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黒頭巾ちゃんと赤頭巾ちゃん

 赤頭巾ちゃんは素直で可愛い女の子です。だから黒頭巾ちゃんは赤頭巾ちゃんが大好きです。
 赤頭巾ちゃんが作るブルーベリーのお酒や、カシスで作った甘酸っぱいタルトを食べながら、黒頭巾ちゃんは時折、赤頭巾ちゃんと楽しい時間を過ごします。


 黒頭巾ちゃんは、赤頭巾ちゃんと会うときには、緑の頭巾を被っています。そのほうが、赤頭巾ちゃんとお話するには好都合だからです。


 その日も黒頭巾ちゃんは、緑の頭巾を被って、赤頭巾ちゃんと森の中でラズベリーを摘みながらお散歩していました。
 ラズベリーの木にはとげがあるので、黒頭巾ちゃんは、そのとげを一本一本むしりとり、赤頭巾ちゃんに実を取らせました。赤頭巾ちゃんが手にケガをしないようにと、黒頭巾ちゃんは一生懸命でした。
 黒頭巾ちゃんの手はいつも傷だらけだから、今更ラズベリーでケガをしたって大したことじゃないのですが、赤頭巾ちゃんが痛い思いをするのは可哀想だと思ったのです。


 太陽が真上に昇り、黒頭巾ちゃんと赤頭巾ちゃんは、ラズベリーの木の側で、ランチを食べることにしました。


 黒頭巾ちゃんは、青い薔薇の花びらを敷き詰めたバスケットに、二人分のお弁当をつめて持ってきていました。
 ハーブティにラズベリーの絞り汁と蜂蜜を少し垂らして二人分のお茶を淹れ、ローストチキンを挟んだサンドイッチとチーズ、生野菜のサラダ。
 黒頭巾ちゃんは微笑みながら赤頭巾ちゃんにフォークを差し出しました。
 ふたりでお茶を飲み、食事を始めようとしたそのとき。空がふと曇りました。
 黒頭巾ちゃんが目を上げると、そこにはおおかみが立っていました。おおかみのせいで太陽の光がさえぎられ、辺りは暗くなってしまいました。


「よう、お二人さん。俺も仲間に入れてくれよ」
 そう言いながらおおかみが腰を下ろしました。赤頭巾ちゃんは戸惑った様子でおおかみを眺めていました。
「嫌な顔するなよ、黒頭巾ちゃん。ほら、ちゃんと貢物だって持ってきたんだからさ。好きだろ?」
 おおかみは懐から、シャンパンをとグラスを取り出しました。
 ポン。
 勢いよく栓が抜かれ、おおかみがにっこりと笑いました。
「飲むだろ、黒頭巾ちゃん」
「まあね」
「そっちの可愛い女子も、飲もうよ」
「はい」
 赤頭巾ちゃんはおおかみに勧められるまま、素直にシャンパンをごくごく飲みました。たぶん、まだあまり飲み方を知らないのです。
「あんたねえ、赤頭巾ちゃんにそんなものたくさん飲ませないでくれる?」
「怒るなって黒頭巾。いいじゃん、俺だって赤頭巾ちゃんとお近づきになりたいんだよ。それに、ずいぶんいい飲みっぷりだぜ?」
「あんたは近づきたいんじゃなくて食べたいだけでしょ」
「まぁな。最近何も食べてなくて腹減ってるんだよ。じゃ、黒頭巾ちゃん今夜どう?」
「ごめんだわ。あなたとなんて、もう、うんざり」
「そう言うなよ。久しぶりに、一晩中楽しませてやるよ」
「結構よ。とにかくもう帰んなさいよ、バカ」
 二人がこそこそ話をしているのを、赤頭巾ちゃんはますます赤くなったホッペを両手で冷やしながら不思議そうに見ていました。シャンパンの一気飲みのせいで、すでにもう目が潤んでいます。
「赤頭巾ちゃんって可愛いね。前から思ってたんだ」
「ええっ。わたしなんて、そんなことないです」
「みんなに可愛いって言われてるでしょ? もう、めっちゃ俺好み。こんな機会、滅多にないじゃん。今日はゆっくり話したいな」
「え、そんなぁ。おおかみさんにそんなこと言われたら……恥ずかしいです」
 赤頭巾ちゃんはにこにこ。黒頭巾ちゃんはアホらしくて見ていられません。おおかみはとても毛並みが良いので、大抵の女の子はちょっといいかなあと思ってしまうのです。

もちろんおおかみだって、自分の毛並みがいいことくらいは百も承知なのです。手の先、足の先、尻尾の先。少しずつ毛並みの良さを見せつけながら女子を誘うのがおおかみの手口です。                 

 そんなおおかみの美辞麗句などまともに聞くのはバカの骨頂です。腹の減ったおおかみは口で済むことならなんだって言いますから。何しろ、口先だけならタダですからね。

 とっぷりと日が暮れました。

 あまりにもアホらしくなってきてしまったので、黒頭巾ちゃんは赤頭巾ちゃんとおおかみを暗い森の中に置いて、家に帰ることにしました。勝手にどうにでもなれば良いのです。知ったこっちゃありません。


 黒頭巾ちゃんも、少しシャンパンの酔いが回って、いい気分でした。

赤頭巾と黒頭巾
今日は楽しいイチゴ狩り
お天道様が見ているよ

赤頭巾と黒頭巾
楽しいランチはもう終わり
おおかみ現れ食べちゃった

赤頭巾と黒頭巾
ふらふら歩く夜の道
素敵なおおかみ探してる


 へんてこな歌を歌いながら黒頭巾ちゃんが歩いていると、暗い森の小道の影から、黒い神様が出てきました。
 黒頭巾ちゃんは黒い神様を見つめました。黒い神様は黙って黒頭巾ちゃんを抱きしめてくれたので、黒頭巾ちゃんは黒い神様を雑居ビルの共同トイレに誘いました。


 神様お願い。たくさん抱いて。
 黒頭巾ちゃんがそう言うと、神様は笑いました。


 黒頭巾ちゃんは、今夜もたくさんお祈りをしようと思いました。
 夜が明けようとしています。


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