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未亡人になってピアノを買った話

今からおよそ3年半前。
コロナの狂騒さめやらぬ島国日本で、大量の未亡人が発生したことは皆さんの記憶にも新しいことかと思います。
わたしもそのひとりでした。
もしかしたら、この記事を読んでくださっている方の中にも、わたしと同じ立場の方がいらっしゃるかもしれません。

そう……煉獄杏寿郎の未亡人になった女たち。

わたしは初めて『劇場版鬼滅の刃 無限列車編』を見たとき、その場で煉獄杏寿郎との婚姻届を提出し、そして未亡人となりました。
いにしえよりの腐女子、もとい腐婆婆ふばあばであるわたしが婚姻届を提出するなど、あり得ないことでした。
多くの腐女子仲間を裏切ったような背徳感を覚えたものです。
ですが、あの燃える瞳に射抜かれ、わたしの心は一瞬にして奪われました。

「煉獄さんでは腐れない。むしろ聖域。」

そんな言い訳を当時のTwitterに残した記憶があります。

煉獄杏寿郎がいかに素晴らしい夫(二次元)だったかということについては、ここで語ることは避けましょう。
彼について知らない方は各自調べてください。
Xで3年半ほど前のつぶやきを検索すると、わたしのような未亡人(とその死体)がわんさか転がっているはずです。

何度も映画館で彼と逢瀬を重ねるうち、わたしはある情熱に取り憑かれはじめます。

「主題歌の『炎』をピアノで演奏したい」

その年の5月、わたしはそれまで通っていたピアノ教室を辞めていました。
札幌駅近くの教室でしたが、例の外出禁止令によって通えなくなったためでした。
情熱に取り憑かれた未亡人は凄まじいパワーを発揮します。
持病のコミュ障もこの時ばかりは寛解し、家の近くのピアノ教室に電話を入れ、レッスンを受けたい旨を申し出たのでした。

新しい教室でレッスンを再開した未亡人、譜読みを終えて表現を極めていくうち、再び新たなパッションを燃やします。

「わたしのこの愛をきちんと表現するには、電子ピアノではダメだ。生ピアノでないと」

当時わたしが弾いていた電子ピアノも、決して安いものではありませんでした。
それでも、亡夫(二次元)への想いを奏でるには力不足。
パッションを燃やした未亡人は、またもや驚異的な行動力を発揮します。
生来の出不精もこの時ばかりはなりを潜め、行動範囲内にある楽器店を全て周り、運命の1台を見つけ出そうとしたのでした。

その運命の楽器は、5月まで通っていたピアノ教室併設の楽器店にありました。
わたしに迎えられるのを待っていたかのようにウィンターセールにかかっていて、20万円ほど値引きされていました。
候補に入れていたピアノはいくつかあったのですが、そのピアノが奏でる音は、豊かな響きでわたしを包み込み、他の楽器では感じられなかった一体感をもたらしてくれました。

見つけた、わたしの一台。

こうしてわたしは自分だけのピアノを手に入れたのです。

推しに心を奪われ、推しへの愛を余すところなく表現するために、本物のピアノを買う。
何ともオタクらしいお金の使い方だと、今でも満足しています。
郊外に家を建てたのも、「本物のピアノが欲しいから」という理由でした。
家を建てて数年。
本物のピアノを買うどころか、いっときはレッスンさえ辞めてしまっていたけれど。
推しに背中を押してもらって、叶えることができました。

このピアノを買ったことで、電子ピアノでは弾けなかった曲にも挑戦することができました。
小学生の頃から憧れていた幻想即興曲もそのひとつ。
まさか、35を過ぎて自分であの名曲を奏でることができる日が来るなんて思ってもいませんでした。
わたしの人生の夢を叶えてくれたのは、亡夫(二次元)といっても過言ではありません。

5月10日は、わたしにピアノを買わせた亡夫(二次元)の誕生日です。


🍀この記事はクロサキナオさんの企画参加記事です🍀
#クロサキナオの2024MayMuses
https://note.com/kurosakina0/n/ndf3a3c7b1328


参加しています。51日め。

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