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【星野源と新垣結衣、愛の滝修行】

星野源と新垣結衣が結婚した。
あの二人は年齢も近いし「逃げるは恥だが役に立つ」で共演もしているから想像もつきやすい。すごくお似合いのカップルだと思う。
ただ、少し驚いているのは星野源の見かけによらないその【度胸】で

「星野源はよく共演女優を口説く気になったなぁ」

と感心している。というのも、私の周りで演劇を経験したことのある男は共演した女性を好きになってしまう輩が多く、結果、現実と虚構の境を見失い、とんでもない失敗をしているのを散々見てきたからだ。
恋愛ものの舞台をしたりするとその感情が演者に入り込んでしまうのはよく聞く話だし、共演をきっかけに付き合ったりするケースもよく聞く話ではある。ただ、どんな恋愛を演じていても女性は極めて冷静でありうるが、男はバカだからすぐひっかかる。コロッと落ちる。大学時代、演劇部に所属していた私の知り合いの男がどれだけ、よせばいいのに共演女性へ本気になってぶつかっていき撃沈していったことか。そして、そういうときの女性は必ず舞い上がった男に向かって

「そんなつもりじゃないの」

言う。しかも「ここまで来てそんなこと言う?」という場面でも平気で言い出すようで(※1)、言われた当人からすると「いたずらっぽい笑顔で吐き捨てる」ように言うらしい。

そして、そういった被害で一番印象深かったのが大学時代の女友達が出演している舞台を関係者として特別に袖で見せてもらっていた時で、それは、舞台をはけてきた主人公とヒロインの思いがけないやり取りだった。

「さっきのシーン、本気で私にキスしようとしませんでした?」
「演技に力が入って、つい」
「つい、じゃねぇよバカ野郎!
 変な気おこすの絶対やめてくださいよ!彼氏が見に来てるんですから!」
「え・・・か、彼氏がいるの?」
「そんなこと、アンタになんの関係があんの?!」

いくつかの大学が寄せ集まった演劇同好会みたいなものでお金も取らなかったから「プロ意識」のあるはずもないが、本番中にマジなキスを迫る男も男なら、舞台袖でブチ切れる女も女だと思った。今までの稽古で積み上げてきたものが音を立ててガラガラ崩れる本番中の舞台袖。相手役の女性に激昂され、主人公の男がグダグダになっていく恋愛劇は完全に悲劇で、近くにいた手慣れた大道具が

「こりゃすごい。ハッピーエンドとバッドエンドの二重構造だ」

笑いながら言っていた。それを聞いている私ももはや劇の筋などは一切頭に入らず「甘美に激怒するヒロイン」と「勇敢に失恋中な主人公」を複雑な気持ちで見た。
終演後は、その二人の壮絶な罵り合いを目の当たりにするんじゃないかと怖く、いたたまれなくなって私は逃げるように会場を後にしたが、どうしてもその後の二人が気になったので後日、誘ってくれた女友達からその詳細を聞かせてもらったら、あれ以上のことはなく二人は何事もなく別れたらしい。
ただ、あのヒロインが共演男性をメロメロにするのは毎度のことのようで、

「そろそろ【被害男優の会】が結成されるんじゃないっすかね?」

言ってケタケタ笑っていた。どうやらあの男が日々彼女のことを好きになっていくその裏で、彼女にはそんな気持ちは微塵もなくむしろ

「生理的に受け付けない。共演者でなかったら話もしたくない。」

と、毎日彼のことを唾棄するようにこきおろしていたらしい。そうとは知らず男の方は、彼女が舞台を創り上げる為におそらくはプライベートでも確信的に彼を落とそうと甘い言葉と可愛らしい仕草で振る舞う見せかけの優しさにすら気づかず、現実と虚構の境目を見失わされた挙句、

「彼女も絶対に、俺のことが好きに違いない!」

とまで思いこまされるに至って、本番中に本気のキスという暴挙を決意したのだろう。そう思うと、理性を失ってのぼせあがったあの男がなんとも哀れでお気の毒としか言いようがない。

そこにきて。
新垣結衣はプロの女優だ。これまでに数々の男優を勘違いさせてきたに違いない。
もし・・・・もしも。ド素人の私が新垣結衣の恋人役として大抜擢。TBSの現場であの可愛らしい顔が目の前に迫ってジッと私を見つめながら

「触っていいんです!
 あなただからいいって思ってるのにどうしてわかってくれないんですか!」
(「逃げるは恥だが役に立つ」より)

言ったとすると、それはもう大惨事以外想像できない。

「ええっ?・・・・良いんですか?触って」

から始まる私の暴挙に新垣結衣が悲鳴を上げ、スタッフが慌てて私を引きはがし監督が激怒、番組はお蔵入りになって私はTBSに莫大な損害賠償を払い、芸能化を干されてしまう一連の流れは想像に難くない。

そして・・・・そして。
これは私が男だから男目線で書いたが、上記の事態は女性にも完全に当てはまる。

「ええっ?・・・・良いんですか?触って」

は、喜びを隠せずにニヤついた女性がTBSで木村拓哉や竹野内豊、嵐のメンバーなどに向かってマジで言いかねないセリフでもある。
こう考えていくと、美男美女揃いの恋愛ドラマはつくづく「好きになりそう」と「本気にしないでね」のるつぼで誰にとっても我慢の生き地獄、「騙されちゃいけない」疑心暗鬼の日々だと思う。

星野源と新垣結衣はそんな毎日が滝修行みたいな現場を乗り越えて本物の恋を実らせたのだから大したものだ。

※1
「どこまできて」言われたかは本人の名誉のため申し上げられません。

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