黒頭巾ちゃんとびっ〇りドンキ―

頭の中で「カチリ」と音がしました。

黒頭巾ちゃんにスイッチが入ってしまったのです。
こうなってしまった黒頭巾ちゃんを、たとえどんなに大事な人でも、止めることはムリです。

黒頭巾ちゃんはその日、仕事の帰り、お腹がすいて、「びっ○りドンキー」に寄りました。
そして、ハンバーグディッシュを食べていたら、隣のテーブルで本を読みながらビールを飲んでいる男の人がいて、それがとてもおいしそうに見えたので、

つい自分もビールを頼んでしまったのでした。
車で来ていたのにね。

時間は、もう深夜で、12時を回っていました。
平日、国道沿い、郊外の、人の少ないファミリーレストラン。

黒頭巾ちゃんは仕事でとっても疲れていました。
バカが多すぎるし、嫌いな人が多すぎるからです。
でも、そんなことは、どこの職場に行ってもよくあることで、結局どこへ行っても変わらないのだと、黒頭巾ちゃんにはわかっていました。
わかってはいるけれど、それでも疲れてしまうことってあります。

運ばれてきた金色のビールに、まるで吸い込まれてしまいそう。黒頭巾ちゃんは一気にごくごくと、ビールを飲み干してしまいました。

そのとき。
「カチリ」
と
頭の中で音がしました。

そのあとのことを、黒頭巾ちゃんは、よく覚えていません。そういうときは、だいたいいつも、そうなのです。
何杯のビールを飲んだのか、いつ、隣のテーブルの男の人に話しかけたのか。

黒頭巾ちゃんは普段、知らない人と話すことなんてないのに、こういうときには、どんな人にでも話しかけることができるのです。

そして、大抵の男の人が、黒頭巾ちゃんのような据え膳をちゃんと食べることも知っています。

若くても、
年寄りでも、
真面目そうな人でも、

悪そうな人でも、
結婚してる人でも、
彼女がいる人でも、

ほとんど大抵の人は、
黒頭巾ちゃんに誘われるとOKします。

スイッチが入ってしまったので、
黒頭巾ちゃんはきっとひどいことをしたでしょう。

でも、
電池が切れれば元通りです。
黒頭巾ちゃんは、ひと眠りしたあと、知らない男の人の部屋をこっそり抜け出して、夜明けのドンキーの駐車場へ戻り、車に乗っておうちに帰りました。

その日、黒い神様は、いませんでした。