禍話リライト「蛇行」

　ドライブ怪談で、蛇行運転を初めて味わったって話なんですけどね。
　同級生のＡ君、すごい運転が上手い人でしてね、山道を走っても同乗者は全然酔わないんですよ、みんな「すごいな」と認める腕前なんです、「お前将来運転手やれよ」と言われるほどなんです。
　高級ハイヤーの運転手やったらひっぱりだこだろうなって。

　そのＡ君、ある日友達と二人でドライブを楽しんでましてね、友達が運転をしていてＡ君助手席で、山道を走っていて、Ａ君トイレに行きたくなったんですね、
　でもトイレが見つからないなーと思っていて、まぁいいや、そこらでしても構わないだろうと友達に
「ちょっと止めてくれないか」
「どうした、トイレか」
「そうそう」
と軽くやりとりをして、さっきから他の車も全然見ないので、まぁ道が広いところまで行ってから止めましてね、Ａ君降りて、少し藪の中に入っておしっこして、すぐ戻ったんですね、
　友達は別に休憩やストレッチなんかせず、車を降りずにずっと運転席にいたんですよ、
「悪い悪い終わった終わった」って助手席に乗って。
　またばーっと走り出しまして。
　そしたら友達、なんか様子がおかしくて、会話もよそよそしくなったんですよ。
（あれ？なんでこいつ、語尾がこもるんだ？）
　それでもたわいもない話をするんですが、友達はだんだん後ろを気にするようになりまして。バックミラーをちらちら気にするんですよ。
（ん？なんだ？）と思うんですが、ずっと後ろを気にしだして止まらないんです。
「お前、どうしたんだよ。後ばかり見て。なんかあんの？」と聞きますと
「いや、彼女、大丈夫かなって」
は？
「何言ってんの？お前」
「いや、Ｓ字カーブを何度も曲がっているから、彼女具合悪くなってないかな」って言うんです。
　言ってることが全然解らない。
　これは冗談で言ってるのか？
　とりあえず否定せず話しに乗ってやろうと思って
「いや、いつ乗せたんだよ」
「いやお前がおしっこに行ったときに来たじゃん」
　あれ？冗談で落ちないんだ…
　仕方がないので強めに
「そんときも誰も乗ってきてないじゃないか！」と言いますと友達ハッとして
「うわぁー！そうだー！」と大声を上げて、そこから蛇行運転凄かったんですって。
　あやうく事故りかけたそうなんですが、なんとか止めさせて、
「おい運転代われ、今のお前に運転させたら死ぬわ！」
と言いますと、彼がおしっこに行ったあたりから記憶があやふやになっていて、後ろに女の子が乗っていると思ったから気を遣ってかいがいしい運転をしてたと言うんです。
　途中から彼女が下を向き始めたから、山道で酔い始めたのかなと思って後ろを気にしだしたと。
「考えてみればいつからあの子乗ったんだ」と正気に戻ったそうです。
　別にＡ君が降りたところに塚とかお墓があったわけではないんです、花束なんかもない、なんだったのかさっぱり解らない。
　その道、彼らには使わざるを得ない場所でそれ以降も通っているんですけど、その後はそんなこともなく、本当に不思議な体験だったんですけどね、
　Ａ君の先輩の耳に入りましてちょっと話を聞かせろと。
　なのでＡ君話しまして
「いやー、こんなことがあって蛇行運転がすごくて、久しぶりに酔いましたし死ぬかと思いましたよ」
と話したら先輩真顔で
「あの道は止まっちゃ駄目なんだよ」って言うんです。
「え？」
「あそこ、考えて見ろよ。昔からある道なのに、いろいろ無いだろ？まずトイレが無いし、公衆電話も一つも無い、休憩所もなければ展望台も無い、なんにも無いだろ」
「…あ、一つも無い…」
「止まっちゃいけないからだよ」
　ううぇぇぇ！怖ぇ！と思って、それからはその道を通るときできる限り速めに通り過ぎるようにしているんだそうです。

…乗せて、家まで行っちゃったら、どうなるんでしょうね？

うぅおぉ！うぅおぉ！
山道！何度もＳ字カーブ！そして止まると！
禍話リライト「死んでいくビデオ」
https://note.com/tiltintinontun/n/n8b3e48c80929

震！禍話　第八夜

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