「読み鼠」 Leseratte (レーゼ・rラッテ)

 「読み」に当たる言葉が、Leseである。例の通り、s音は、音節の頭に母音と共に出てくる場合には、濁音となる。このLeseは、もともと、動詞のlesenから来ていて、複合語のために、その言葉の行為の要素を残しながら使いたい時に作る形である。日本語で言う、例えば、「立ち読み」の「立ち」と同様である。長母音 [e:] の発音に気を付けよう。

 次に、鼠が、die Ratte である。tの文字が二つ出ているので、カタカナ書きとしては、「ラッテ」と書いたが、日本語の「ッ」は、本来は一つの「音節」分の長さがあり、ドイツ語の発音上は、こう書くと問題がある。ドイツ語としては、2音節のものが、3音節になるからである。ゆえに、本来なら、「ラテ」と発音する方が、原語により近くなる。なお、動物のネズミであるが、同様な意味で、ドイツ語には、die Mausという言葉もある。これは、ハツカネズミなどの小型のネズミに使われる。

 では、「読み鼠」とはどんな「動物」かと言うと、本を読むのが好きな子供や大人のことを言うのである。読書好き、読書家、多読家と言ったところであろうか。「本の虫」については、別の項で述べる。

 「読み鼠」という言葉自体は、19世紀から見られるが、1920年代には、学生の隠語としての意味が付き、自分の講義中、学生を見ないで、ただ自分の講義の原稿を読み上げるだけの講義をする大学講師のことを言ったものであると言う。

 なぜ、ここでネズミなのかと言うと、若干ネガティブな意味のニュアンスをこの言葉が持っており、ネズミは、貪欲なイメージが付いているので、ジャンルを構わず何でもかんでも色々なものを読む多読・乱読家をこのように呼んだところから来ている。今は、このようなネガティブなニュアンスはもうない。「読書好き」と訳してよいであろう。

 さて、今日の2021年5月30日になぜこのテーマを扱うかというと、今日は、東ドイツ・ザクセン州にあるLeipzig(ライプツィヒ)市で開催されている「ライプツィヒ・ブックフェア」特別版の最終日だからである。これに合わせて、今日は、少し読書という文化行為が今のドイツではどうなっているかについても簡単に述べてみたい。

 「ライプツィヒ・ブックフェア」特別版がなぜこの5月下旬に開催されたかと言うと、コロナ禍の下、本来3月下旬に開催されるこの行事が、オンライン版に縮小されて、5月下旬に延期されたからである。「ライプツィヒ・ブックフェア」は、ドイツにおける、「フランクフルト・ブックフェア」(例年、10月中旬に開催)に次いで、大きなブックフェアである。

 「フランクフルト・ブックフェア」が、出版業界中心の商業レベルのフェアであるのに対して、「ライプツィヒ・ブックフェア」の方は、その独自性を出す意味でも、読者層に重点を置き、作家を地元に呼んできて、ライプツィヒの色々な町中で読書会、朗読会を催したりしている。期間中は、とりわけ、東欧・南欧の国をゲスト国として招待し(2019年度はチェコ)、その国の文学を特別テーマとして紹介している。また、日本文化との絡みで言えば、マンガ・コミック・コンヴェンションも同時に開催しており、ライプツィヒは、ドイツのコスプレイヤー達のメッカの一つとなっている。

 また、将来の「読み鼠」にするべく、子供たちをいかに、このデジタル化の波の中、読書文化に関わらせていくかの模索もなされている。その意味で、ライプツィヒ・ブックフェアでは、児童文学、読書文化に関わる教育もまた大きなテーマの一つとなっている。

 この点、ここ約10年位のことであるが、ドイツの各地の図書館で、子供を読書に動機づけようと、子供達を対象とした「Kamishibai」が一種の朗読会として催されている。筆者のざっとした印象であるが、ドイツ語になった中国語に比べて、普通のドイツ人が聞いて、理解できるドイツ語化した、もともとは日本語の言葉は、ドイツ語の中に少なくとも50個以上はあるであろう。Sushi (「ズシ」と発音される) から始まって、Manga、Anime、そして、最近はEmojiである。私見、Kamishibaiもそろそろ、この仲間に入れてもいいかもしれない。

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