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小鳥の小父さんとの出会い

小説を読みたい。物語に没入したい。誰かの頭の中に飛び込みたい。そんな思いが高まって、読みかけの本がたくさんあるというのに、本屋に駆け込んで何冊もの小説を買ってしまった。

最初に手にしたのは、小川洋子さんの『ことり』。近所の人から「小鳥の小父さん」と呼ばれた男性の物語だ。小父さんが亡くなったところから始まり、彼の一生を振り返るかたちで進んでいく。

自宅と仕事場と薬局と図書館、そして鳥小屋のある幼稚園。限られた人との限られた会話と、小鳥たちとのやり取り。毎日同じことを繰り返して、変わらない日々を積み重ねていく。

自分は変わるつもりがなくても周りは変わっていく。家族の死、街の変化、人との出会いと別れは誰にでも訪れ、淡々と日々を過ごす小父さんの人生にも、いくつものエピソードが加わっていく。

素晴らしいこともやるせないことも経て訪れたラストシーンは圧巻だ。広大な空と小鳥の羽ばたきが心の中にふわーっと広がって、体が震えて涙が出そうになった。

小父さんは自分で作った籠の中で生きる小鳥だったのかもしれない。そう思ってもう一度読んだら、見え方が変わるような気がする。

小説を読みたいと思った時、どうやって選ぶかが問題だった。本屋で気になったものを、というのが常だけれど、何となく同じ著者の本ばかりになってしまい、冒険ができない。そんな時に目に入ったのが、三宅香帆さんの『名場面でわかる 刺さる小説の技術』という本だ。

「面白い小説の共通点は、自分が好きな場面を挙げられること!」という彼女の持論をもとに、さまざまな小説の名場面とその解説が書かれている。紹介されている25作品は時代もテーマも様々で、自分では手にとらなさそうなものがたくさんある(『ことり』もその中のひとつだった)。さらに、こういう風に読むんだなぁ、と書評家の視点も学べる。文章を書きたい人へはもちろん、読みたい人へのブックリストとしてもオススメしたい。

さて、そろそろ積み重なっている未読本たちが「次は私、次は私」とさえずっているような気配がするのでこの辺で……またいつか。

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