彼女に「代理店はこんなもん」という言い訳が通じなくなったら。

 「『DHA』のどれかです。ドコサヘキサエン酸ではございません。」都内の優良広告代理店に勤める私は水曜日の21時過ぎに、「広告代理店って電通ですかー?」とマヌケな顔で聞いてくる女をこう躱す。言うまでも無くAとはアサツーディ・ケイのことではない。


 働き方改革が進んだおかげで水曜日は19時にはコリドー街で新規営業に勤しむ。平日ど真ん中、19時のコリドー街はここが銀座と忘れてしまうほど落ち着いている。ターゲットも少ないがそれ以上にコンペティターも少ない。新規営業は戦略が大事ということをナンパから学んだ。そうして私は22時にはタクシーには乗り込み東京駅のビジネスホテルへ向かうのである。ちなみに銀座にラブホテルは無く、かといって帝国ホテルに行くわけにはいかない。


 23時。シャワーに行くという女を適当にあしらい彼女にメッセージを送る。「ごめん!今日局長に誘われて飲みに来ちゃった。抜け出せない!」と。馬鹿野郎。今の時代にそのような話がそうそうあるはずがなかろう。しかし美容師の彼女にはこう言えば大丈夫だった。「代理店とか、マスコミ系は未だにこんなもんだから」。


 しかしそうは続かない。水曜日の2回に1回は家に帰らず連絡も取れない。いつもの言い訳もそろそろ通じなくなる。偉い人も次の日は仕事だし、そんなに若手社員を朝まで連れ回すはずがない。ごもっともでございます。しかし、男は非を認めるわけにはいかない。浮気というのは認めた瞬間から浮気であって、決して認めないのが紳士なのである。たとえベッドの下から浮気相手の下着が出てきたとしても認めてはならないのである。被るために買った。3回くらい被った。と万引きの常習犯のように応えるべきなのである。
話がそれたが「代理店はこんなもん」という言い訳が彼女に通じなくなった。付き合いたての目に入れても痛くない、あばたもえくぼのような恋愛中は通じても、次第に通じなくなるのが「代理店はこんなもん」という言い訳なのであり、結婚を前提にしていない恋愛である。そのようなときには私はこう言うように勧めている。


 「なんで理解してくれんねん!こっちは辛いん我慢して、これも仕事や!社内営業や!思て頑張ってんねん!」
 ポイントは2つだ。彼女が理解をしてくれないことが悲しいかのように泣きそうな顔をすること。方言を出すことだ。ほとんどの彼女は自分が間違っていたと悟るだろう。だから、私たちは常に強気でいればいい。銀座には35億分の500くらいの女がいる。だから私たちは広告新規営業のロールプレイングに今日も行くのだ。

 最後にもう一つ言わせていただきたい。アルコールハラスメントを気にしてか、先輩からのお誘いが少ないように思う。「辛いん我慢して」というのは言い訳であり、本心とは大きく乖離している。ぜひ先輩社員の皆様にはもっと飲み会のお誘いを頂きたい限りだ。

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