スチュワードシップ・コード(Stewardship Code)

オーナー・リスク(Owner risk)

2018年4月、大韓航空のパワハラ論議が噴出した。別名水かけパワハラと表現される大韓航空オーナー一家のパワハラと不当私的利益詐取に関する論議が巻き起こったのである。この事件が報道された当日、大韓航空の株価は6.5%下落し、その後も大韓航空の株価は持続的に下落し、2千億ウォン以上の時価総額が蒸発してしまった。それにより大韓航空の少数株主が被害を被ったのはもちろん、大韓航空の2大株主である国民年金も収益性が悪化し、国民年金の損失可能性に対する憂慮が提起されている。

2017年6月、ホシギトゥマリチキンの会長が女子職員にセクハラしたという論議が起き、製品不買運動が広がった。すると、加盟店の売り上げは40%にまで減ったが、肝心の加盟店は本社の失敗で被害を被っても契約を破棄することはできなかった。

このように企業オーナーの経営失敗、モラルハザード、不当私的利益詐取などで該当企業の価値が毀損されうるリスクを「オーナー・リスク」という。オーナー・リスクは企業価値や評判を毀損するのはもちろん、企業の中長期成長基盤や存立自体を脅(おびや)かす可能性がある。ところが問題は、オーナー・リスクによって発生する被害を該当企業の従業員と少数株主がそっくりそのまま抱え込むしかないというところにある。

スチュワードシップ・コード

このようなオーナー・リスクをはじめとして企業の経営が正しく行なわれているかを監視し、牽制すべき主体が果たして適切な役割を遂行しているのかという批判が拡大している。それと同時に問題解決のためにスチュワードシップ・コード(Stewardship Code)を導入すべきだという論議も盛り上がっている。

スチュワードシップ・コードとは、年金基金や資産運用会社など機関投資家が、主人の財産を管理する執事(Steward)のように、顧客が預けた投資金を運用する際、受託者責任(fiduciaryduty)を効果的に履行するために守るべき原則をいう。自身の財産で株式を取得した一般株主とは異なり、機関投資家は他人の財産で取得した株式から生じた議決権に対して顧客利益最大化を目標に議決権行使の可否を決めるべき義務を負っているためである。

スチュワードシップ・コードが導入された背景には、2008年のグローバル金融危機がある。当時、大型金融機関の短期成果主義に伴う無理な経営を主要株主である機関投資家が正しく牽制できなくて危機が発生したという指摘が提起されたのである。これに対し、機関投資家の役割を株式保有と議決権行使に限定せずに積極的な経営参加を通じて企業価値を向上することを目的とするスチュワードシップ・コードの導入の必要性が提起された。そして2010年7月、イギリスが初めてスチュワードシップ・コードを導入し、その後アメリカ、カナダ、イタリア、日本などに導入が広がった。

韓国でも過去には、長期的で中立的な投資を名分に株主権行使に消極的だった大型機関投資家がイエスマンでしかないという批判を受けたが、最近になって一部の企業合併と関連して機関投資家の議決権行使の適正性に関する論議が提起されるなど、株主の権利意識が高まるにつれ、スチュワードシップ・コード導入の必要性に対する認識が大きく高まった。その結果、2016年12月、韓国企業支配構造研究院(スチュワードシップ・コード制定委員会)は韓国型スチュワードシップ・コードである「機関投資家の受託者責任に関する原則」をつくり、2017年5月、私募ファンドJKLパートナーズのスチュワードシップ・コード導入を始めとして、多くの機関が同コードを導入している。

スチュワードシップ・コードの長所・短所

これまで韓国企業の支配構造は他の国家に比べて透明性と健全性が相対的に脆弱だという評価をされてきたのは事実である。所有と経営の分離が限定的であるため、専門経営者に企業の経営を任せず事実上支配株主が主な意志決定を独占してきたせいである。これは企業価値を低めるのはもちろん、コリア・ディスカウントの原因になる可能性もある。したがって、スチュワードシップ・コードの導入は、企業支配構造の透明性と健全性を高め、コリア・ディスカウントを縮小させると同時に、長期的に株主価値を強化できる足台を提供すると期待される。

しかし、スチュワードシップ・コードの導入が肯定的効果だけを保障するわけではない。まず機関投資家がスチュワードシップ・コード行使のために運用手数料を顧客に転嫁した場合、顧客に返ってくる恩恵が大きくない可能性もある。また、国民年金のように政府が運用する基金にスチュワードシップ・コードが導入された場合、民間企業に対する政府の影響力が過度に拡大するという憂慮も提起されている。

それでも、スチュワードシップ・コード導入による透明な支配構造が企業の市場価値と成長可能性を高めうるということに対しては大きな異見はない。これまで韓国企業の脆弱な支配構造の問題が持続的に提起されてきただけに、スチュワードシップ・コード活性化による肯定的効果は一層大きいものと期待される。

信仰のスチュワードシップ・コード

実際、スチュワード(steward)とは大邸宅の家政を任された執事をいう。漢字では「執事」と書くが、家庭内の仕事を任された雇用人として家政をぎゅっとつかんでいる人という意味である。高麗時代には「執事府」があり、執事が王宮のすべてのことを監督したこともあった。現在でも、イギリス、スイス、フランス、オランダあたりには2年課程の執事アカデミーがある。ここでは基本的なエチケット、ヨットの運転、経営など幅広い科目を勉強し、後には特定の家に雇用されて働いたり、ホテルなどの機関で働いたりする。

人は誰もが自分自身という大邸宅を日々管理し生きていっている。その邸宅を手入れし、管理する必要があるが、果たしてどんな「執事」にその職を任せるだろうか?誠実で責任感があり、賢い執事に任せるだろうか、あるいは不誠実で怠惰で、無知な執事に任せるだろうか?誰もが前者のような執事に任せたがるだろう。

「私の人生を誰がどのように管理してくれるというのか?」と言うかもしれないが、結局、自分自身の人生は自身の考えで管理するのである。まさに考えが執事の役割をするのである。万一、執事が自らの役割をろくに果たさなければ、オーナー・リスクがふくらむしかない。すなわち、「私も私のことがよく分からない!」という事態が発生するのである。ゆえに、自分の考えが横にそれないようにいつも管理してくれる神様の御言葉で、信仰のスチュワードシップ・コードを正しく確立する必要がある。毎日最高の執事を送って下さる主に常に感謝申し上げる。


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