10年振りに腐女子へと戻った話①

■はじめに
 この作文にも満たない私個人の感想垂れ流しについて、貴重な時間を割いてまで読むことを特段おすすめしない。

"一度腐った納豆は、もう二度と元の大豆には戻れない"

 そんな恐ろしい言葉を呪いのように身に纏いたくもない。経過観察として、私個人の心境の変化を書き留めておきたかった。ただそれだけのことである。


■天国の扉・地獄の門
 2020年春。約10年以上振りに界隈に舞い戻った。所謂同人界隈。何を隠そう私は腐女子だった。正直なところ、COVID-19がここまで猛威を奮わなければ人生2度目のオタク活動に勤しむことなんてなかっただろう。1年経過した現在でも強く思う。
 きっかけは些細なことだった。人はこんなにも簡単に沼へ落ちるものかと、久しく忘れかけていた事実に直面する。我ながら実に単純である。

 まだ素直に週5出社をガンギメしていた時代、我が家のBDレコーダーは毎日のように稼働し続け、主同様真面目にその責務を担っていた。週末に処理できなかった未視聴の番組は順調に溜まり続け、外付けHDDと共に容量オーバー目前となる頃コロナがやってきた。
 在宅時間が増え、見たい番組や録り溜めたドラマ・映画を消化していく中で、ひとつのアニメが見つかった。サブスクにも課金していた私は、海外作品の字幕を追うことにも疲れ(個人的に吹替はあまり見ない)ドキュメンタリーにも飽き、あまり詳しくないアニメをBGM代わりに流し始めた。
 その作品は、今はもう疎遠になってしまった友人が5〜6年ほど前にハマっていたスポーツ青春ものの少年漫画が原作のアニメだった。(後々2.5次元ミュージカルなるものも知ることになるが、ここでは割愛する。)
 競技は違えど学生時代運動部だった私は、特にルール解釈へ窮することもなく、その友人を思い出しながらぼんやりと見始めた。──はずだった。

■出会い
 そのアニメは現在第4期まで製作され、5期を望む声も多く聞かれる。勿論私もそのひとりだ。元々は主要局で放送が開始された作品は、気づけば放送形態を変え深夜アニメとして多くのファンを魅了していた。
 私はというと、小学生時代に熱中した某少女アニメの再放送に喜び毎週録画設定したのち、放送終了後も設定解除を失念したまま、たまたま録画されていたことを機に今作品と出会うことになる。正しく偶然の産物に他ならない。
 見始めた当初もそれほど作品への興味はなく、前述した通りあくまでも「BGM代わり」に流していた。ではなぜ、私はこの作品にハマったのか。

■ながら見とwikiと私
 正直に言うと第1期と第2期はそこまで記憶にない。このことは箱推しの相互が多い中、SNS上では口が裂けても言えない。なのでここに書くこととする。
 私が録画消化をし始めた頃、時を同じくして発行元である出版社が原作の無料公開に踏み切った。無論期間限定だ。そこには名だたる作品が並び、混沌とした世の中へ僅かながらも楽しい娯楽を提供してくれた。それでもまだ、私は原作に手を出さなかった。
 BGM代わりに流すアニメの内容など到底理解できず、気になったらたまにWikipediaに頼る。そんな邪道極まりない見方を繰り返していたところ、アニメは第3期に突入した。ここで運命が変わる。原作無料公開終了日とGWが目前に迫っていたある日、私の脳天に稲妻が落ちたのだ。──推しとの出会いである。

■降臨
 そのキャラクターは偏に性格が悪くどちらかと言えば主人公と真逆の人物で、ライバル基ある種敵役のようにも見受けられる位置付けだった。今振り返れば私が好きになるキャラクター要素の一欠片程度しか掠っていない、割とイレギュラータイプだった。
 第1期から主要メンバーとして登場してきたのにも関わらず、ここにくるまで興味も持たなかった人物にまさかここまで狂わされるとは。腐女子として不甲斐なし! 穴があったらそこに棒状のものを……(以下略!)

 アニメ第3期視聴開始と共に、前クールとは明らかなるモチベーションの違いに若干戸惑ったのも事実。何がどう変わったのか、今でも上手く言葉にできない。
 高くて美味しい紅茶を会議後に飲める時間ができたとか。朝ギリギリまで寝られるお陰で肌艶がとても良くなったとか。枚挙に暇がないくらい、在宅勤務がプラス面に働いていた。話を戻そう。

 贔屓目に見て推しキャラ成長記録といっても過言ではない第3期は、もはや私の中では神だった。メインシーンの躍動感、ストーリーの重厚感、キャラクターが織りなす信頼感。すべてをとってもパーフェクトだった。そしてここにきて漸く、私は強い衝動に駆られる。

 「──原作を読みたい!」

 「遅い」とか「今さら」などという野次は、この際右から左へ受け流そう。タイミングなんてこの段階ではどうでもいい。そう、だって「俺は今なんだよ!」という答えしか、あの時の私は持ち合わせていなかったから。
 こうして出会うべくして推しキャラに出会った私は、無料公開期間中に該当巻数まで一気読みし、後日近所の書店で単行本の一括購入を試みる。
 しかしながら、話はここで終わるはずもなく新たな扉を開くこととなる。そう、なぜなら私は一度腐った身。無意識のうちに、次の沼へと自ら近づいていたのだった。

■沼ったジャンルに「神」がいます。
 見事沼に落ちた私だったが、次の作業が既に待ち受けていた。推しCPの把握である。なんせこの作品、スポーツ漫画あるある「登場人物がべらぼうに多い」。某海賊漫画の比ではないにしろ、それでも多い。すごすぎる。それを描き分け、魅力的な人物を創造する漫画家先生の苦悩と努力、そして愛。それを理解した上でも「推しCP」などを把握し、あわよくば萌えようとする己の腐り加減に嫌気が差す。だがしかし、一度腐り方を思い出したら元・腐女子は止まらない。

 文明の利器とSNSを駆使し情報の海へと飛び込んだ瞬間、そこには想像以上の世界が存在していた。数年前の「キラキラ女子」という造語よろしく、圧倒的画力と己の欲と萌えとエモを吐き出す「キラキラ絵師」が国境を越えて存在していた。
 10年以上前だったら出会えなかった数多のCPや作品が可視化され、眼前に広がる。一目でわかるクオリティの高さに、ただただ呆然とするだけだった。怖いくらいの情報量に脳の処理が追いつかない、本音を言うとそれほどの衝撃だった。
 あまりの作品数に、某イラスト・小説投稿サービスに入り浸りすぎて何日も現実に戻って来られない日々が続いていた。勢いと情熱だけで感想を送り、同時に10年以上前とは様変わりした界隈ルールを把握することも忘れなかった。(先人が言った「半年ROMれ」という言葉、今になってその有難みがわかってきたような気さえする。)
 その中で、推しキャラを絡めた一組のCPにいきついた。この出会いこそが、もう二度と這い上がれないほど深い沼に突き落とされた瞬間だった。

 大人になるということは、自分自身の言動をはじめとした責任を担うことである。その中で何が一番得策なのか。周囲と連携し、自分よりも弱い守るべき立場の対象を優先し、常に思考し続け、共存をしていかなければならない。義務と権利の違いをきちんと理解してこその「大人」という役割かもしれない。その中には「経済を回す」などという大仰な言葉も含まれる。

 なんて偉そうな御託を並べてはみたものの、結局のところつまりは「自由になる金が増えた結果、学生時代なら躊躇いまくっていた公式グッズ・同人誌・通販利用にガンガン課金しまくれるの最高!」、「大人って超楽しい!」、「なにこの最高な世界!」とまあこんな感じで、とある作家さんの同人誌を入手可能な限り、片っ端からお買い上げしまくったという報告にすぎない。お陰様で本棚発注するまでに至ったのはここだけの秘密(笑)

■それでも欲は止まらない
 日々更新される公式情報、投稿される作品の数々、進化する界隈のルール、人の数だけ存在するCP、絶大な人気を誇る絵師・文字書きさんの把握。
 仕事かと突っ込みたくなるくらいに夜毎情報の海に沈んでは浮上するを繰り返した結果、半ば死んでいたサブ垢を掘り起こし、気づけば自分好みのTLができあがっていた。喜ぶべきはずなのに、充足感や達成感も束の間、また新たな問題に直面する。我ながら欲深くて嫌になる。次々と湧き上がるこの衝動を私は知っていた。そうなのだ。何かを──創作したいと強く願ってしまったのだ。どうしようもない。10年以上振りに顔を出したのは、かつて置き去りにした悪癖に他ならなかった。

 ▶︎ つづく

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