「超過懸垂委任」[その2] Das Überhangmandat (ダス ユーバーハング・マンダート)[その2]

 前回の、2021年11月8日付けの投稿「超過懸垂委任」を前提に、本投稿では、ドイツ連邦議会の話をさらに進めていきたい。ゆえに、Das Überhangmandat (ダス ユーバーハング・マンダート)を、なぜに「超過懸垂委任」というふうに訳したのかについては、前回の投稿を読まれたい。

 戦後のドイツ連邦共和国史上、最大の議員数736議席を抱える連邦議会として、第20回次連邦議会が、この10月26日に、4年の任期を持って、議会選挙後初めての本会議を開催した。

 今回の議会選挙の結果(投票率76,6%)を受けて、これまでの第一党であったCDUとCSUのキリスト教系政党の連合Union(ウニオン)は第二党となり、これまでの第二党であったドイツ社会民主党SPDが、わずかの差ではあるが、第一党となった。こうして、736議席(369議席で過半数)の各党への議席配分は以下のようになった。()内の数字は、得票率で、議席の増減は、第19回次連邦議会における議席数との比較である。
SPD:206(25,7%、53議席増)
Union:197(24,1%、49議席減)
緑の党:118(14,8%、51議席増)
FDP(自由民主党):92(11,5%、12議席増)
AfD(ドイツのための選択肢):82(10,3%、11議席減)
Linke(左翼党):39(4,9%、30議席減)
無派閥:2(その他:8,7%)

 ここでまず注目したいのは、本来ドイツの連邦・州の議会選挙では、多党化を防ぐために「阻止条項」という制度があることである。これは、比例代表部分で得票率5%を越えない政党は、議会に議員を送ることが「阻止」されるという制度である。それでは、どうして左翼党は、得票率4,9%であるのに、39議席を保有できるかと言うと、それは、この阻止条項の例外規定で、全国の小選挙区で、3議席以上を獲得すると、阻止条項が無効となり、その得票率に従って議員が配分されることになっているからである。(左翼党は、ベルリンの12議席中2議席を、東部ドイツのザクセン州で1議席を小選挙区で獲得している。)なお、阻止条項は民族的少数派政党には該当せず、今回60年ぶりに立候補した北ドイツのデンマーク人系少数派政党SSWの候補者1人は、約5万5千票を取って、今次連邦議会の議員となった。

 小選挙区での選挙戦の勝敗を見てみると、Unionが143議席、SPDが121議席と、Unionが小選挙区では勝っているのであるが、これは、南ドイツのバイエルン州の地方政党で、CDUの姉妹政党であるCSUが、46選挙区中45勝といつものように大勝(緑の党がミュンヘンで1議席を獲得)していることによる。これに対し、北部ドイツでは、今回SPDが善戦して議席を稼いで、連邦議会第一党となっている。

 さらに、CDUは、東部ドイツでも苦戦を強いられ、とりわけ、その一部には憲法擁護局の監視下に置かれている極右も含む、右翼ポピュリズム政党AfDに票が流れた。AfDは、前回までの選挙で数回に亘り躍進を遂げた政党であるが、今回の選挙では第二票の得票率を2,3%下げている(ゆえに、合計で11議席減)。ところが、東部ドイツのザクセン州、ザクセン・アンハルト州、テューリンゲン州で、合計16小選挙区で勝ち(前回の選挙では3選挙区)、とりわけザクセン州では、16小選挙区で10勝するという勝ちぶりを示しているのである。ザクセン州で元々持っていた3選挙区に、7選挙区でCDUに競り勝っての結果である。これを以って、ザクセン州では、AfDが最も強い政党となる。

 このAfDと同数の16の小選挙区で勝ったのが、緑の党である。今回の選挙では、連邦首相の座を狙って独自の女性候補を出した、都市部のインテリ層に主に支持されている環境保護政党は、選挙戦が始まった当初は、得票率が20%以上に行くのではないかと言われていたが、女性候補者のイメージ作戦の失敗などもあり、選挙の蓋を開けてみると、結局は支持率約15%に留まった。

 同様に都市部で、ある程度の支持を取り付ける、「富裕者層のための政党」FDPは、小選挙区戦ではどこも勝てなかったが、コロナ禍では、野党として果敢に「自由」を掲げて、UnionとSPDの大連立政権のコロナ対策を批判し、それを以って、とりわけ若者層の支持を取り付けて、政党支持率の11,5%を勝ち取り、本投稿を書いている11月15日の目下、SPDと緑の党との連立政権成立のための交渉に臨んでいる。(このSPD、FDP、緑の党の三党の連立をドイツでは、「信号連立政権」と呼んでいる。これについては、筆者の、2021年3月19日付けの投稿をご覧あれ。)

 こうした選挙結果を受けて構成された第20回次連邦議会は、選挙後初の会合で、第一党のSPDの女性議員B.Bas(B.バース)を、736票中576票で連邦議会議長に選出した。(議会の過半数が369票で、信号連立が成立していれば、合計416票、差額の160票は、議会制度を破壊しようとするAfD議員がSPDに賛成する訳がないので、左翼党と、Union票の約3分の2から来ていると思われる。)

 共和国第二位の権力者である、すなわち連邦首相よりも上位の連邦議長が選出されると、今度は、副議長が選ばれるが、これは、慣例によって、各政党が指名した人物を議会でほぼ自動的に選出することになっている。が、第19回次連邦議会と同様にAfD指名の副議長候補は、落とされている。ネオ・ナチスに対する社会的防衛行為は、ことほど左様に強いのである。(さらに、新しい次回の連邦議会が初めて本会議を開くときには、その次回の連邦議会の最長老議員が、会議の冒頭に演説をする慣例になっていたが、そのままであると、AfDの議員が演説をすることになりそうであることから、最長議員歴の議員がこの役を担うこととして、今回は、CDUの議員が演説を行った。)

 さて、この演説を阻まれたAfD議員というのが、元議会内党派代表のA.Gauland(A.ガウラント)で、1941年生まれの80歳である。一方、1998年生まれで23歳の最年少議員が、ハンブルクから選出されている緑の党の女性議員である。

 この際、議員の年齢構成を見てみると、平均年齢が47,5歳と2017年の前回より約2歳ほど若くなり、40歳以下の議員が、前回が全体の約15%に過ぎなかったものが、今回は全体の約3分の1(その内1991年以降生まれた者が63名)と大幅に若返っている。AfD議員の平均年齢が約51歳に対して、緑の党が平均年齢が約43歳と最も若く、比例代表制で若手議員を多く送り込んだSPDも平均年齢約46歳と前回と4,5歳も若返っており、このことが今回のSPDの成功の一因であると言う。

 一方、女性議員の比率であるが、1998年の選挙で全議員の30%に昇って以降は、これまで停滞が続いており、2013年の選挙で36%に達したのを除くと、今回が35%となった。「ドイツ・ファースト」を唱える保守・右翼政党のAfDが、当然予想が付くのであるが、女性議員比率13%で、最低であり、Unionが23%、FDPが24%で、それぞれ平均数値より低く、SPDが42%(前回と同率)、左翼党が、その党綱領から予想できる通り、54%と半数以上が女性議員である(左翼党は、党首二人制で、その二人とも女性)。1994年以来議会内党派中常に最多の女性議員を抱えているのが、緑の党で、すでに1994年に女性議員比率59%を数えており、今回は前回同様の58%である。(日本の衆議院の、年齢構成や男女比率は、調べていないのでよく分からないが、その数字をドイツ人に見せたら、さぞかし驚くであろうことは容易に想像できる。)

 以上見てきたように、第二票における政党支持率に重きを置いて、それをできるだけ忠実に反映しようにするドイツの選挙制度は、やはり民主主義の根幹に関わる重要な原則である。しかしながら、598が定数になっているのに、超過議席のせいで736議席もの議席数が出てしまうのは、やはり問題であろう。この点、素人ながら、この選挙制度の「改良」を考えてみたい。(「改正」と名付けられたものは、いつも「改良」にはならず、場合によっては「改悪」になることもあろう。)

 1.まず小選挙区の数を減らす。今のところ約12万人に一人の議員の割合であるが、これを一小選挙区15万人に引き上げれば、今までの4分の1は減らせることになる。現在299の選挙区の4分の1は、74,8なので、仮に74議席を減らして、225小選挙区とする。

 2.超過議席(ユーバーハング・マンダーテ)は、それでも避けられないが、小選挙区戦に出した候補者は、比例代表の州候補者リストの必ず上位を取らせて、小選挙区・比例代表制の重複立候補として、比例代表制を以って、できるだけ超過議席を吸収するようにする。

 3.超過議席が出た場合は、それを州レベルの得票率で計算するのではなく、連邦レベルでも超過議席数を相殺するようにする。

 以上、思い付いたところを記すると、このようなことになるが、さて、選挙制度改良を自らの重要課題とする、新しい連邦議会議長B.Bas女史は、今後どんな提案をするか、よく見守っていきたいものである。

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