最短・最速で圧倒的な結果(48日目)

電車に乗っていたら、与沢翼の『ブチ抜く力』という本のドア横広告が目に入ってきた。
腕を組んでこちらを見下ろす、だいぶ痩せた与沢翼の横に、『ビジネスも投資もダイエットも最短・最速で圧倒的な結果を出すための「成功法則」』という謳い文句が踊っていた。

最短・最速で圧倒的な結果。
この本を読む人はいろんな物事に最短・最速で圧倒的な結果を出すために読むんだろうけど、そのための手段として読書を選ぶ、ということについて考えてしまう。

自己啓発本をほとんど読んだことがないのだけど、あれはたぶんサプリメントのようなものなんだろうと想像している。
うまく使えば必要な栄養が効率よく摂れるが、それしか食べてないとたぶん死ぬし、うさんくさいプラシーボもそれなりにある。

自分は頑なな方なので、ずっとサプリメントに頼らず食事ですべての栄養をまかなってきた。

例えば小説は、こういう栄養素が入っているようですが本当に体にいいかはわかりませんしそれが摂取できるかは読み方によります、みたいな、じつに栄養効率の悪い食べものだ。
そんなものをずっと主食にしてきた。しかもだいぶ偏食気味だ。
最短・最速の対極にあり、圧倒的な結果が出たかというとわりと疑問が残る。

とかなんとか自己卑下めいたことを言いながら、おれは間違いなく自分の読んできた作品群が自分を形作ったと確信しているし、自己啓発本ばかり読む人を心のどこかで小馬鹿にしている。

でも、たまに、自分の悩みを即座に救ってくれる、薬のような本が欲しくなる時がある。

小説は何事も確言しない、と言っていたのはミラン・クンデラだったっけか。
小説は(というより文学作品は、と言った方がいいかもしれないが)、答えを出さず、逆にこちらへ問いを投げかけてくる。
優れた小説は、その作品そのものが優れた問いであることが多い。
自分の頭でその先を考えることを促してくる。

でも、生きていると、現実の投げかけてくる問いの答えを考えるだけで精一杯だ、と思うことがある。
年々そう思うことが増えている。
世の中の理不尽は深まり、人と人のわかりあえなさにミクロでもマクロでも直面する。
だれか答えを教えてくれないか。
最短・最速で答えてもらえないと、世界が自分をどんどん追い越して、どんどん宿題が溜まっていってしまう。

そういう心を、弱さを、馬鹿にできるのだろうか。

かといって、仕方ないことと認めてしまっていいのか。

その答えもまだわからない。

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