ロベルト・コッホ研究所 Robert Koch-Institut (rロベアト・コホ・インスティテュート)

 前回の、21年8月10日の投稿で予告した通り、今日は、Robert Koch-Institutについて書く。

 まず、発音についてであるが、Robertの、bertの中にあるr音は、音節の〆になる部分に現れるので、原語に近い発音として、普通に表記される「ロベルト」ではなく、「ロベアト」と「ア」で表記した。

 研究所に当たる言葉が、das Institutで、前回のst音の説明と異なり、ここでは、st音を普通にス音で発音する。違いは、このstが語頭音ではなく、語中音として出てくるからである。

 では、Kochの発音についてであるが、通常「コッホ」と表記するところを、あえて、「コホ」と、ここでは書いた。実は、日本語とヨーロッパ語の「音節」には違いがある。例えば、英語のcatを取ると、音節的にはこの言葉は一音節の単語である。これに対して、catをカタカナ書きした「キャット」は、音の長さの単位では3単位である。「ト」はもちろん、「ッ」まで一つの長さの単位となる。

 また、「Konnichiwa」でドイツ人がよくやる間違いは、「こにちわ」と発音することである。Konのnとnichiのnとをいっしょにしてしまうからである。このKonのnは、「ん」であり、一つの音の長さの単位となっている。ゆえに、言語学では、この特殊な「ん」音や「ッ」を含めた「音節」の概念が導入されなければならず、このために専門用語として、die Mora (モーrラ;複数形:die Moren)という言葉を使っている。こうすると、重母音は、2モーラの計算となる。では、ここで質問である。Kikkômanは、全部でいくつのモーラの言葉であろう。

 はい、そうである。6モーラである。それを、ドイツ人はよく「キコマン」と4モーラで、ひどい時には3モーラで発音してしまうのである。

 逆に今度は「コッホ」から考えると、日本人はこの名前を3モーラで発音してしまう。これでは、限りなく原語の発音から遠くなってしまう。それゆえに、筆者は、表題の発音のところで「コホ」と表記した。日本語の重母音は、ドイツ語の長母音より、長すぎで、ドイツ語の短母音は、日本語の短母音より短すぎるのである。こうして、MieteとMitteをカタカナ書きにすると、「ミーテ」と「ミッテ」となり、「ミー」も「ミッ」も原語より長すぎる表記になるのである。という訳で、今後はドイツ語の長・短母音については、上述の点をよく気を付けて発音することをお勧めする。そして、音節の〆のchは、喉をさするように発音して、「ホ」と発音する。

 以上、長々と発音のことについて説明したが、では、Robert Koch-Institutとは、どんな研究所であろうか。

 まず、ドイツ国の正式名称はドイツ連邦共和国という。省略語では、BRD(ベー・エrル・デー)である。ここから分かる通り、国レベルが連邦、すなわち、der Bund(ブント)、州レベルがdas Land(ラント)となる。保健省は、ブントとラントのそれぞれのレベルにあり、Robert Koch-Institut – 以下からは省略語でRKI(エrル・カー・イー)と呼ぶ – は、ブント・レベルの保健省の下に置かれた、全国を管轄する、連邦上級官庁である。

 この研究所としての役目は、その設立当初の1891年の時代は、感染症研究が専門であった。「日本の細菌学の父」と呼ばれる北里柴三郎もここに留学し、研究したのであった。現在は、感染症だけではなく、非感染症の病気、遺伝子工学、さらには環境医学も守備範囲に入れている、ドイツの先導的研究機関となっている。

 このRKIに、前回の投稿で説明した「STIKO 常設予防接種委員会」が置かれていて、このSTIKOが予防接種の提案を行っている。前回の、8月10日付けの投稿を書いた時には、12歳から18歳までのファイザー/バイオンテックのワクチン接種に消極であったSTIKOも、数日前にゴー・サインを出している。政治家が既にいいのではないかと強引に接種解除を求めた圧力に屈せず、「遅い!」と言われながらも、研究報告をじっくり精査し、コロナの前では、言わば、「科学の前に政治は首を垂れよ!」という態度を貫いたのである。

 一方、RKIは、上級官庁として、コロナについては、毎日、感染率、感染率の時間的変化、死亡者数などの数値をインターネット上で発表し、必要であれば、記者会見も頻繁に行っており、ドイツ政府、連邦保健省から独立の活動を行っている。ここに務めている職員の数は、ウィキペディアによると、約1.100名、そのうち、博士課程の者、インターンを含めて450名が研究者である。2020年度の会計予算額は、1億800万ユーロ(大体1ユーロ、120円)である。

 連邦保健省の下にはさらに、Paul Ehrlich-Institut (パオル・エーアリヒ・インスティテュート;省略語:PEI ペー・エー・イー) があり、この研究所が、血清、ワクチン及び生物医学的医療薬品の認可決定を行う専門・研究機関となっている。この研究所も歴史があり、設立は、RKIより若干遅い、1896年である。Paul Ehrlich (1854-1915) は、医学者であり、血清の開発と免疫学の発展に貢献したことを以って、1908年の生理学・医学部門のノーベル賞を受賞した人物である。

 最後に、「保健省」という名称であるが、この省は、健康保険及び介護保険に特化した省であり、日本の「厚労省」とは構成が異なる。社会保障関連も含めた行政は、「労働省」と組み合わされて、ドイツでは、この省の管轄となっている。ゆえに、ドイツには、日本で言う「厚労省」がないのである。強いて言えば、「社会・労働省」がドイツにはあるのである。「行政改革」好きな日本人にとって、このようなドイツでの管轄分担は一つの示唆になるのかもしれない。

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