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霊穴

霊穴 戸井町史
 戸井村と旧亀屋村(現函館市)の境に標高四〇八米の丸山という山がある。この山には昔から龍神が居ると言われ、霊山として旧五月五日に大漁祈願の参詣人が数十人登山した。

 鳥居の前に煙草をおいてお堂のあるところまで登る。龍神は煙草を嫌うと信じられ、鳥居をくぐったら煙単を吸わない。
 お堂の近くに北向きの穴があり、その穴の中に龍神が居ると信じられている。
 参詣の人々は穴の前に持って行った卵、魚、赤飯などを供え、鰮、鮪、鰤、いかなどの大漁をそれぞれ祈願し、お堂の所へ戻って持参した酒をくみ交しながら雑談をする。そうして三十分位して穴の所へ行って供物の状態を見るのである。
 不思議に供えた卵や魚がなくなっている。それを見て「今年は鮪が大漁だとか、鰮が大漁だとか」とそれぞれ判断するのである。参詣が終ると持っていった木の大刀小刀をお堂のとこへ置いて帰るのである。

 ある木こりが月夜の晩に鋸と斧をといでいたところ、竹やぶが大風が吹いたようにざわざわと鳴った。
 風もないのに不思議だと思って小屋の外へ出て見たところ小屋の屋根に物すごい大蛇が居り小屋の後に下っていた。
 木こりは夢中でとぎすました斧で大蛇を切りつけて倒した。この木こりは、気味が悪くなりその晩のうちに里へ下りその話を村人に伝えた。翌日村人がその大蛇を見に行ったところが、おびただしい烏の大群が小屋の附近に集っていて大蛇は骨だけになっていた。
 木こりはこのことがあってから一週間目に病死した。

 これ以来丸山の龍神の供物のうけ方が変ったので、村人は丸山の雌雄二匹の大蛇のどちらか一匹が木こりに殺されたのであろうとうわさした。
 大蛇については次のような話もある。

 昭和四十三年七月八日、丸山竜神の信仰者、島口キエの依頼で、丸山竜神の境内清掃、道路つけの奉仕に弁才町と瀬田来の有志九人が丸山に参詣した。一行は奉仕作業を終って、丸山の洞窟前に酒(一升びんに入れた五合位のもの)、卵、乾魚、お菓子を供えて、お堂の前に戻り三十分位酒をくみ交して待ち、二人が洞窟の所へ行ったが青くなって駈け戻って来た。「供えたものが全部なくなっていた」という報告である。
 そこで九人が揃って洞窟の所へ行って見たところ、報告通り酒のびんと皿だけを残し、供えたものが全部なくなっているのを見て驚いた。酒びんは倒れていたので、酒がこぼれたのではないかと考えびんのそばの草などを分けて調べたが、こぼれた形跡は全然なかった。昔は供物がなくなっても一部がなくなる程度で、この度のように全部がなくなったのは始めてである。



https://twitter.com/tikutaku/status/1777677380724941153
 

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