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レンズのはなし・4


第4回

「結像性能=理想のレンズ」の大切さとともに、もういっぽうで「官能性能=レンズの味」も大事だ、前回はそんな話をした。

「レンズの味」ってなんだ

 じゃあ、そもそも「レンズの味」ってなんだろうか。うまく説明できるか、やや心もとないが「味」について。

 写真が趣味程度の友人とレンズの話をしていて、「空気が写るようなレンズこそがいいレンズなんだ」と、言ったとたん友人は、「ナニ? 空気が写るって、ナンだそれは?」と。
 無色透明な空気が写るわけがないじゃないか、と言うわけだ。そりゃあそうだんだけど、ナンというか、奥行き感とか立体感が感じられるような、雰囲気が写る、いやまあ、そーういうー感じの描写性能を持ったレンズのことなんだよ、たとえ話としてね、と曖昧な返事をしたけど友人は呆れたままだった。
 でも、レンズについて興味のある皆さんなら、言わんとしていることは少しはわかってもらえると思う。

 言うまでもないが、私たちが使うレンズは光学的にいいレンズであるに越したことはない。大事なレンズの条件である。結像性能の優秀なレンズは破綻のない素晴らしい描写をしてくれる。
 でも、写真レンズにはそれだけでは評価し、判断しきれないところもある。
 結像性能に加えて、好ましい官能性能もプラスアルファとして必須ではないだろうか。

 描写性能とは異なるが、操作性や価格、機能、大きさや重さ、耐久性だって大切な評価要素だ。しかし今はそのことは横に置く。

描写の欠点が「味」になることも

 レンズ選びをするときには、解像力がありシャープに写るという結像性能の"良い悪い"だけで判断するのではなく、個人的な"好き嫌い"なども含めてできる限り総合的にレンズを見て判断することが大切だと思う。

 レンズの「欠点」をアラ探しして、そうした一面だけをとらえてレンズの良し悪しを断定するのではなく、「欠点もまたレンズの魅力のひとつ」だと鷹揚に考えてレンズを評価してみてはどうだろうか。

 以下、偏った超私的なレンズ評価だ、と受け取られるかもしれないが、

 ・少しぐらい収差があっても、個性的で独特な描写をしてくれればいいではないか
 ・フレアーやゴーストが出たほうが、写真的にはおもしろいではないか
 ・画面の周辺部で少し暗くなるぐらいが、画像が引き締まってよく見えるじゃないか
 ・シャープで高解像描写でなくても、豊かな諧調描写があれば気持ちいいではないか

「結像性能+官能性能+アルファ=いいレンズ」

 「レンズの欠点=レンズの味」とプラス方向に考えれば、上記のレンズ性能これもまた「いいレンズ」の条件にあてはまるのではないだろうか。

 事実、こうした考え方を持っている人はいるはずだ。光学的な欠点が「多少」あるレンズのほうが個性的であり、味わいもある、と。なにを隠そう私がその一人なのだけれど。

 旧式のレンズ、光学的評価の低いレンズ、フレアっぽい描写のレンズ、ゴーストの出やすいレンズ、そうしたレンズには欠点はあるものの捨てがたい「レンズの味」もある。その「レンズの味」もまた写真表現のためには大切で、「いいレンズ」を選ぶときには多面的に総合的にレンズを見て評価すべきであると思う。

 ところで、記憶が曖昧な余談だけど、「レンズ味」というコトバを使ってキャンペーンを始めたのは、ざっと30年ほど前のPENTAX(当時の旭光学工業)のFAレンズからだったと思う。

 撮影レンズは結像性能=MTFだけをもって評価するのではなく、官能性能=レンズの味も含めて総合的に評価しようではないか、PENTAXの言いたかったのはそんな趣旨だった。

 だからというわけではないだろうけど、しばらくPENTAXの一部のFAレンズはレンズカタログなどには、MTF図を敢えて掲載しないことが続いた(RICOHと一緒になってその様子は変わったけど)。
 しかしLimitedレンズなどは、今でもかたくなに非公表にしているのも「レンズの味」にこだわっているからだろう(PENTAXの小さな矜持かな)。

 今回は少し無駄話が多かった。次回は、もう少し具体的に、いいレンズの選び方などについて話をしたい。

画面全体に盛大なフレアが出て、まるで色フィルターを使って写したようだ。でもこのレンズ(なんだったか忘れた)、いつもいつもこうしたフレアが出るわけではい。逆光で撮影するときは好んでフレアが出るようにして撮る愉しみもあった。

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