現地時間 ドイツ [2] Die Ortszeit Deutschland (ディー オrルツ・ツァイト ドイチュラント)[2]

 「現地時間 ドイツ」が、現連邦大統領シュタインマイヤーの第二期目の活動キャンペーンの一つであることは、2022年3月21日の筆者の、同名の投稿で書いた。ドイツ語の言葉の意味や発音、また、キャンペーンの意図については、前述の投稿を読まれたい。

 今回は、同名のテーマの第二回として、ドイツ連邦大統領の職責、また、その選出方法について述べたい。
 
 行政府の長が連邦首相であり、彼が、日々の政治政策執行の重責を担う。一方、議会制民主主義を採る上では、立法府が行政府の上にあり、この点から、連邦議会の議長が、職位から言うと、連邦首相より上位にあるのは当然である。(因みに、日本の衆議院議長は誰でしたか?)また、連邦防衛軍も、ドイツでは、「Parlamentsarmeeパrルラメンツ・アrルメー:議会の軍」と認識をされている。そして、大統領は、連邦を対外的に代表する国家元首であり、また、元々が政党人であったとしても、その職責上、超党派の立場で、道義的、倫理的問題について、自身の意見を述べ、ドイツ社会の統合に努力するのが、彼の、内政的役目である。それ故、国民に向けての年頭の言葉は、連邦首相が行なうのに対して、宗教的行事であるクリスマスの言葉は、国民に向けて大統領が行なうことが、ドイツでは慣例になっている。

 以上、ドイツの憲法に当たる「基本法」で定めらた憲法機関の内で、これら三つの重要な機関:大統領、連邦議会議長、連邦首相の何れもを2022年3月現在、ドイツ社会民主党SPDが握っていることに注意したい。(因みに、ドイツではよく「憲法改正」が行なわれるが、それは、「基本法」が、その言葉通り、その建て付け上、「法律」であるからである。)

 さて、大統領の任期は5年である。任期が終わる前に、何らかの理由で大統領がその職責を遂行できなくなった場合は、連邦参議院の議長が、新しい大統領が選ばれるまで、その職責を代行することになっている。なお、連邦参議院は、16州ある州政府の代表で構成されており、その議長職は、各州の輪番制である。

 ドイツ連邦共和国は、1949年以来存在しており、大統領の任期が5年であるとすると、計算上は少なくも14人の大統領が歴代あったことになるが、実は、現大統領シュタインマイヤーは、12代目の大統領である。

 これまでの歴代の11人の大統領の内、一期目の任期終了前に汚職収賄事件で辞めた大統領が今までに一人、一期目の任期を満了した大統領が六人、任期の延長が一度だけ許されているので、二期目の任期満了前に辞めた大統領が二人、そして、二期目も満了して10年間その地位にあった大統領が二人(その内の一人が日本でも有名であろうR. フォン ヴァイツェッカー)いる。政党色で言うと、これまで、一人の無党派の大統領の他、二人のFDP(自由民主党)の政治家が、六人のCDU(キリスト教民主同盟)の政治家が、そして、二人のSPDの政治家が、大統領の職位に就いている。ゆえに、シュタインマイヤーは、大統領となった三人目のSPDの政治家である。

 そして、新しい大統領の選出のためには、Bundesversammlung(ブンデス・フェアザンムルング:連邦総会)が開かれる。シュタインマイヤーの大統領第二期目が2022年3月18日に始まったが、その選出は、その約5週間前の2月13日に行なわれていた。

 この連邦総会は、新しい大統領の選出だけを目的としたもので、その構成は、連邦議会議員全員とそれと同数の各州からの代議員による。今会期の連邦議会議員数が、史上最多の736名であるから、これを各州に人口比に応じて割り当てていく。さらに、州議会が、連邦から割り当てられた人数を、州議会内の党派の占有率に合わせて分配していくという手順である。つまり、州議会での各政党の議会内での議席占有率が、連邦総会の構成に関係してくるのである。(約377万人が住む首都ベルリンからは30名の代議員が送られた。)

 という訳で、今回は、736 x 2で、1.472名が連邦総会を構成し、その党派別の頭数を政治色の「赤」の方から見ていくと、以下のようになる:
左翼党:71
SPD:391
緑の党:233
FDP:154
「自由な選挙人」党(中道右派):18
Unionキリスト教民主同盟/社会同盟:445
AfD「ドイツのための選択肢」党(右翼ポピュリズム、極右政党):152
その他:8

 大統領候補者は、連邦総会の1.472名の過半数、つまり737票を獲得すれば、選出されたことになるが、シュタインマイヤーの出身政党であるSPDは、もちろん、現連立政権を構成するFPDが早いうちから、また、現野党であるUnionも、それほど時を置かずして、シュタインマイヤー支持を表明していた。女性候補を出したいと党内で動いていた緑の党も、結局、シュタインマイヤー支持に回ったので、計算上は、この4党を合わせた1.233票が選挙当日には入ることになっていたのである。

 シュタインマイヤー以外の候補者は、三人おり、それぞれ左翼党、AfD、そして「自由な選挙人」党が、実質上、自己政党の自己主張のために候補者を挙げていた。仮に、選出当日に賛成票が過半数に達しない場合には、当日内に再度選挙を行ない、それでも過半数が得られない場合には、もう一度選挙を行なって、その際に、最も票を多く得た候補者が大統領になることになっている。(歴史上、選挙回数が3回まで行き、それでもなお過半数を取れなかったケースは1969年に一度だけある。)

 選挙が伯仲し、誰が大統領になるか予測が付かない場合は、候補者を出している政党は党拘束が掛けられる政党人を連邦総会に送り込むが、今回の場合のように、誰が大統領になるかが事実上決まっている時には、党拘束を掛けないで、比較的党に近い立場の支持者・有名人を総会に送る。という訳で、今回は、各界の有名人なども総会に出席し、ドイツの国技とでも言えるサッカー界からは、現役選手、ナショナル・チームのコーチが、また、コロナ禍でもあり、この関連から、看護師、医師、ヴィールス学者らが、当日総会が開かれるベルリンに向かった。さらには、日本ではファイザー社の名前で通っているコロナ・ワクチンを実用化した、ドイツのBiontech社の、トルコ系の移民背景を持つ創業者も総会に招かれていた。

 当日の2月13日(日曜日)、コロナ感染防止のため色々な措置が取られ、ワクチン接種証明とPCRテスト証明が会場に入るためには必要である。その際、コロナ陰謀論を唱えるAfDの、元議会内党派代表を含む数名が自前で持ってきたテスト証明が認められずに入場を拒否された一幕もあったが、第17回連邦総会は、コロナ検査陽性反応者など35名を除いた1437名の参加者で、きっかり正午から始まった。

 候補者との事前のインタビューでおおよその方向性は示されるが、大統領の超党派性を壊さないために、選挙当日は立候補演説を行なわずに、すぐに投票行動に入る。議員、代議員の名前がアルファベット順に読み上げられて、呼ばれた者は立って、投票場所に向かう。

 投票が行なわれ、開票されて結果が出るまでに、約二時間半が掛かり、14時半少し前に結果が出された。連邦議会女性議長バースがその結果を読み上げる。1.425の有効投票数の内、棄権票が86票であり、シュタインマイヤーが、1.045票(約73%)を第一回目の投票で獲得して、彼の第二期目への選出が決まった。支持政党の合計が1.233票であったはずであるので、その内の約190人がシュタインマイヤーに投票しなかったことになる。欠席者票、無効票、棄権票がすべて支持政党側からのものとして、約65票が、他の候補に流れたことになる。恐らく、SPD右派であったシュタインマイヤーに批判的な、SPD左派、「緑の党」内の原理主義派が左翼党の候補者Gerhard Trabertゲアハrルト・トrラバートに合計25票を投票したのであろう。Unionでは、その右派、とりわけバイエルン州のキリスト教社会同盟から、「自由な選挙人」党の女性候補へと40票が流れたと思われる。

 ある人間がある人間とペアである場合には、そのペアである人間も同等に扱おうとするのがドイツ社会である。ゆえに、ある男性が、自分の妻、「内縁の妻」、「Lebensgefährteレーベンス・ゲフェアテ:人生の伴侶」、「同性のつれあい」を公式の場に連れてきても問題はない。この日は、シュタインマイヤーは、自分の妻に同席してもらっていたが、その、これまでのファースト・レイディーが、自分の夫が大統領に再度選出されてすぐに、それを祝福して、ハグをしたのであった。

 シュタインマイヤーの妻は、Elke Büdenbenderエルケ・ビューデンベンダーといい、裁判官を本来の職業としている女性である。彼女が、腎臓を悪くしていた時、シュタインマイヤーが自分の健康な片方の腎臓を彼女に提供した逸話は、この夫婦の仲睦まじさを象徴するものである。そして、夫婦別姓が、ドイツ社会では当然なことであることも、この際、述べておく必要があろう。夫婦同姓に拘るのは、前近代的家族主義(家父長制)に囚われているのであり、今のアフガニスタンの自称イスラム神政国家の女性差別とその淵源は同じものである。

 選ばれてすぐの就任演説の始めの方で、かつて博士論文でホームレスについて書いたことがあるシュタインマイヤーは、左翼党の候補者G.トラバートに向けて次のように言った。コロナ禍で加速された、ドイツ社会内での貧富の差の拡大は、その解消に向けて、自分が取り組まなければならない課題の一つである。是非一度お会いして、直にお話ししたいものであると。

 G.トラバートは、西部ドイツ、ライン川沿いにある司教都市マインツで、社会福祉医学を教えている大学教授であると同時に、移動医療車を駆ってホームレスの医療に当たっている社会奉仕活動家でもあるのである。彼は言う。自分は全国40万人いると言われているホームレスの人たちのために立候補したのであると。

 1989年にベルリンの壁が落ちて以来、ドイツでも新自由主義的政策が横行した時期があったが、2008年のリーマン・ショック以来、かつて民間資本に売り渡していた社会住宅や自治体所有だった土地を買い戻す動きが出てきてる。ドイツでは、「新しい」資本主義が、SPDが主体の「信号」連立政権の下で、着実にその形を取り始めていると言えよう。極東の某国でも、「新しい」資本主義が唱えられていると言う。その「新しさ」が、ただの口約束に終わらないことを希望するものである。

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