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びっくりするほどできない。文舵です

その女の子は話したのだった。お家に帰りたくないって。お日様が1日中、顔を出さない冬の日だった。赤いチェック柄の吊るしスカートに、レースがたっぷりついた白いブラウスを押し込むように履いて、女の子は下からこっちの目を探るように見た。グレイ色の空のまま、夜を迎えようとしている。困ったと思った。もし断れば女の子は帰りたくない場所に、戻らなければいけない。悪い魔法使いが待つ、石でできた城に。少し逡巡して、できるほうに賭けた。女の子が頼れるのはこの世で今、私だけなのだから。

家の横にある倉庫に案内をし、中に入るよう促した。整理好きの母親のおかげで、内部は片づいていて、父が昔使っていた木製の机の前に少し空いたスペースがあった。悲しくなったとき、犬のクロと一緒に過ごす場所だった。「ここにしばらくいて」。膝を抱えて小さくなる女の子を振り返ってみた。

普段と変わらない顔を装いながら玄関のガラス戸を勢いよくガラガラと開けた。明るい母親の声がする。すぐに手を洗い、食卓についてそそくさと夕食をとると、パンやお菓子をバックに詰めてこっそりと玄関を出た。母は弟の世話に夢中だった。犬小屋の黒が吠えるのをシッといって制し、倉庫の扉を音を立てずに開けた。女の子はいなかった。すっかり暗くなった倉庫を念のため見渡した。電気をつけて上げればよかったと思った。女の子はそれ以来、見かけていない。


文体の舵をとれ の練習問題をやってみました。全然できなーい(笑)。

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