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生産性と生産量を考える(補稿)

以前、「生産性なんて言葉をつかうと、議論がぼやけるから、生産量の話をした方がいい」と言うことを書きました。(2016年の記事ですので、もう4年前なのか・・・)

この記事では、
・単位時間あたり生産量

・一人当たり生産量
に二者について言及し、前者は個人の生産性を見るのに使われ、後者は組織の生産性を見るのに使われる、と言うお話をしました。

そして、「一人当たり生産量」を増やさないと組織の稼ぐ力は低下するが、ワークライフバランス論において、「(個々人の)単位時間あたり生産量」の話にスポットライトが当たったが故に、「単位時間生産量は上がったが、投下時間が減少したため、トータルの生産量が減ってしまった」というケースが増えているのではないか?という疑問を投じました。
(同じ疑問は、今も持ってます。いや、もはや危機感と呼んだ方がいいかもです。マヂやばいって。)

が、つい先日、知人から「景気悪化局面における生産性って、どう考えたらいいの?」という問を貰いまして、「ああ、そうか。確かに、そのへんは説明できていないのか」と思ったんですよね。

と、言うことで、本日は「生産性って言葉を軽々に使っても、誰も幸せになんてならないよ part2」です。よろしくお願いします。

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おさらい: 生産性=生産量÷投下リソース量

さて、まずはおさらいから。
(おさらいの必要がない人は、中段の★ ★ ★ ★ ★マークまで、読み飛ばしていただければと思います)

生産性というのは、ある量の何かを生産する際に、それに用いたリソース(ヒトモノカネ)がどれくらいだったか?を測る指標です。
つまり、言い換えれば「単位あたり生産量」です。

分子である「生産量」は、物を作っているなら「個数」でしょうし、接客業なら「顧客数」が妥当かなと思います。もちろん、同じ接客業でも、客単価のボラティリティが激しいビジネスなら「売上」でみた方が良いこともあるでしょう。
一方、分母となる投下リソースは、「人月(もしくは人日、人時)」のケースが多いです。何人が何ヶ月(もしくは、何日、何時間)働いたのか?を分母とすることで、投下工数あたりの生産量を計算するわけです。

「100人月で、100個作った」というときは、
・生産量=100個
・投下リソース=100人月
・生産性=100個÷100人月=1個/人月
ということです。

100人月は、10人で10ヶ月でも良いです。
あるいは、100人で1ヶ月でも構いません。
反対に、1人で100ヶ月でも良いです。
あくまでも投下リソースの単位なので、その振り向け方の話はしていません。

なお、当たり前ですが、「200人月で、100個作った」なら
・生産性=100個÷200人月=0.5個/人月
です。
さっきより、数字が小さいですね。
倍のリソースを注ぎ込んで、同じ量しか生産していないわけなので、そりゃ「生産性が低い」ってことになるわけです。

なお、人月という考え方は、土木建築や大規模システム開発でよく使われますが、「人月の神話」という"読まれない名著"がありますので、興味のある方はぜひご一読を。
35万字とかある本ですが、一言で言えば「人月で測るのは無理ゲー」って話です。

ちなみに、僕が昔書いたガチ解説もありますので、副読本として、ご一緒にどうぞ。

外部LINK ➡ 読まれない名著「人月の神話」を本気で読み込んでみた

生産性の様々なケース

生産性指標の考え方は、いろいろな応用が効きます。発電効率、エネルギー効率や、飛行機や鉄道の運輸能力なども同じ考え方ですが、ここでは、いくつかの身近な例を挙げておきましょう。

RoI(return on investment) すなわち投資対効果は、生み出したお金÷使ったお金です。
100万円投資して、1000万円得られれば、RoIは10.0倍です。
(なお、リターンが、必ずしも金額換算できないケースはあります。たとえば、コスト削減プロジェクトにおいて原価や販管費を減らしたものは金額で測れますが、「人の工数が減った」は、その人を解雇しない限り明確なコスト削減効果にはなりません。また、0.5人分の削減、だと、実際には人は減らせません。その場合は、空いた0.5人分で営業活動をして売上アップに貢献する、などの仮定を置いて、無理矢理にでも金額換算することが多いかなと思います。)

ダイエット時の、カロリー消費も、生産性と捉えると良いです。
ダイエットにおいては「運動するとカロリー消費が進み、痩せる」というアプローチが取られます。
(現実的には、消費カロリーを増やすより、摂取カロリーを減らす方が効果が大きいんですが、ここでは目を瞑ります。あと、筋トレによって基礎代謝が上がる云々という話もありますが、一般人レベルの筋肉量なら、誤差ですので、ここでは無視します。)
で、ダイエット生産性を考えると、
・生産量=消費カロリー量
・投下リソース=運動量
・生産性=消費カロリー÷運動量
となります。
「生産性が高い」は、すなわち「効率良く痩せる」って話です。

で、ダイエット本などを見ると、ざっくりきうも以下のようなことが書いてあります。(だいたい合ってると思いますが、うろおぼえの記憶をもとに書いてますので正確な知識は、Tarzanとか買って確認してくださいw)

・運動開始から15-20分程度は、血液中の遊離脂肪酸を消費するため、低強度の有酸素運動(ウォーキング/ジョギング)をして体を温める。
・血液中の遊離脂肪酸が枯渇したら、肝臓に蓄積された脂肪分解が始まる。そこで、少し強度を上げてランニングに切り替えると、効率良く脂肪が燃焼される。
・なお、心拍数を上げすぎない方が脂肪燃焼効率が良い。
・また、一度、脂肪燃焼が始まると、それは15-30分程度持続するので、30分程度運動した後は、15-30分程度の休憩を挟むと良い(座らない方がベター)
・遊離脂肪酸の前に、グリコーゲン(糖)の消費があるので、有酸素運動の前に筋トレをしておくと、脂肪燃焼が早く始まるため、効果的。

この話の要諦は「ガンガン全力で運動するんじゃなくて、いい感じのところを見極めると『楽に』痩せられるよ」ということです。
効率的に、が、楽に、というベクトルで語られてるわけです。

つまり「体が感じる疲労度あたりカロリー消費量」を優先するなら、上記のように、できるだけ低強度の運動を行い、休憩も挟みつつ、効率の良いカロリー消費を目指すべきです。

しかしながら「投下時間あたりカロリー消費量」を優先するなら、最初から最後まで、高強度の運動をするべきです。

たとえば、1時間の運動時間があるとします。
低強度で効率良く、だと、上述のテクニックにならえば、20分ウォーキング→20分ランニング→20分休憩となります。
ウォーキングは10分で30kcal、ランニングは10分で80kalの消費とし、また、休憩時間中もウォーキング程度の消費があるとしましょう。
その場合、60+160+60=280kcal/hとなりますね。

一方、高強度の方は、ランニング60分になりますので、80×6=480kcal/hです。
(正確には、この後ろに20分のウォーキングレベル消費量を加えるべきかもしれませんが、割愛します)

前者は「楽して痩せたい」という話です、後者は「早く痩せたい」という話です。

賢明なるnote読者の皆さんには、お分かりいただけたことかと思うのですが、生産性の議論において、時間あたりか、人数あたりかを見誤るとダメだよ。というのは、この話と全く同じですね。

楽して痩せようとして、カロリー消費量が低いことを良しとするのか。早く痩せようとして、苦労することを良しとするのか。どっちの結果が欲しいのか?は、極めて大切です。

個人の生産性(=単位時間あたり生産量)が上がった!と言っても、組織としての生産性(=社員当たり生産量)が下がっているなら、組織は立ち行かなくなります。これは、どっちが良いとか悪いとかではなく、純粋な事実です。どういう選択をするか、の問題です。

景気後退局面における「生産性」の議論

さて、前置きが長くなりましたが、今回のメイントピック、景気後退局面において、生産性をどのように考えるべきか?です。

★ ★ ★ ★ ★ ←検索用マーク

基本的な考え方は、何も変わりません。
生産性=生産量÷投下リソース量 です。

ただし、景気後退局面、不況時においては分子である「生産量」が減少してしまいます。
そして、これを増やすことが困難です。(それが、不況、ってことです)

つまり、生産量が、生産キャパシティ(=投下可能リソースの総和)を下回る、という状況です。

この時点で、生産性の議論は不毛なものとなります。

だって、生産量を増やす、という手段が使えないんですもん。生産性をあげる=投下工数を減らす、になってしまうんですもん。
これは、キツい。そのため、景気後退局面において、生産性をあげよう、というと、生産キャパシティの削減=人減らし、という風に考える人が多くなります。

ただ、それもそれで短絡的すぎます。もう少し具体的な事例を紐解いて考えてみましょう。

たとえば、案件が減っている場合には、生産性は下がります。
また、案件が小粒になっている、という状況においても、生産性は下がります。
しかし、この二つは、別物です。

案件が減っている場合、完全に「余剰キャパ」状態となります。言い換えれば、
・生産量=案件数
・投下リソース=投下可能人月
・生産性= 案件数÷投下可能人月
とするときに、生産性が1を下回る状況、になります。
本当はもっと作れる/仕事できるだけの労力があるのに、それができない、という状態です。

一方、案件が小粒になっている(案件数は同じと仮定する)場合は、どうでしょう?
・生産量=案件数
・投下リソース=投下可能人月
・生産性= 案件数÷投下可能人月
という指標で見れば、生産量は減っていないことになります。
しかし、小粒になっていれば、当然ながら売上は減っていますので、その場合は、
・生産量=受注金額
と置いて考えるべきかもしれません。
(それなら、生産性が下がっている、ということがわかります。)

しかし、これでも片手落ちです。
なぜならば、案件が減っている、というケースと異なり、案件が小粒だが数が多い、というケースでは、オーバーヘッドのかかり方が変わる可能性があるんですよね。

大きな案件の時には、その案件にずっと関わっていれば良かった人が、小さな案件の場合は、複数の案件に参画して同時並行で処理する、ということが求められたりします。
複数案件での並行稼働は、物理的な移動を伴うこともあります。勤務時間中の物理移動は、完全なアイドルタイムになりがちです。

あるいは、小粒な案件は、実施期間が短く、契約手続きが頻繁に発生してしまう、というようなケースもあるでしょう。

さらに、小粒な新規取引先が増えている、みたいなことも合わされば、契約周りはカオスです。
通常の契約書面の取り交わしのみならず、与信判断や反社チェックなども必要になります。提供サービスによっては、秘密保持契約や知的財産権の所在に関する交渉などが発生することもあるでしょう。

他にも、顧客企業/事業内容に関する知識が乏しかったり、別の案件と混同してしまったりするリスクも増えます。
頭の切り替え、作業の切り替えは「目に見えにくいコスト」です。
(唐揚げ専門店が、トンカツも売り始めた。というケースを想像してください。材料も調理手順も、そして油をきれいに保つ方法も、かなり違ってきますよね?)

こうした「取り扱う案件の種類が変わったことにより、新たに発生した作業」のことを理解しなければ、生産性の高低を論じることはできません。
ご理解いただいている方には、くどくどした繰り返しになって恐縮ですが、小規模案件の運営は、「分母が膨れやすい」構造なわけです。

今回の場合、「ビジネスの構造的な差異に基づく、如何ともし難い生産性の差である」と認識した上で、考えるべきことは「営業人員の生産性向上」よりも、むしろ「バックオフィスの処理能力を増やす」とかいう話になります。(人を増やすのか、それこそ、現在の人数のまま「生産性をあげる」のか、です。)

上記具体例でお分かりいただいた通り、生産性向上の議論は、一本道ではありません。
ここからは、課題認識と、その解決アプローチについて考えていきます。

あらゆる「KPI」の確認プロセスは同じ

ここまで、生産性の話をしてきましたが、考え方としては、ありとあらゆる「KPI」が同じです。
分子となる生産量(販売個数、決済数、登録客数、来店客数、PV数 など)も勿論ありますが、それらは、結果指標(もしくは中間結果指標)ですので、物事を改善したい、という場合は、それらの生産量を「何かで割る」ことになります。
つまり、ありとあらゆるものは「何を、何で割っているのか」をしっかりと捉える必要があります。

たとえば、みんな大好きコンバージョンレート(CVR)。
何人中、何人が、コンバージョンしたか?ってやつですね。
ちなみに、コンバージョンというのは「転換」と訳すのがいいんですかね。概念としては「こうしてほしいな、という行動を相手が行ったこと」を指します。
具体的には、購入、資料請求、会員登録、などを用いることが多いですが、他にも、別に何を設定しても大丈夫です。

この時点でお気づきの通り、既に「分子」である「生産量」が、何種類もあります。どれの話をしてますか?は、大切です。

次に、「分母」です。これは、母数となるお客さんの数、なんですが、残念ながら、定義は様々です。
・ふらっとお店・webサイトに立ち寄った人
・棚の前・商品ページに来た人
・商品を手に取った・カートに入れた人
など、いろいろな「分母」が設定可能です。

また、そもそもが「ある広告を見て、ここに来た人」に絞り込んでいることもあります。(web広告、webメディアならば、その辺りをトラッキングできるので、こういう詳細な部分まで追いかけることができます。新聞広告などでも、QRコードの行き先URLを変えたり、問い合わせ電話番号を掲載メディアごとに変えたりすることで、経路を追いかけることがあります)

つまり、CVR、と同じ言葉を使っていても、本当に同じ物の話をしているのかどうかは、ちゃんと確認しないとわからないわけです。

KPIの取扱い方(打ち手を導くアプローチ)

最後に、生産性を含む「KPI」を取り扱う際の、アプローチについてお話しさせていただきます。

大きな流れは、以下の4つです。

1. まず、モニタリングする。
2. 次に、その指標が高いのか低いのかを確認する。
3. 低い場合は、なぜ、低いのかを理解する。
4. その低さを、改善する余地があるのか、ないのか、を検討する。

この4ステップで進めましょう。

1については、本稿で長々と述べてきた通りです。

2.3.については、何かと比較することになります。
別のチーム?別の案件/プロジェクト?同業他社?他業種?
ここでも、比較相手を間違えると、高いも低い物分かりません。
たとえば、商社とメーカーの利益率を、単純比較しても意味がありませんよね?
あるいは、生産性の話で言えば、新規事業開発チームと既存事業運営チームを比べるのは無駄です。(なぜなら、分母も分子も異なるからです)
適切な比較対象を選ばないと、生産性が高いのか低いのかもよく分かりません。そもそもの生産量の多寡さえも分からないこともあります。

ただし、2において、適切な比較対象を見つけられれば、3は比較的容易です。
なぜ、高い組織と低い組織があるのか、は、それぞれの組織の状況を細かく見ていけば、自ずと明らかになります。
案件の種類?メンバーの習熟度?経験豊富なミドルマネジメントの数?
その組織が「生産する」ために、必要なものを抜き出して、なにが「生産量を上げる妨げになっているのか」を見極めます。
たとえば、案件の種類、だとしても
・既存客か、新規開拓か
・大型案件か、小型案件か
・シンプルな内容か、難易度の高い取り組みか
・パイプラインに受注見込みの高いものが多いか、低いものが多いか
などの、様々な要因が考えられます。
これらの視点で、深く観察し、「差の理由」を考えることが大切です。

そして、4です。「そこに改善余地あるの?」あるいは「改善する意味あるの?」です。
みんな、忘れがちなんですよね。これ。
個人的には「コンサル嫌い」な人の大半が、コンサルはこのステップをやらない、と思ってるからじゃないか、という気がしてます。
そして、コンサルを名乗る人の中にも、確かに、このステップを疎かにする人もいます。

差がある、ということと、差を埋めるべきか、は別の話です。

1-3は、差があるかどうか、話でした。差があるか、その差は何なのか、なぜ、その差ができているのか。
ここまではドライな話です。数字を集め、現場の状況を理解し、何が原因かを突き止める。診察であり、診断です。

4は、その診察結果、診断結果を踏まえた、治療法の検討フェーズです。
薬を処方するのか、手術するのか。
たいした問題ではなければ、何も手をつけない、も一手でしょう。
あるいは、QOLの観点で、化学療法は行わない、という意思決定もあり得ます。
何を言っているのかと言いますと、人が絡む問題である以上、極めてウェットな事情も出てくる、ということです。

1-3で導かれた結論として、数字的には「従業員を半分に減らす」ということが合理的であったとして、それを断行するのかどうか、やるとしても、どういう手段でやるのかは、一意には決まりません。

・半分の人が露頭に迷っても仕方ないものとして、ガチの首切りを断行する
・早期退職制度、希望退職パッケージなど、金銭的メリットのある条件を用いる
・不採算事業(子会社/部門/チーム=所属社員)を他社に売却する
・ワークシェアリングにより、週3勤務にする(その分、給与を減らす)
・出向によって、一時的に他業種/他業界に派遣する

など、いろいろなやり方があります。

ちなみに、最後の一つは、最近、航空会社が実行しましたよね。
僕は、思いつきもしませんでした。
景気が回復することを前提に、首切りして、人材流出をするよりは、社内でホールドしておきたいという観点もあるでしょうけれど、本音は「人なんて切りたくないんだ」というウェットな部分が相当あると思います。
(それが、仮に「情」ではなく、「ブランドイメージ」のためだったとしても、です。)

また、「その差は、許容されるべきではないか?」という視点もあります。

2.3.の話でも述べましたが、「新規事業と既存事業」とか「新規顧客開拓と既存顧客運用」とか、「大規模案件チームと小規模案件チーム」、あるいは「ウォーターウォールとアジャイル」などの、単純比較が困難なケースがあります。

これを、無理矢理に単一基準で比較して、生産性が低いと断じて、強制的に改善しようとするのは愚の骨頂です。
(そういうことをする奴らだ、とコンサルが思われてるのが、僕は、とても悲しいのです、、、)

たしかに違うけど、違うままでいい。
明らかに差があるけど、この差はあって然るべき。

そういう判断をすることが、大切な場合もあります。

この第4ステップまで、しっかり踏み込んで、生産性(および、あらゆるKPI)の議論を行うと、論点が飛び散りまくって意味がわからない打ち合わせになり無駄に疲弊して終わる、、、なんて悲劇が激減することと思います。
ぜひぜひ、お試しくださいませ。

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