぇか貴様と思いながら、どこに行くかだけは決めてくれと伝えて解散。

当日、ファミレスで合流し夜ご飯を先に食べる。メンバーは予定通り。
ピアス君(顔見知り男)、美人A、美人B、普通C
上記の男2、女3
心霊スポットに行くというのに美人Bはヒールを履いてきてた。
何向けの身長かさましだよ、これだから素人さんは、みたいな訳の分からないプロ目線になったが口には出さず。
ただ、廃墟行くのに歩きづらい靴は本当にナンセンス甚だしいし、危ないのでみんなも気をつけて。

ファミレスの段階で割と盛り上がって、
ピアス君が
「俺あんまり幽霊怖いとかないんだよね」
と豪語してたので、男らしくて好き!抱いて!とか適当にもてはやしといた。

時刻は22時を回り
Let’s 心霊スポットへ
場所は女子達が決めた廃ラブホテル。
その子達の地元では有名なスポットで、
不倫の末に生まれた子をそこで殺めて、自分は裏の山で首括った、という曰く付き。
ありがちな話しだけど、その子達が子供の頃にニュースにもなったらしく信憑性は中々高い。
無事帰ってこれたら廃じゃない方に行こうね!っていうジョークを3回くらい飛ばしたと思う。

敷地内に車を止めて、ライトで全体を照らしてみる。
倒れた看板、つたに巻かれた建物、窓ガラスは殆ど割れている。国道から外れ、裏が件の山なので明かりもなく暗い。
心霊スポットらしく良い雰囲気。

ルートは正面玄関から入り最上階の5階まで上がる。号室は分からないが事件があったのは4階だという噂なので4階で部屋を回ってみる。
割れたガラスに気をつけながら中に侵入
左手にフロント、右手に階段
正面の部屋選択用のパネルも割れている。

なかは湿気が多くカビ臭い。
所々苔が生えている。
有名スポットらしく落書きも多い。
車を停めるまではしゃいでいた女子達も顔が強張りダンマリ。
ピアス君がふざけて脅かす茶番を挟みつつ4階へ到着。

部屋の中も同じく汚い。
どの部屋も同じような造りで代わり映えしないが、1部屋だけベッドの上に造花の花が添えてある。
新しくはないが古くもないので、恐らく同じ噂を聞いた先客が怖がらせようと思い置いたのだろう。
この辺りで女子達の恐怖がピークに達し、気分が悪いと言い出したので5階は諦めて引き返すことに。

ピアス君と女子達を前に歩かせ俺が1番後ろを歩いて戻る。
ここが営業していた当時は自動精算なんかないから、エアシューターだったのか直フロントだったのかな、等々どうでも良いことを考えながら階段を下る。
3階と2階の間で前を歩いている美人Bが
「きゃっ」と短い悲鳴を上げた。
不意打ちを食らった俺も
「おふぁ」みたいな変な声が出た。
瞬間前を歩いてたピアス君と女子2人がビビって悲鳴を上げダッシュし始めた。

ライトで美人Bを照らす。
なんのことはない転んだだけ。
手を貸し立たせようと思ったが、足が痛いよりも腰が抜けて立てないとシクシク泣いている。
仕方ないので背負って階段を降りる。背中で震える美人の方に首を少し傾けながら、
ヒールが良くなかったね、と美人Bに話しかける。
「ゴメンね」とより一層シクシク泣き出した。
マズいと思い、
「吊り橋効果で好きになりそうやん!お尻触っていい?」とジョークを飛ばすも、
またも「ゴメンね」
この質問にゴメンねてなんやねん。

玄関を出ると、車の近くでライトがチラチラ動いている。
車に乗ることもできず薄情者3人がオタオタしていた。
そりゃー鍵持ってる俺を置いて行ったからね。

駆け寄ってきて、
「大丈夫?怪我してない?」とか言い合う女子達を横目に、ピアス君に
「流石幽霊怖くない奴はやること違うね」
と笑いながら声を掛けてやった。
スゲーバツの悪い顔をしてた。

行きとは打って変わって帰りの車内は皆無言。
美人Bは後ろで女の子2人に挟まれて俯き、たまにゴメンねとか細い声で言ってた。

その後何かする雰囲気でもなかったので、順番に家に送って、最終美人Bと2人になった、ていうかなるように組んだ。

後ろで1人は怖いので助手席に座りたいと言われ快く了承。
だいぶ落ち着いたみたいで、おぶったことのお礼と謝罪を受けた。
怪我が無くて良かったね美人が怪我したら悲しいよ俺、なんて軽口に少し笑ってくれた。

「さっきみんなが居るときには言えんかったんやけど」と神妙な表情に戻る美人B。
ここから続くのは「私ブサイク君が好きなの」で間違い無いと思いワザとスカしたツラを作る俺。
全然違った。

内容は2つある。
1つ目は、心霊スポットで転んだのはヒールのせいだとみんな思ってるだろうけど違う。
足首を掴まれた感覚があって転んだ。
怖すぎて立てなかった。背負ってもらって建物を出る時までずっと後ろから足音と視線を感じてた、と

ヤベェ面白すぎ!!ニヤニヤしてたら信じてないでしょ?と睨まれた。
実は、俺も少し感じてた。入って上まで上がる途中、3階を過ぎた時から見られてるような気がしてた。
刺すような、というよりは値踏みするようなジトっとした視線。足音は聞こえてなかったが。だから4階にあった造花は悪戯だろうなと思った理由でもある。視線は帰りに車が道に出るまで、建物が見えなくなるまで感じてた。
ブサイク君は感じなかったか?と聞かれて
これ以上怖がらせても可愛いそうだと思ったので、ああいう場所だからそういう風に感じただけなんだと思うよと伝えた。

2つ目は、携帯を落としてきた。
車に乗り込み動き出してすぐに気付いたが、みんなの雰囲気とこのメンバーにこれを言うとなんて言われるか想像したら、言い出せなかった。と

恐らく転んだ時だろう、ということは場所も分かってはいるのだが、とりあえず
携帯紛失時の第1手、電話を掛ける!を
提案してみた。
もし、誰かもしくは何かが出ることを想像したら怖いのでと即却下。
俺は2の手を考えると同時に不埒な発想も思いついた。
今日は怖いだろうから明日の昼間に取りに行こう、今日は電気を付けてなるべく鏡を見ないようにして寝なきゃね。
美人Bが1人暮らしなのは把握済み。
家に帰って1人の部屋を連想させる。

「申し訳ないんだけど、今日泊まってもいいかな?」
こちらから言うのではなく言わせる技術。
人の弱みにつけ込んだサイテーの1手だが、同時に神がかった1手だと思う。
もちろんいいよ俺も怖いしと真っ黒な嘘を吐き、マッチ箱のような俺の城へ舵を切った。

ベッドでゴソゴソしている時に足首もサラッと確認したけど、赤黒い手形が、、、、、、なーんてのもなかった。

次の日、真昼間に再度廃ラブホ へ
怖いから取ってきてくれとか身勝手なことを言わずに、ちゃんと自分も探しにくるあたり美人Bの人の良さを感じる。
携帯は転んだ場所に普通に落ちていた。
せっかくだから3階の部屋を見て回るか聞いてみたが、絶対無理と即却下。
大人しく帰ることにした。

美人Bには卒業までの間、毎回テスト直前にお世話になった。勉強のできる子で助かったし、被っている講義の時は友達の少ない俺と一緒に受けてくれた。

それとは裏腹に、心霊スポット以降大学内で女子3人が一緒にいる姿を見ることは2度となかった。