僕の心のヤバいやつ雑感: Karte.16「僕は心の病」

2021年6月8日現在最新話のKarte.72はバレンタイン回の真っ最中ですが、久しぶりに二人で自転車に乗るシーンが出てきたので初出のKarte.16を振り返り、感想など書いてみたいと思います。

前話でまるまる一巻かけてようやく山田への思いに気付いた市川ですが、早速「いや好きってなんだよ」と否定にかかります。恋だの愛だのは脳のバグ、「心の病」自分はそんな失敗を起こさないと自分に言い聞かせようとしたその刹那、当の山田に出くわします。

軽妙なやりとりが出来ない市川は「乗せてって」という山田の軽口を真に受けてしまい図らずも二人乗りで帰ることになります。もっとも山田もその前に無言で何か考えていたことから、二人乗りは冗談にしてももう少し市川と会話したい気持ちがあって、その糸口を探していたのかも知れません。

「意外に軽いな」という感想は、市川がこれまで山田のことを特別視し過ぎていたのに、実際接してみて等身大の同級生として接することが出来るようになって来たことの表れかなあと思います。走り出した市川に山田は部活をやめる話をします。学校で友達とはしゃぐいつもの様子と違い、率直に自分のことを語るのは、二人乗りの距離の近さのせいか、市川の人柄を信頼してのものなのか。

「情報処理部にしようかな」と市川の気持ちを探るようなセリフも飛び出します。この部分、山田は市川の自分に対する気持ちがどういった種類のものなのか値踏みしているのかな?とも思いますがはっきりわかりません。どぎまぎした市川は「ふーん」と素っ気ない返事をするのが精一杯ですが、山田目線のアングルで真っ赤になった耳が描かれているのが意味深です。

交番の手前で止まった市川は二人乗りを咎められることを恐れて山田を降ろそうと考えますが、その時パピコ占いの答えである「変化を恐れるタイプだね」という山田の言葉に心を動かされます。「そうだ」「僕は元々病気だ」「心の病なんだ」と自分に言い聞かせ、力強くペダルをこぎ出します。その様を見つめる山田の心は何を思うのでしょうか。

・感想

この話の最初に出てくる「心の病」とは人が人を避けようもなく好きになってしまう恋の病のことですが、市川の心の声「僕は元々病気だ」の病気はKarte.1の冒頭に出てきた「頭がおかしい」殺人衝動のことであって、恋の病ではありません(専門的には表裏一体なのかもですが、それはさておきます)。ここを市川は意識的にか無意識的にか、混同しているのです。

「恋は心の病だ」(大前提)→「僕は心の病だ」(小前提)→「僕は恋をしても良いんだ」(結論)

という詭弁の三段論法によって彼は自分が山田を好きな気持ちを肯定し、力強く進み始めるのでした。自転車の二人乗りを二人の関係になぞらえ、これからの展開を期待させるにふさわしい二巻冒頭の話でした。

もうすぐ公開されるはずの最新話も二人が自転車をこぎ出したシーンで次に続いているので今後が楽しみです。

それと、最も印象的なのはパピコの蓋をめぐるやりとりですが、最後の「もぉ」という時の山田がとてもうれしそうで可愛いです。市川のユーモアのセンスを好み、何気ないものや言葉のやりとりが楽しくなってきたんでしょうね。

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