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イベントレポート:不動産DXカンファレンス2024/パネルディスカッション「スマートビルの建物データを利用した不動産価値向上の最前線」に登壇しました!

こんにちは!THIRD(サード)広報です。
2024年4月9日(火)に東京ミッドタウン ホール&カンファレンス にて、商業用不動産業界のDXをテーマとした「不動産DXカンファレンス2024」が開催されました。
THIRDからは代表の井上がモデレーターとして登壇し、「スマートビルの建物データを利用した不動産価値向上の最前線」をテーマに、マクロからミクロに渡る幅広い視点を持つパネラーの方々をお招きし、最新のテクノロジーと建物データが不動産業界にもたらす革新的な変化と、それに伴う新たな可能性について深く掘り下げました。

■スマートビルと建物データに関する現状
スマートビル技術の進化により、建物データの収集や蓄積が容易になり、さまざまな場面で建物データが活用されるようになりました。しかしながら、不動産管理の実務においては、長年にわたりデータの蓄積が進まなかったという大きな課題が存在していました。多岐にわたる関係者が独自の情報を保持することから、バリューチェーン全体でのデータ共有が限られている現状です。この状況を打開し、建物データを最大限に活用することで、不動産の価値を大幅に向上させる方法が注目されています。

◾️パネラーのご紹介

ースマートビルではどんなデータを収集できる?

粕谷氏
最新のテクノロジーとは言えないまでも、ビルの中では沢山のデータを収集することができて、IoT・センサーと中央監視データといわれる2種の設備データに分けることができます。

設備データとは、空調や照明のようなものですが、IoTでは、室内の無線センサーのようなものもあります。これが近年使いやすくなってきています。

また、カメラを使った人の動きの把握もあり、カメラが非常に万能になってきていて、窓が開いているかも分かるかもしれません。さらに人がどこにいるか、どのような姿勢でいるかを撮影できる360度カメラを使って広範囲をカバーしています。

あとは、アプリを入力装置またはセンサーとして使うことができます。空調などの機器を制御し、より個人に合わせた使用が可能です。このようにスマートビルのデータを利活用することで、これまでより、快適かつ省エネな制御を実現できるようになっています。

井上
以前より、パーソナライズ化された情報が取れるということですね!
竹中工務店さんの方でアプリを開発したとお聞きしていますが、どのようなデータを収集できますか?

粕谷氏
一例になりますが、熱源機器は、おそらく最適な運転をしていない可能性がありました。これに対して、AIを用いて制御を行うアプローチが取られています。つまり、環境や人がどのくらい空間にいるのかということを予想して、熱源の送水温度を最適化ができるアプリケーションを開発しました。このシステムにより、約10〜12パーセントの省エネを実現しました。

最近では特に人の流れを可視化することに注力しています。目的としては、空間の利用方法を定量的に捉えるということ。また、多様なデータが生じることは確かですが、これらを適切に管理し、構造化することが重要です。それによって、データを活用した建物の制御が簡単になってきます。

ーリアルタイムのデータを収集できることで、今後どう変化していくか?

粕谷氏
これまでは1日1回のデータをもとに翌日や翌々日の計画を立てることが多く、人の手による作業もありました。しかし、現在では15分や30分ごとの短い周期でデータを最適化し、計画を立てるというアプローチが考えられています。リアルタイムデータの収集により、今ここに人がいるという情報をもとに、コミュニケーションの活発化を促すなど、建物制御を超えた付加価値の創出に活用することができます。これからも、このようなユースケースを考えていく必要があります。

井上
確かに、私も現場を訪問しコンサルティングを行う中で、昔に比べて安価で収集できるデータの量が格段に増えているという実感があります。重要なのは、これらのデータをどう活用するかという点ですね。

ー不動産の価値を高めるためにどのようにこれらを利用していくか?

中井氏
不動産価値向上のためには、ITの企画を検討する際に、業界内で分担されている3つの領域を考慮に入れなければなりません。

アセットマネジメント、プロパティマネジメント、そしてビルメンテナンスです。

それぞれの領域において、どのようなメリットを提供できるかを検討する必要があります。アセットマネジメントでは、収益構造の改善と資本コストの削減が重要です。ここでの目標は、高い収益を確保し、大きな資本投下や設備の減価償却を最小化することです。

プロパティマネジメントでは、テナントや利用者(ワーカー)に対して圧倒的な価値を提供することが求められます。これには、物理的な施設だけでなく、データ活用を通じたサービス提供が不可欠です。

最後に、ビルメンテナンスです。労働力不足の問題を背景に、人と機械の分業をどのように進めるかが課題となります。ここでは、作業を人が行う部分と機械が担う部分をどのように区分けし、効率的な運営に繋げるかが重要かと思います。

井上
統合的な視点で管理されることが重要ですね。
一方で各領域において、投資対効果を考えるとき、優先順位をどのように設定するかは複雑な問題ですね。優先順位としては、どこを注力した方が良いなどありますか?

中井氏
どの領域ももちろん大事なのですが、優先順位に関して言えば、実はビルメンテナンスが最も重要な領域だと考えています。この領域はまだ十分に手がつけられていませんが、他の領域に比べコストを出しやすい傾向があります。また、DX化を進めることで効率が大幅に向上する機会がありますが、この点にはなかなか注目が集まっていません。

ビルメンテナンスのデジタル基盤を整えることができれば、他の領域、例えばアセットマネジメントやプロパティマネジメントへの応用がよりスムーズかつコスト効率良く進められると考えています。

井上
ありがとうございます!

ーマクロ的な視点ではデータに関してどう考えていますか?

内田氏
現在、建物データのマクロ的な位置付けは、投資価値に直結します。特に、グリーン投資に関して日本はグローバルに比べて遅れを取っている状況ですが、グリーン投資を促すためには建物データが最強のソリューションだと思います。

不動産投資においては日本銀行がマイナス金利政策を解除してもなお、円安の影響もあり海外からの日本の不動産への投資が伸びている。これはイールドギャップ※などの金融的要素によるものですが、街づくりというのは長い年月をかけて行うものであるため、継続的に投資を呼び込むためにはサスティナブルな建築物であることを実証することが求められていると思います。

また、2050年のカーボンニュートラル宣言を受けて、2030年からは新築建物はすべてZEH・ZEB水準の省エネ性能を確保する必要があり、2050年からは既存建物についてもストック平均でZEH・ZEB水準を満たす必要があります。ここで大きな課題になるのが既存のビルです。既存ビルの大半は中小企業や個人がオーナーであることが多く、建物データの収集が進んでいない状況です。建物の投資価値向上だけではなく、環境問題などの社会的課題への対応のためには、既存建物も含めた建物データの収集、テクノロジーの活用が必要となってきます。

※イールドギャップとは、投資利回りと長期金利との差のことを指します。

井上
2050年のカーボンニュートラル宣言は私も衝撃を受けました。特に既存ビルがカーボンニュートラルを目指す上で、適切なデータの整備が不可欠だと思います。

ー官民連携による取り組みの難しさについてもお聞かせいただけますか?

内田氏
官僚側の場合、民間の動向を追いきれていないという問題があります。一方で、民間側は既にコミュニティとして集まり、知見をシェアしているという状況です。

不動産ビジネスはこれまで情報の非対称性に依存して収益を上げてきましたが、情報をオープンにすることでイノベーションが促進されるという認識が広まっています。しかし、業界全体としてはまだこの考えが少数派であり、どのデータを公開するか、どのデータを保護するかの明確な区分けが必要とされています。

井上
官民をどれだけ融合させられるかが今後重要ですね!

私たちはスマートビルや他の最新の建物技術に関連するデータ収集に携わっていますが、そのコストやデータの活用方法についてはまだ広く理解されていないかもしれませんね。

ー環境性能やコスト効率を向上させるための運用コスト削減に焦点を当て、AIを使った空調管理の具体例を通じて、効果的なコスト回収をどのように行っていますか?

粕谷氏
竹中技術研究所では、熱源送水温度の最適化にAIの強化学習を用いて、エネルギー消費を大体年間10%削減することができました。

また、照明の場合、AIの強化学習の技術を使って、ブラインドの位置調整、ルーバーの角度変更、照明の変更を行い、室内環境を快適に保ちながら省エネを行いました。
その結果、エネルギー使用量は約29%削減できました。この技術は、既存の制御方法をさらに改善し、大幅なエネルギー効率向上を可能にできると考えています。

井上
なるほど!AIを活用することにより、できるようになった技術ですね!
AIを使用する難しさもあったかと思いますが、どういうところでAI活用が難しいと感じましたか?

粕谷氏
大きくは二点あるかと思います。一点目はコストです。
AI技術を提供する企業が高い価格設定をしているため、特に中小企業にとって導入が難しい状況です。

二つ目はデータの理解に関する問題です。AIを提供する企業は建物に関しては詳しくないので、データを収集できても収集されたデータの意味を理解するのが難しい状況です。

そのため設計者やエンジニアが要件を明確に設定しますが、これにはかなりのコストがかかります。最近では生成AIを用いて、情報をインプットさせるだけで、欲しい情報を分かりやすく出すこともできるようです。

井上
ありがとうございます!

ーマクロの視点で内田さんは、建物データの利活用についてどう考えていますか?

内田氏
最近、国交省が進める社会実装プロジェクトの一環として、土地・空間データのデジタル化が進行中です。具体的には、建築BIM、都市全体のPLATEAU、そして13桁の数字から成る不動産IDの3つです。それぞれは要素技術として位置づけられていますが、それらを統合することにより、汎用技術となり、さまざまな社会イノベーションの推進とシナジー効果の創出を目指しています。

不動産IDは、不動産業界だけでなく金融や損保業界、郵便、ドローン技術を含む多様な分野からも注目を集めています。ドローンの場合、配送といった新しいサービスを展開する際、現在の住居表示だけでは配送先として正確に特定が難しいケースがあります。特に、マンションのように一つの地点に複数の住戸が存在する場合、正確な配送が困難になります。しかし、不動産IDを利用すれば、それぞれの住戸を正確に特定し、連結することが可能になりますね。

また、BIM(Building Information Modeling)※もあります。2027年には、全国でBIMによって建築確認申請が受付けられるようになります。

BIMデータを都市全体のPLATEAUと不動産IDに紐付けることで、建物データを一元管理し、統合することができます。これにより、情報が整理され、効率的な都市管理と発展が可能な素晴らしい世界ができます。

問題は、既存ビルです。BIMデータが不足している点です。多くの既存ビル、特に小規模なものや個人が所有するビルでは、適切なBIMデータや設備台帳が整備されていない状況です。

ただ、既存ビルには特有のメリットがあります。例えば、建物の設計時に要求される性能水準が、オーバースペックで設計されているため、稼働後の必要十分な性能水準を超える能力がある場合があります。しかし、実際に運用を開始すると、そのすべての能力が常に必要とされるわけではありません。このような建物の性能データをしっかりと証明することができれば、既存ビルも高い評価を受ける可能性があります。

※BIM(Building Information Modeling)とは
建物の設計、建設、運用を効率化するために、3Dモデルを用いて建物に関する詳細な情報をデジタルで管理するプロセスです。建物の立体モデルをコンピュータ上で作成することにより、建材のサイズや設置場所、必要な材料量、コストなどを正確に把握し、設計の段階での誤りを減少させます。これにより、建設工程の効率化、コスト削減、時間短縮が可能となり、建物のライフサイクル全体の管理がスムーズに行えるようになります。

井上
THIRDでは、設備台帳をAIで自動作成することができます。これは、BIMをデータ化することに加え、特に既存の物件においては、継続的に行われる改修工事に伴い、常に最終の設備台帳をどう作るのか考える必要があります。現在は人がやらなければいけませんが、近い将来AIを活用したサービスが、ここを担う可能性もあります。

ー最先端の事例を教えてください

中井氏
当社ではアセットマネジメント業とプロパティマネジメント業を一つの部門で統合して運営しています。これにより、計画立案から予算策定、実行までを一貫して行うことができ、意思決定のスピードと効率が向上しています。この体制は当社の大きな強みとなっています。また、東京不動産管理というグループ会社とも連携しており、通常はビルメンテナンス会社が独立して行動することが多い中、全体最適を目指して協力しあっています。結果的に、ビル全体を効率的に管理する「ビルOS」のようなデータプラットフォームができました。

井上
このシステムを作るってとても大変だと思います。「ITとOT(Operational Technology)の距離感」というキーワードについてです。このOTとは一体何を指すのか、とても気になっていますが詳しく教えていただけますか。

中井氏
ITはデータの扱いやインターネット関連技術を示し、OTは現場です。

ビルの現場では最先端の設備が使われていますが、IT領域への抵抗が強いです。反対に、ITの専門家にOTのデータを活用した施策についてお話しますが、馴染みがないようで具体の話になると難しそうな顔をします。

このため、ITとOTの間のギャップを埋めることが、効率的な運用には不可欠ですね。

私たちが開発したデータプラットフォームは、主に建物内のデータを集めるために使用されますが、設備連携や資料出力のような直接的な連携機能は備えていません。これは、大型ビル向けにはよく導入されますが、私たちが他にも扱う中小規模のビルにとってもDX化は欠かせません。ただ一部のビルのみをデジタル化すると、ビルメンテナンス会社にとってはダブルスタンダードになってしまうため、コストを抑え全体を一括でDX化することが望ましいと考えています。

このシステムの第一段階は「中央監視システム」や「外付けのセンサー」等のデータ収集で、次に全てのセンサーデータをクラウドに集約する「センサーデータの受領/統合」があります。最後に、「バイナリーデータの加工/変換/整理」を行い、データをAPIでアクセス可能な形に整えます。この整理されたデータは、中央監視システムから受け取った空調の故障などの信号をTHIRDの「管理ロイド」に自動的に送信し、通常手動で行われる作業を自動化します。これにより、従業員はより重要な業務に集中できるようになります。この一連のプロセスは、業務効率を大幅に向上させ、作業の質を改善します。

ビルメンテナンスも含め、コスト削減だけでなく、引き継ぎ業務を無くすことや、BIMデータを統合して利用することで、初めて現場に来た方もデータに触れるだけで必要な情報をすぐに取得できる構造を目指しています。この可視化は、既に実証実験を進めており、生きたデータを活用し続けることで現場の効率が向上し、優れた管理を実現することを目指しています。

井上
ありがとうございます。最後に、西新宿の大きなビルで実施したTHIRDの事例を紹介します。このプロジェクトでは、建物データを活用して設備管理を効率化しました。特に、建物データは嘘をつけないため、科学的な分析が可能になります。多くの投資家が関心を持つ資本コストについても、実際に必要な設備交換を科学的に判断することができるようになりました。

例えば、20万平方メートルのビルで、設計事務所が全交換を提案してきた時、建物データを用いた分析により、実際には多くの設備がまだ十分に機能しており、コストを大幅に削減することが可能でした。

今後、スマートビルの技術は進化を続けるでしょう。この技術を活用し、市場の要求に応える形で不動産投資が行えるよう、環境管理も含めた全方位的なコントロールが期待されています。この新しい時代に向けて、どうぞご期待ください。

満員御礼


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