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エクステンデッド3D規格

映画というメディアが発明されて、もう130年あまり。
今は、白黒やカラー、2Dや3Dなど色々な視聴方式があり、撮影方法も古いアナログな手法だけでなく、デジタル機器やコンピュータを使った思いもよらないものもあり、それだけ表現できることも多種多様だ。

僕は前々からスルサルの企画において、VRと3Dを活用した新しいメディアの使い方を考えていた。それが「エクステンデッド3D(EX3D)」という規格の映像方式だ。

前方180°の視界を立体的に活用できる映像規格としてはVR180というものがあり、今はYoutubeなどの動画プラットフォームでもこの映像を見ることができる。
これは人の目の前に広がる視界いっぱいに映像を利用するため、とにかく情報量が多い。普通の人間と同じく、左で目立つ動きがあれば視界の右の方は気がつきにくくなる。その分、人間の持つ生理的な立体感や距離感のリアリティと近くなるため、体験的なアトラクションとしては大いに活用が期待できる。

しかし、これだけ人間の視野を覆ってしまうと、視聴する人間が急な動きや画面転換に付いていくのが難しいことがわかる。画面を揺らし過ぎれば、かなりの確率で酔いや感覚の違和感に襲われることは間違いない。
また、人間の視界と同じであるために、どうしても定点的な画面にならざるを得ず、ズームやカット割りといった、130年の歴史の中で培ってきた映画的な強みを使うことができない。

これを解決すべく考案した規格がEX3Dなのだが、これは平たく言ってしまえば、VR180°の視界の中に2D/3D映像を加えたり、一部の視界を敢えて遮断することで情報量をコントロールする方式だ。
これにより、表現者はより既存のメディアの画面サイズに近い感覚を維持しつつ、新しい立体的な情報も視聴者に与えることが可能となる。

この映像規格においては、“映像の付加”という実在感の体験ももちろん重要なのだけれど、“視聴者の一部の視界を遮断する”という工程も同じくらい重要だ。
VR180を始めとした従来のVRコンテンツでは、見えるもの全てを映し出すことが価値のある体験とされてきた。なので、なるべく視野を動かさず、見えるものはなるべく画面の近くへ持ってきて鮮明に映そうとしてきた。
しかし、人の感覚というのは不思議なもので、見えないところが多い方が想像力を刺激され、よりのめり込んだ体験を得ることになる。
そもそも、カット割りやジャンプカットのような、2D映像から綿々と引き継がれてきた手法こそが、その人間の想像力に依拠した表現なのだ。
人間は目に映る全てのものから有益な情報を得るわけではないし、たとえ見たとしても、細部まで覚えているわけではない。
しかし、重要だと思える情報が断片的に与えられると、何が起こっているかがはっきりと見えなくても、その一部だけの情報から見えている以上に多くのものを想像する。
その感覚こそ、本当の意味で視聴者を想像の世界に没入させるということなのだ。

今はまだ、この方式で作られた表現はそれほど多くない。なので、この規格が見ている者の感覚をどれほど刺激し体験を面白くできるのか、まだまだ未知数であり説明することも難しい。
しかし近々、この方式で映画作品を作ってみることを企画している。

今のところ、これはVRでしか実現は難しく、まだまだVR人口も少ない。
僕としては、旧来の狭い業界に留まっている若い映像作家にも、こうした新しい規格に興味を持ってもらいたい。
VRは、その特性が世に示せれば、一気に主流のメディアとなるだけの力を秘めている。その時、その新たな分野を躍進させることができれば、それは昨今その行く末が危ぶまれている旧来のメディアの停滞すらも突破させるだけの原動力となるはずだ。

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