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海外選手の名前の読みの法則の謎(J SPORTSのアルペンスキー放送で腑に落ちないこと)──スポーツ観戦雑感

たしか今年の1月中頃(キッツビューエル大会終了後あたり)に書いてみたものの、すっかり忘れていたこの些末な話──21/22シーズンが遠ざかり、もう次のシーズンが到来しようという今、今更であるようで、今更でもない。まあ、どうでもいい話ではある。

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J SPOTRSのアルペンスキーの放送を観ていて、ずっと気になっていたことがある。それは競技そのものの面白さや、J SPOTRSがアルペンをコンテンツとして扱っていることに対する敬意なんかとはまったく別の次元の話で、気になるというよりも、いい加減にうんざりしていると言ってもいいくらいなのだけれど、常々、ほかに気にしている人はいないものかと不思議に思っている。

1.  海外選手の名前の読み方(表記)に関する法則の謎

放送上の選手名の読み(表記)の問題、なぜこの表記をそう読むのかという反射的な違和感である。ここで言うのは、本格的な発音の正確性のようなことではなく、選手の名前のアルファベット表記を一般的なカナ読み(カナ書き)に落とし込んだ場合のことであって、より適切なものがほかにあったはずなのではないか、むしろどんな発音規則に従ってそうなっているのかという単純な疑問である。

2.  具体例

一定のルールに従った名前の読みというのは、小さなことにも思えるが、個々の選手を特定するための手段なのだから軽視できるはずがない。メディアでのスポーツ選手の名前の読みや表記はどのように決まるのだろうか。

例えば、元プロテニスプレイヤーの「Stefan Edberg」の姓を、英語読みの「エドバーグ」とするか、母国語であるスウェーデン語読みに近い「エドベリ」とするかという違いはよく理解できるが、J SPORTSのアルペン放送では、英語読みでもなく、選手の母国語読みでもない場合があるように思う。

Daniel Yule

いま思いつくもので顕著なのが「Daniel Yule」という技術系種目のスイスの選手の名前で、何年も前から「ダニエ・ユー」と発音・表記されている。そもそも表記からは「ダニエ・ユー」と読めるように思われ、実際の現地アナウンスの発音もそのように言っているように聞こえる。改めてネット上の海外の動画を確認しても、「ダニエ・ユー」という発音のものにばかり巡り合うし、J SPOTRS以外の日本の主要メディアではどう扱われているかといえば、やはり実際の発音と齟齬のない「ダニエ・ユー」という表記で統一されているようである。

Jett Seymour

上の例に限らず、非英語圏の人名の読みを決めるのは簡単なことではない。各言語の発音規則や実際の発音を確認するなどのプロセスが必要になる場合もあるかもしれない。しかし、J SPORTSのアルペン放送では、英語圏の選手の名前にも不思議な読みが当てられている例がある。アメリカの「Jett Seymour」という、技術系種目の選手の名前であるが、放送では姓を「モア」と発音している。なぜなのか。一般的な読みではない。

例えば、この名前の発音に対するアメリカでの一般的な(共通の)認識は、J.D. Salingerの短編小説『A Perfect Day for Bananafish』の記述からも窺えるように思う。主人公の「Seymour Glass」(この場合の「Seymour」は姓ではないが、発音上は同じ)に対して、少女が「See more glass」と呼びかける場面がある。「See more」と「Seymour」を掛けているわけだから、いずれも「シーモア」と発音するという認識が一般に共有されていることが分かる。

有名な小説を例に引くまでもなく、ごく普通に英語圏の発音(「ˈsiːmɔː」)に倣えば、「シーモア」という読みは簡単に導かれるようにも思うが、J SPORTSのアルペン放送ではこの読みを採用していない。では、何をもって、このいくらかマシュマロのデザートを想起させなくもない「モア」としたのだろうか。何か特別な事情でもあるのだろうか──と思っていたところ、ヨーロッパでの大会の会場アナウンスで「モア」に近い発音で紹介されているのを実際に確認した。ああ、なるほど、これか、とほとんど納得しかけたが、いやいや、なぜなのか。

Ryan Cochran-Siegle

ほかにも、「Ryan Cochran-Siegle」という名前のアメリカの選手がいるが、父方の姓の部分である「Siegle」を「シール」と読んでいる。しかし、「g」の後に「え段」を指示する母音字はなく、字面からは「シール」と読めるこの表記を、なぜ敢えて「シール」と読んでいるのかが分からない。

類似した姓に「Siegel」があり、本来はこれを「シール」とすべきで、そうでなければ、カナ書き上、両者が区別されないことになる。さらに、こちらは実況中の咄嗟の言い間違いか何かかとも思うが、過去には何度か、「シール」(「g」の後に「あ段」の母音字が入ったことになる)と言っていたこともあるように記憶する。「シール」の読みは通常、「Seagull」や「Segal」といった表記に充てられるものだ。

Trevor Philp

また、カナダの「Trevor Philp」という技術系の選手の姓も、J SPORTSの放送では「フィリップ」と言っているように思う。しかし、「l」の後に「い段」を示す母音字はなく、少なくともカタカナ語として、異なる名前「Philip」と区別するためにも普通は「フィプ」と発音・表記するのが適当なのではないか。

Alexis Pinturault

もう何年も前になるが、たしか複数の解説者がスタジオで話している際、フランスの「Alexis Pinturault」という選手の姓の発音について、J SPOTRSの放送上は「ンテュロー」(か「ントュロー」)と発音することになっているところ、普段、フランス語読みの「ンテュロー」に慣れているから思わずそちらを口にしてしまいそうになるというような話になって笑っていたことがあったが、それ以降(次の放送回あたりから)、この選手の名前の読みは「ンテュロー」に修正され、今に至っている。

3.  終わりに

いろいろ書いてみたものの、この辺の事情、あるいは正確な法則に疎い身であれば、何か決定的な思い違いや勘違いをしていないとも限らない。詳しい方があれば、ご指摘をお願いしたい。

名前の読みなど、まあ、どうでもよいのかもしれない、そもそも各国語の発音を正確にカタカナに落とし込めるわけではないのだし。大勢に影響はない。レース結果が変わるわけでもない。偶然、どこかの街で「Jett Seymour」に出くわして応援を伝える機会に恵まれるようなこともないだろうから、うっかり「ミスター・モア」と呼び掛けるなんてこともきっとない。

なお、いま改めてJ SPORTSのサイトで「21/22アルペンスキー選手名鑑」のページを確認してみたところ、主な選手名が、同チャンネルの普段の放送での読み(カナ表記)とは異なる、わりと一般的な表記で記載されていて大変驚いた。

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