名前の日 Namenstag (ナーメンス・ターク)

 名前は、der Name である。-e で終わる単語で、男性名詞というのは、比較的に珍しいのであるが、それと分かれば、語尾の語形変化は、簡単である。ただ、-en を語尾にすればいいのである。ゆえに、ここの Namen も複数形にもなり得るが、単数形でも「~を」などと言う時にも Namen である。しかし、ここでの -n は、むしろ「~の」のsにつなげるためのものと理解したい。「日」が、der Tag で、音節の〆のg音は、例の通り、k音となる。

 それでは、「名前の日」とは、何であるかと言うと、例えば、Stephanie (シュテファニー) という名前を例にとると、この名前の「名前の日」が、12月26日(クリスマス第二祝日日)になっている。この名前は、Stephan (シュテファン) の女性形であり、教会典礼的には、この日に守護聖人シュテファヌスの事績を偲ぶ日であり、同時にこの名前を持つ人間をも祝うのである。

 ゆえに、キリスト教信仰が強い地域では、誕生日より、この「名前の日」を大事に祝う場合がある。なお、Stephanの「名前の日」の一つは、もちろん、Stephanieと同様に12月26日であるが、他にもさらに4つの日が挙がっており、有名な聖人の場合、このケースが多い。なお、名前については、必ずしもキリスト教関係だけから取っている訳ではなく、ゲルマン語から、さらには、ゲルマン・北欧神話に由来する名前もあり、例えば、Siegfried (ズィークフrリート) の「名前の日」は、2月15日と8月22日である。

 さて、6月24日の日の守護聖人は誰かと言うと、あの洗礼者ヨハネ、ドイツ語でJohannes (ヨハネス) である。この日は、このヨハネスの誕生日に当たる日であり、この日に教会典礼的には彼の事績を偲ぶのであるが、この時期の6月22日から24日は、同時に夏至の時期にも当たり、こうして、教会暦は農事暦とも重なってくるのである。こうして、この日は、特別にJohannistagと (単にJohanni或いはJohannestagとも) 言われる。

 そして、この日は、その年の白アスパラガス・シーズンの締めくくりの日ともなっている。アスパラガスとは、ドイツ語で der Spargel (シュパーrゲル) という。ここ15年以上ぐらい前からは、地中海料理との絡みで、ドイツでもグリーン・アスパラガスがよく食べられるようになってきたが、ホワイト・アスパラガスが、3月下旬から、この6月24日までのアスパラガス・シーズンには食べられてきた。

 旬の料理があまりないドイツ料理の中で、この白アスパラガス料理は、春から初夏を飾る季節の料理として、イチゴと共に楽しまれる。2㎝ぐらいの太さのアスパラガスを茹で、それに茹でジャガイモを付けて、ソースにはシンプルに溶かしたバターか白ワイン・クリーム・ソースをかける。これがメインで、アスパラガスづくめにしたい場合は、アスパラガスのクリーム・スープ、そして、デザートには、もちろん、たっぷりとホイップクリームをかけた旬のイチゴである。

 なぜ、この6月24日が白アスパラガスの食べ納めになるかというと、この日から数えて100日経つと、気温が冷え込んで、霜が降りる危険性が高くなるからである。それで、それまでに、アスパラガスの茎、葉を十分に成長させておき、こうして、うまく越冬できる準備の時間をかせぐのである。翌年には、盛り土をしてあるアスパラガスの畑からは、アスパラガスがまた生えだす。一本のアスパラガスの茎からは、6月24日までに平均で6回白アスパラガスが収穫できると言う。

 最後に、誕生日について一言。女性が25歳以上にはならない、どこかの国と異なり、女性に誕生日を聞いても失礼にはならないドイツでは、誕生日は、非常に大事な日になっている。誕生日へのお祝いは、その前にお祝いを言うと、不吉を招くと嫌がられるので、必ずその日か、遅くとも翌日にはお祝いのメッセージが届くようにしないといけない。

 誕生日は、20歳、30歳などと区切りがいい時には、大勢の人を呼んで誕生パーティーを催す。祖父や祖母が70歳や80歳の誕生日を祝うとなれば、息子や娘、孫たちも、遠い道のりをも顧みず、誕生パーティー会場に駆け付ける。こんなところに、日本同様に核家族化しているドイツ社会でも、いくらかでも家族の絆が保たれている一つの理由が見いだせるであろう。

 誕生日についての余談だが、既婚の男性はドイツではとりわけ気を付けないといけない。なぜなら、結婚記念日と共に、自分の妻の誕生日を忘れたら、それは、それは大変で、少々誇張すれば、離婚の理由になるほどであるからである。

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