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妖婆

骨董羹:―寿陵余子の仮名のもとに筆を執れる戯文― 芥川龍之介

 英語にwitchと唱ふるもの、大むねは妖婆と飜譯すれど、年少美貌のウイツチ亦(また)決して少しとは云ふべからず。

 レジユウコウスキイが「先覺者」ダンヌンツイオが「ジヨリオの娘」或は遙に品下れどクロオフオオドがWitch of Pragueなど、顏玉の如きウイツチを描きしもの、尋ぬれば猶多かるべし。されど白髮蒼顏のウイツチの如く、活躍せる性格少きは否み難き事實ならんか。

 スコツト、ホオソオンが昔は問はず、近代の英米文學中、妖婆を描きて出色なるものは、キツプリングがThe Courting of Dinah Shaddの如き、或は隨一とも稱すべき乎。ハアデイが小説にも、妖婆に材を取る事珍らしからず。名高きUnder the Greenwoodの中なる、エリザベス・エンダアフイルドもこの類なり。

 日本にては山姥鬼婆共に純然たるウイツチならず。支那にてはかの夜譚隨録載する所の夜星子なるもの、略妖婆たるに近かるべし。

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