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最も人とカネを集めた登山家が抱えた大いなる矛盾-「デス・ゾーン 栗城史多のエベレスト劇場」

まずは、単純に読み物として面白い。非常に読みごたえがある。

 栗城さんを慕っていた起業家の友人も多いし、一度お会いしたこともあるので、生前からFBとかツイッターをフォローしていたんだけど、「詐欺師だ!」「登山を冒とくしている」という批判も数多く、とてもモヤモヤしていた。この本では栗城さんという存在を多面的に考察していて、その辺がかなりすっきりしたように思う。

 一言でいうと、すごい人には間違いないけど、抱える矛盾が大きすぎる人だったのかなと。

 壮大なビジョンを描き、自分を演出して魅力的な言葉を紡ぎだし、多くの人を惹きつけてお金を集める力は、本当に稀有の才能だし、起業家で彼を支持する人は、そこに魅力を感じたのではないかと思う。

 一方で、エベレスト無酸素単独登頂という目標を達成するために必要な努力をしていたようには見えない。体力も十分に鍛えず、技術の習得もせず、登頂するために踏むべきステップも踏んでいない。実際、8度もエベレストに挑戦して未登頂という登山家はいないのではないか。
登山家の真摯な助言にも耳を傾けず、ファンに対して、いかに「それっぽく」見せるかに力を集中しているように見えた。
 
 これが、登山にすら行っていないんだったら、本当のホラ吹きに過ぎないと思うんだけど、彼は実際にエベレスト登山をしているし、命を何度も危険にさらしているんだよね。
 準備不足は即命に関わるし、何度も失敗すれば支持者もお金も離れていくのに、それでもエベレスト登頂のために必要な戦略を詰めて実行したというようには見えない。
 普通のルート、普通の手法で登頂したくないというのであれば、その難度に見合った戦略構築、スキル獲得、肉体鍛錬に真剣に向き合うのが普通だと思うんだけど。。。
 
 最初は登山家というより起業家に近いと思っていたけど、起業家は最初は大ぶろしきを広げても、それを実現するために、「結果」を死に物狂いで追求する。
 栗城さんにとっての「結果」ってなんだったんだろうか。
 
 そこが凡人には理解しがたい矛盾のように思えた。
 
 そのあたりを理解するヒントが最後の占い師と著者との会話にあったに思う。そもそも、登頂は彼の求める「結果」ではなかったのかもしれない。
 
 それでも、彼の「挑戦」には、多くの人が魅入られ、励まされ、今でもファンがいる。周りでサポートした人も振り回されて、疎遠になった人も多いけど、一方で憎めない、敵視しきれないという人も多いように感じた。
 
 僕のテイクバックは、命を懸けた挑戦というものほど説得力があるコンテンツはない、ということだった。栗城さんに多くの人が惹きこまれたのも、彼のキャラや言葉以上に、命を懸けた挑戦を実際に行っているという強い説得力故だったと思う。
 通常のビジネスで、リアルに命と引き換えという挑戦はほとんどないけど、大きなことを成したいと思ったとき、思い切って自分をリスクに曝すということが、強い味方を引き入れて物事を進める強い推進力になるのかもしれないなと思った。
 読みやすいし、栗城さんを詳しく知らない人でも楽しめると思う。おすすめです!

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