ドイツ倫理協議会 Deutscher Ethikrat (ドイチャー・エーティク・rラート)

 「ドイツ」の形容詞が、deutschである。euは、複母音で、「オイ」と発音し、tschは、特別の文字のコンビネーションで、「チュ」と表記できる。語尾変化の -erが、例の通り「アー」と発音できるので、-tscherは「チャー」と表記した。

 倫理協議会が、Ethikratになるが、これは、二つの名詞の合成語で、die Ethikとder Ratのコンビネーションである。Ethikのe音は、長母音で、[e:] 音であるから、きっちり上唇と下唇を横に張って緊張させて発音する。日本人のよくする間違いなので、気を付けたい。

 名詞Ratは、色々な意味があり、「助言、提案」から、「協議会、評議会、理事会」まで、さらには、「顧問官、上級事務官」などの意味もある。ウィキペディアでは、Ethikratを「倫理委員会」と題しているが、筆者は、「Kommission」を「委員会」と訳したいので、それとの違いで、Ratは、ここでは、「協議会」と訳した。

 それでは、「ドイツ倫理協議会」とはどんな機関であるか。2001年から07年まで別称で同様の役割を担った機関があったが、2007年8月に発効した「倫理協議会法」が、新名称の「ドイツ倫理協議会」の活動の法的根拠となる。本協議会は、独立の専門家協議会であり、この協議会は、「とりわけ生命科学の分野における研究とその発展、そして、人間にその知見を適用することに関連して生まれるであろう、倫理的、社会的、自然科学的、医学的、法律的問題及び、それらの問題が個人そして社会に及ぼすであろう、考えうる結果を追及する」機関である。

 連邦政府と連邦「衆議院」がそれぞれ半々に、合計26名の構成員を推薦し、4年の任期を以って、連邦「衆議院」議長がこれを任命する。その独立性は、連邦及び州レベルの議会並びに政府の構成員は倫理協議会の構成員になれない規定を以って、担保されていると言う。

 このように構成された倫理協議会は、倫理上の問題についての、学問に基づいた対話フォーラムをドイツ社会に提供するとともに、生命倫理学の提言機関として、独自の判断或いは政府ないしは連邦「衆議院」の委託に基づいて、政治上或いは立法上の行為のために意見答申或いは提言をなす。

 協議会は、原則として、月一回、公開の会議を開く。また、年一回、協議会は、ベルリンで年次総会を開催し、さらに、連邦「衆議院」と政府に対し活動報告を行うことになっている。協議会とこれに付属の事務局の経費は、連邦が持ち、このために、2018年の連邦「衆議院」予算においては、約190万ユーロ(平均的に1ユーロ120円)計上された。

 2008年、2012年、2016年、2020年と、4年毎の任期満了に伴なって、協議会の新しい構成員が任命された。2020年4月に発表された構成員の顔ぶれを見ると、右翼ポピュリリズム政党AfDの推薦者2名が議会で拒否されたので、今回は24名となり、その内、大学の研究者が20名で大半を占め、その他に、フラウンホーファー研究所や癌研究センターの研究員2名、嚢胞性線維症(Cystic Fibrosis症)患者の友の会代表1名、ドイツ・ユダヤ人中央協議会会員1名という構成になっている。倫理協議会議長には、Alena Buyx(アレーナ・ビュクス)が選出された。1977年生まれの彼女は、既に2016年に倫理協議会構成員に任命されているが、今回は二度目である(再任は一度だけ許されている)。医学倫理学の専門家で、現在はミュンヘン工科大学の教授である。

 協議会は、ほぼ毎年一つの大きなテーマで提言を出しており、例えば、次のようなものである:
ヒューマン・バイオ・バンク問題、着床前診断問題、認知症と自己規定の問題、インターセクシュアリティ問題、遺伝子診断問題、脳死と臓器提供問題、健康関連のビッグデータ取り扱い問題

 既に2019年には「予防接種は義務であるべきか?」というテーマで提言を行っているが、コロナ感染症についても、倫理協議会は積極的に臨時提言を行っている。

 「コロナ危機における連帯と責任」、「対COVID-19予防接種を受けるための権利をどうやって規定していくか」、「予防接種を受けた者には特別の規定を設けるべきか」などである。

 さて、上の段落で連邦「衆議院」なる言葉を使ったが、これをドイツ語でder Bundestag (ブンデス・ターク)という。Der Tagは、「日中、昼間」が基本的な訳であるが、ゲルマン民族時代の部族の集まりに元になる言葉が使われたことから、「大会、会議、議会」という意味も持つ。日本の衆議院と同様、直接に選挙区で選ばれた議員と比例代表制で選出された議員で構成される。日本同様、ドイツも二院制で、日本の参議院に当たるのが「Der Bundesrat」である。ここにも、Ethikrat同様にRatが入っており、直訳すると、「連邦協議会」である。

 この「連邦協議会」が日本の参議院と異なるのは、これを構成するのは、ドイツの、16ある各州の代表、つまり州首相とその下にある州政府である。ゆえに、BundestagとBundesratの権力関係が、日本のそれとは異なるのである。日本も衆議院のコピーのような参議院を廃止して、各県の代表の4人が集まって構成する「全国都道府県協議院」なるものを日本に導入してはいかがか。4人X47都道府県では、188人の議員数で、現在の245名(2021年段階)より数も少ない。さらに、各県2人ずつを完全比例代表制で、現行通り、3年ごとに改選すれば、各政党の綱領が何であるかで有権者も投票することになろう。また、これで政局の多党化も防げると思われる。ドイツの政治制度を鑑みての提言である。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?