近所のお好み焼き屋まで歩いてゆく。本当はコーヒーを飲みに行き、帰ってから家で食事をするつもりだったけれど、父親から今日は食べて帰ると連絡があったので、母親と一緒に商店街の途中にある店でこちらも早めの外食をとることにした。 にわか雨の湿気がビーチサンダルの表面に膜を張り、プール帰りのような軽い放心状態になる。しばらく歩くと交差点の前で、白人の父親に肩車をされている女の子を見つける。男のとても立派な体躯に対して女の子の頭はあまりに小さく、じっと見つめていると遠近感を失いそう
セネカは『賢者の恒心について』のなかでこう述べる。 「傷つけられえないものとは、打たれないもののことではなく、害されないもののことである。」(1) 打たれることと害されることの間に存在するのは人間の理性による徳、あるいは力であり、それを持つ者こそ賢者といわれる。賢者にとっては、相手が不正を行ったとしても、即座に自分が不正を受けたことにはなるまい。相手の能動的な行為が自らの受動的な作用に直結するのが、触覚という感官に特有のできごとであるならば、愚者は賢者に「触れられない