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カップ焼きそばを作る

マルちゃんやきそば弁当。

その言葉は、ある者にとっては甘美な響きを伴って、またある者にとっては郷愁を誘う調べとなって、そしてまたある者にとっては憧憬の対象となって、それぞれの脳裏にありありと像を結ぶことでしょう。
特に、北海道に縁のある者にとってはやきそば弁当というのは、何よりも強く……スープカレーよりもウニ丼よりも強く故郷を思い起こさせる味であることは疑いようがありません。

スーパーのカップ麺売り場に行きましょう。
種々の即席麺たちの間でも一際強い輝きを放つ四角いそれは、まさしくマルちゃんやきそば弁当。
たらこバター、えび塩、ちょい辛……
パッケージもカラフルに、シリーズ化されていて色々な味があります。
太麺コク甘ソースにも惹かれますが、久しぶりのやきそば弁当。
ここはやはりオーソドックスなものにしましょう。

気が付きましたか?
北海道の、住宅地の中にあるような規模のスーパーには、やきそば弁当以外のカップ焼きそばは置いていないことも多いのです。
少なくとも、わたしの家から徒歩45秒のスーパーには、やきそば弁当以外の商品は置いていません。
昔住んでいたアパートの最寄りスーパーも、同じような有様でした。
あったとして、ごくまれにポツンと肩身狭そうにした一平ちゃんが、やきそば弁当と赤いきつねの間に挟まれている程度です。
この状態が合法なのかどうか、社会の基本ルール以上の法に明るくはないのでわかりませんが、少なくとももう25年以上はこのような状態ですので、おそらくは合法なのだと思われます。
ですので、わたしは生まれてこの方、ペヤングというものの実物は見たことがありませんし、食べたこともありません。

「ペヤング食いてぇな」
「……買ってきますよ」
「半分コ な」

と一般読者・視聴者の涙を誘い、腐女子なら誰もが心のナニを熱くたぎらせたあの名シーンでも、妄想はしてもいまひとつ入り込めなかったのは、北海道生まれ北海道育ちカップ焼きそばはだいたいやきそば弁当、という経歴の弊害かもしれません。

とはいえ、「やきそば弁当」と「ペヤング」と「一平ちゃん」と「トップバリュ濃甘ソースの焼そば」が並んでいたら、9割9分の道民はやきそば弁当を選ぶことでしょう。
逆にいうと、そこでやきそば弁当を選ばない者は、道民エアプ、もしくは道民歴3日程度の移民だと認定せざるを得ません。
このようにやきそば弁当は、空腹を手軽に満たす他、エア道民を炙り出す踏み絵としても使うことができるのですが、だいたい118円で買えます。
使い道が2つもあるので、使い道ひとつあたり59円です。安いですね。

かくも道民のDNAに日本海溝よりも深く刻み込まれたやきそば弁当ですが、これは故郷の味、などという生やさしいものではもはやなく、カルマといってもいいかもしれません。
我々は一生、たとえ道外に移住したとしても、やきそば弁当からは逃れられないのですから。
その証拠に、GW前半に帰省していた都会のOLであるわたしの妹は、わたしや母への貢物(大都会TOKYO生まれのオサレなクッキー缶)を渡して空いたスーツケースのスペースに、やきそば弁当をいくつか詰めて帰りの羽田便に乗り込みました。

もし北海道が独立国家になったら、やきそば弁当は禁輸品になることと思います。
現地に来ないと食べることができないという希少性を持たせることで、インバウンドを活性化させ、国家を潤わせることができるからです。
何事も国益優先で考えるべきなのです。

ええと、なんのはなしでしたっけ?
そうそう、やきそば弁当を作る話でしたね。
きちんとレジを通って対価を支払ったら、あとは家なり職場なりでパッケージの説明通りに作ってください。それだけです。お湯が沸かせたら小学生でも作れます。
ここまでで1551字も使ってしまったので、パッケージを見たら書いてある作り方をわざわざ説明するのは無駄だと思います。

そして、ブームが過ぎ去った頃にカップ焼きそばネタをぶち込む恥ずかしさに今更ながら気が付きましたので、これにて筆を置きたいと思います。


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