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母が亡くなる前日

私の生き方の原点は母だと思っている。
小学低学年の時、母が癌で亡くなった。

その頃はよく親戚達が家に泊まりに来ていた。
最期が近かったのだろう。
子どもの私には賑やかで楽しい時間だった。

抗がん剤で抜け落ちる髪も
眠る時間が増えたことも
終わらない輸血も全て全て…
「元気になるためにがんばるね」
その言葉に疑いを向けたことはなかった。

母が亡くなる前日も親戚が来た。
伯母達がご飯を作ってくれる。
私はそれが嬉しかった。
はしゃいでいた…

いつも通り母の病室を見舞って帰る。
「また明日来るね!」
さあ、この後は皆で夕食だ!ヤッター!

そのくらいの気持ちでいたのだろう。
調子に乗っていた私は
「また明日ねー!」
いつも通りに握った母の手を離し病室を出た。

母の名残惜しそうな表情は
脳裏に焼きつき、消えることはない。
歳月を経た今も私に永遠の後悔を教えてくれる。

人は生まれた瞬間から死に向かう。
当たり前のことをまだ、分かっていなかった。

小学校から帰ってきたら、
誰かに病院へ連れて行ってもらう。
母が横たわるベッドの空いたスペースに
横になって宿題をする。

明るい看護師さんが声をかけてくれる。
「⚪︎ちゃんも点滴する?元気になるよー♫」

いつも冗談で笑っていた看護師さんが
とても悲しそうな顔をしていた。

そんな朝、母は亡くなった。
寂しくて、寂しくて、寂しかった。

母が亡くなる前日のことを
私はよく思い返す。

後悔と悲しみの気持ちは
溢れ出す感情を堪えることができない辛さだが
同じほど大切であった記憶でもある。

母が亡くなったことで家族も親族も崩壊し、
人生は一変したが
大切な思いは抱えて生きていきたい。
母が生きたかった明日が繰り返されて
今日がまた始まる。

大切に生きることが
母を大切に思う気持ちにも繋がる。

大切を抱えて生きていきたい。
私の生きるモットーでもある。

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