44.スラムダンク創作山王でわちゃわちゃする話(一之倉聡)

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※スピンオフ
※43話の続き
※文化祭、夏設定にしてます。すみません。
※メインの話より過去
完全自己満、創作なので苦手な方はご遠慮ください。誤字脱字あり。すみません。

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「あっ、雨降ってきた。」
両手に荷物を抱えて校舎を移動する。
ビルの間が晴れている。
なのに珍しく雨が降り始める。
顔に水滴がつたう。

こんな雨の日は思い出す。

躊躇せず走り出す。

まだ、ぬくもりを覚えてる。
雨に降られると
あなたに会えた気持ちになる。
この気持ちを思い出すから。
私に後ろ向きな気持ちなんてない。

金髪のショートボブをかき乱して
周りの目なんて気にしない。
力強く走り出す。

今日こそ、あなたに見つけて欲しくて
また、あの目にうつる自分を夢見てる。

あの時のかっこ悪い私より
マシに見えるはず。

ずっと待ってたこの瞬間。
走り込んだ建物にはりめぐらされた
黒幕を託し開けて。
動き出す世界。
顰めっ面をするオーディエンスに
素敵な物を見せてあげる。



「凄かったね。」

同じ学科のサキがバックステージの控え室で
椅子にもたれかかる私に話しかける。

街に待っていたファッションショーの終わりは
一つの映画が終わっていくような感覚だった。

文化服飾の学校で
今日の為にチームで頑張って準備してきた。

「ミレイのコンセプト完璧だったよ。」
サキが珍しく興奮してる様子が嬉しかった。

「よく思いついたよね。本当に。」
そう言ってオシャレな配色のバスケットボールを手に取った。
モデルはストリートバスケをしている人や
フリースタイルバスケットボールをしている人達
に頼んだ。
ファッションショーのキャットウォークを歩きながら
多彩なボールハンドリング、アクロバットなパフォーマンスで魅せてもらった。

「まぁね。」
そう言って、私がデザインした
スポーツミックスをコンセプトにした服達をしまう。
「みんな口空いてたよね。」
「そうだね。」そう言って笑いあう。

文化祭のファッションショーは
観客がたくさん入るうちの学校の目玉イベントだ。
今日が終わってしまったのが少し寂しい。

「ミレイそういえば知り合い来てたよ。」
「え?だれ?」
「さっき外で話しかけられてさ。
バスケのボール使ったファッションショーの最後に出てきた人ってミレイですか?って聞かれて。」

それを聞いて、少しずつ胸が高鳴る。
「へぇ、なんて人?」
「名前聞かなかった。」
そう言ってボールを片付けるサキを見つめる。

「ミレイですよー。って言って呼んできますか?って言ったらいいっていうから。」

まさかね。
そう思いながら、話しかけられた場所を聞く。

「ちょっと行ってきていい?」
そう言って「え?もう打ち上げだよ」
ごねるサキを置いて走り出した。

周りを見渡す。
記憶を巡らして、面影を探す。

「あのー。」
周りを見渡していると
知らない男性に話しかけられた。
「自分OBなんだけど、あのバスケのショーやった子だよね?」
「…はい。そうですけど。」

そういうと、男の人は名刺を渡してきた。
名刺を見ると、有名なスポーツ用品ブランドの名前が書いてあったので驚いて顔を上げる。

「すごいセンスあるね。」
褒められて単純に嬉しくなる。
「ありがとうございます。」

「また、会えそうな気がする。」
そう言ってその人は、手を挙げて立ち去っていった。

私を探していた人は、この人だったのかな?

そう思って、賞賛を受けた事の嬉しさと
期待がはずれた残念な気持ちになる。

ふと、校舎の入り口を歩く男の人が目に入った。

期待でドキドキする。
今回ばかりは少し躊躇する。
でも、気持ちが先走って
走り出すのを抑えられない。

どんな顔で、どんな声で話しかけよう。

「一之倉!」
最後に会った日みたいに、追いかける。
自分でも驚く位大きな声が出た。

ゆっくり振り返るその人を見る。
あの頃と同じ目で私を見つめる。

会いたくて、会いたくて
たまらなかった。

「ミレイ?」
低い声で私を呼んだ。
変わらない表情で、少し驚いている様子だった。

「…久しぶり。」心臓がドキドキして止まらない。

「珍しいね。ミレイが俺を見つけるの。」
そう言って少し困ったように笑う。
懐かしい表情を見て、両手で口を抑えた。
一之倉だ…。

相変わらず波巻きのパーマをかけていて
何にも変わらないけど
近くで見ると前より体格が良くなってて
時間の経過を感じる。

変わったのは私が少し大人になった事。

少しずつ近づく。
近くで顔を見て一之倉の黒目が揺れてるのがわかる。

「私、一之倉との約束守ってるよ。」
「…本当に?」
そう言って顔を傾ける一之倉を見て
なんとも言えない気持ちになる。

思わず、一之倉に抱きつく。
気持ちが抑えられなかった。

「会いたかった。」

ずっと想像してた。
また会ったらなんて言うか。
何度も頭の中で繰り返したセリフを言う。

求め方もわからなくて
好きって伝え方も曖昧だったあの頃の私はもういない。




一之倉の様子が少しおかしい。

今日久しぶりに飲みに誘われたので
練習帰りに、待ち合わせの飲み屋で会う。
新宿にいたらしくて、それも珍しく思った。

「なぁ、深津。」

少し思い詰めたように酒の進みがはやい。
深刻な悩みがあるのかな。と心配になる。

「高校の時アキちゃんと…」

久しぶりに聞く名前に
この話題を避けていたことを
知っていた一之倉が聞いてくるということは
何かあったんだな。と察した。

「さよならしたの、後悔してるか?」
質問の内容に驚く。
驚いたと同時に考えないようにしてた
トピックスに頭を悩ます。

「後悔…。」
一口緑茶ハイを飲みながら、言葉を繰り返した。

「自分がしたい事が今出来てるし、それに関しては後悔してない。」
そう言うのを、眉を下げて聞く一之倉。

「ただ」
後味に残る玉露の苦味を感じて
割り箸で混ぜた。

「今なら、同じ事を選ぶかわかんないぴょん。」
残りを一気に飲む。

「こう、思うのを後悔っていうなら、してるのかも。」
そう目を合わせずに言った。

バスケの事なら何でも相談に乗れるけど
こういう話は気の利いた事が何も言えない。
そう思いながらやりづらさを感じる。

もしかして。
疎い自分でも一つ思い当たる事があったので
思い切って切り出してみる事にした。

「一之倉、ミサキちゃんと付き合ったぴょん?」

名前を出した途端に浮かない顔をする。
あれ。唯一の心当たりは、外れたようだった。

「ミサキには先月、告白されたよ。」

それを聞いて、やっとか。と心の中で呟く。
ミサキは一之倉と自分と
同じ大学の同級生で、
真面目で頭が凄くいい子だった。
スポーツ工学を専攻していて、
今は研究所で働いていると聞いていた。

なんとなく、一之倉の事を好きなんだろうな。と
思っていてバスケ三昧だった学生時代が終わったら何か進展があるかも。と予想していた。

まぁ、卒業してもバスケ三昧なんだけど…と思いながら
こないだ同窓会でミサキちゃんと会った時
付き合ってないし、気持ちも伝えてない。と実は聞いていた。
1年前に外部コーチを始めてから
あまり会えなくなったとかなんとか…。

あー。
ちゃんと話し聞いてればよかったぴょん。

そう思って適当に話しを聞いていた事を後悔する。

「一之倉は、ミサキちゃんの事好きぴょん?」

自分で聞いといて、
気持ち悪いな。と思った。
こんな話し、しないから。

「たぶん、ミサキといたら楽なんだろうな。と思う。仲良いし….」

そう言いながら、自分の腕をさする。
一之倉の言葉に嘘はなさそうだった。

確かに。
正直、スポーツで飯を食うのは大変だ。
ミサキちゃんは手に職もあるし、
理解もある。
もし、怪我でバスケが出来なくなっても
相手に迷惑をかけることも、困ることはない。

そう狡猾に考える自分と
同じ事を一之倉が考えているかは
わからない。
自分は考えすぎる所がある。
一之倉は体が故障した時のことも考えて
コーチングの資格もとるような慎重な性格で
突発的な行動はしない。

「俺は、起きてもいない未来を考えがちだから」
なぜか言葉が出た。
その様子を一之倉が珍しそうに聞く。

「たまには自分の気持ちにそのまま任せちゃえよ。って」

高校生の時に一之倉に言われた言葉を繰り返す。

「必要な言葉だったな。って今なら思うぴょん。」
「…そうか。」

しばらく話題を変えて話して、店を後にする。

新宿駅の西口まで歩く途中
一之倉の携帯が鳴った。
すぐ出ない様子を見てどうしたんだろう。と思う。
目配せして、ちょっと電話でるわ。と
気を使う。

「あ、もしもし。どうしたの?」
慎重に話す一之倉を見て
歩みを緩めた。

「え?今?今は…西口のユニクロ前」
友達かな?そう思ってユニクロの前で立ち止まった。
その途端、向かい側から一之倉の名前を呼ぶ声が聞こえる。

「一之倉!」

女の子の声で首を傾げる。
女?意外だった。
まぁ、女友達はいると思うけど。
意外だったのは風貌で
エネルギッシュに派手だった。
弾けるような笑顔で一之倉に近づく。

一之倉はいつも通りに見えて
少し動揺してるのがわかった。

「あっ、友達といたんだね。」
そう恥ずかしそうな赤い顔で
見上げて会釈された。
これは…。
邪魔か?

「一之倉、俺タクシーで帰るぴょん」
そう言って、また。と2人とは反対方向に歩き出した。

「あ、深津。また!」
一之倉が慌てながら声をかける。
後ろ手に手を振った。

しばらく歩いた後考える。
「あれは、ミサキちゃん勝てなそうぴょん。」
ため息しながら独り言を呟く。

あの子、アキちゃんが俺の事見る目と
同じ目で一之倉の事見てたな。

懐かしい気持ちが蘇りそうになって
蓋をした。




雑踏の中、すぐ一之倉を見つけた。
打ち上げが終わった後
一之倉がもしまだ新宿にいたら、
会えるかも?と思って
思いきって電話してみてよかった。

再会して浮かれてる自分と
目の前で少し困惑してる一之倉。
少し気まづい。
やっぱり、さっき勢いに任せて
抱きついちゃったのまずかったかな…。
すぐ離れたけど、一之倉の顔恥ずかしくて見れなかった。

少し弱気になる気持ち。
でも、ずっとずっと会いたくて
たまらなかった一之倉を見たら
このままバイバイなんて出来なくて
電話番号だけ教えてもらった。

「ミレイ、家どこ?」
話しかけられて嬉しくて顔を上げる。
「家?なんで?」
「いや、終電あるかなって。」
そう言われて、少し焦る。

「あ、気にしないで!」
何にも考えないでそう言った。
「…一之倉は?」心配になって聞く。
もしかして、もうバイバイなのかな。

「あー。俺さっきで終電終わったから、始発まで時間潰すけど…」
そう言いかけて、あっと言う顔をする。
「方向一緒だったらタクシーで送るよ?」

「えっと。」
まだ一緒にいたい。
「私も、始発まで時間潰す!」
そう答えた。
「ミレイ、19だよね?」
「え、うん。」
頷いた後、困った顔の一之倉を見て
懐かしい反面少し悲しくなる。

そっか。居酒屋も行けないし
時間潰せる所ないのか。
友達といる時はカラオケ行くしな…。

なんか、私また一之倉困らせてるかな。
肩からショルダーがずり落ちる。
今日ショーで使った服を全部持ってきたから
バックが重い。

「ミレイ持つよ。」
そう言って一之倉が手を差し出す。
鞄を持ち直すと、後ろからくる酔っ払いの人とぶつかりそうになって一之倉がもう片方の手で歩道の端に誘導してくれた。

「ありがとう。」
そう言ってショルダーバックを肩から下ろした時
焦ってバックがずり落ちた。

最悪…。思いっきりビリッて音がした。
来ていたオフショルダーの左肩が破ける。
この服安かったからな。と思って
かっこ悪い私。と顔が真っ赤になる。
「大丈夫?」
一之倉がジロジロ見られる私を見て
隠すように立ってくれる。

どうしよう…これで歩きたくない。

「あっこないだ女子会で行ったリゾホで時間つぶす?」
雰囲気を変えたくて、携帯でそこを見せる。
「え…。ここって。」
一之倉がフリーズするけど
私の破れた服を見て
観念したように「いいよ。」と
なぜかいつもと違う顔で言った。

どうしたんだろう。って思いながら
昼に行った場所の記憶を辿りながら歩く。

あれ。なんか。
ネオンが怪しくて、首を傾げる。
こんな雰囲気のところだったっけ?
友達が予約してくれて
こんなオシャレな場所あるんだなーって
お昼にただついてっただけだったから
あんまり詳しくないけど。

こんなラブホテルだらけの所だったっけ…?
急にドギマギしながら
言い出した手前黙って歩く。

部屋が空いてたから
そのまま部屋に向かった。

こないだ8人で行ったから広い部屋だったのか…
天蓋付きクイーンサイズのベッド2台が並んでいた。

「わー、サウナついてるね。」
なんとなく無口な一之倉を見て
目を合わせずに言う。
そうだね〜。という返事が来て安心してると
「ミレイ、何か着替えないの?」
そう心配そうに言われた。

「あっ、多分バスローブあるよね。」
一瞬、一之倉が止まった気がして
少し首を傾げる。

「…着替えてくるね?」
そう言ってパタパタとお風呂場に向かう。

「え、なんかお風呂すごい…」
思わず見惚れながらバスローブに着替えた。

一之倉、嫌じゃないかなぁ。
ここまで付き合わせておいて心配になる。
少しお風呂場のドアを開けて様子を見る。

ベットに横になったと思ったら
顔を両手でこすっていた。
眠そうだなぁ。

そう思いながらおずおずと出てくる。
一之倉の顔を見ながら、くっついている2台のベットの隣に座る。
目を丸くして私を見る一之倉を
顔を傾けて覗き込んだ。

「一之倉。眠い?寝ようか?」
何も言わずに私の顔を見る。

「いや…寝れそうにない。」
「そうなの?」

不思議そうに言う私を見て、息を吐いた。

「ねぇ、俺酒入ってる。」
「うん?飲んでたんだね。」

一之倉と話してるのが嬉しい。
そう思って笑顔で聞く。

私の目の前に、一之倉が手の平を向けて広げる。
懐かしい手を見てドキドキする。

大きいな。そう思った。
「だから」

「この距離はだめ。」
いつも通りの声で言う。
言われた言葉の意味を考える。
顔が熱くなった。

広げられた手の平。
大好きなニオイがした。
恐る恐る手を伸ばす。
手のひらに指を這わした。
ぎゅっと一之倉の手を握る。

手を繋いだまま、ゆっくり手を横にずらした。
一之倉と目が合う。
懐かしい、いつもの目で私を見る。

熱がこもった目。
この目を見ると、毎回期待してしまう。

昔からそんな目で私を見てた。
「一之倉大丈夫だよ。」

一之倉の黒目が揺れる。この目を見るのは2回目。

「私傷つかないから。」

そう言ってキスをした。
差し出した唇の引き際も分からないまま。



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