ウイルスと共生する時代の「消費スタイル」を考える
人類の歴史は、感染症と戦う歴史と重なります。それを、何とか克服して、経済的な発展を獲得してきました。スペイン風邪、ペスト、天然痘。それらとの戦いで、大きな犠牲を払いつつ勝利を収めてきたわけですね。
いま、僕らが、直面しているのは、その歴史の新たな1ページだと言えると思うんですよね。
このページをめくった先に広がる新しい「章」では、これまでのビジネスモデルが通用しないかもしれないなと思うんです。極端な例なのは承知の上で、少し「コロナが蔓延る(はびこる)世界」でのビジネスの変化を考えてみようと思う。
ファッション
人との接触が減る方向に世の中が動くと、「誰かに見せる」ことを前提としたオシャレの効用が低くなってくる。そうなると、着心地重視、質感重視の方向に動くかも。動きやすい、リラックスできる、みたいな。
高いルームウェア、リラックスウェア、パジャマが売れそう(既に売れてそう)。作務衣とかも見直されないかな。
先日、クライアントのアパレルブランドの服をオンラインで購入したのだけど、これ、誰に見せるんだ?という気持ちになりました。近所をお散歩するのに着るくらいしか思いつかない・・・。(zoomミーティングとかで見られてはいるけど、そこで、相手のファッションを大きく気にしているようには感じない。)
もちろん、もともとファッション大好き、という層は、これまでと変わらないし、反対にTPOという概念が大きく減じると思うので「好きなものを好きなように着る」という傾向が強まる可能性はある。僕のつたないファッション知識で言うと、ヨージ・ヤマモトとかは、売上変わらないんじゃない?って思う。
一方で、セレクトショップなどの「ファッションは得意じゃないけど、及第点が取れますよ」というお店は方向転換が迫られそう。こういうお店で服を買っている人たちの多くは「世間の要求に合わせて服を買ってる」に過ぎないので、本心は、別にユニクロで良かったりする。
じゃぁ、ユニクロは安泰か?というと、これもこれで「TPOに合わせた服装をするのに、デザインが無難で品質も悪くない」という位置づけなので、TPOという概念が減れば、ユニクロである必要性もなくなる。
やはり「良質な部屋着」「着心地が良くて動きやすい服装」に、大幅に寄っていくんじゃないかと思う。アディダスとかナイキとかの、スポーツブランドが、近年オシャレ路線に舵を切ってるけど、本来のポジションに戻った方が強みがでるんじゃないかと思ったりもする。
アウトドアブランドはどうなんだろう。外出機会が減ると、「機能性デザイン」は受けなくなるのかもしれない。
住環境
今後、人が、最も、お金をかけるのはここでしょう。間取り、日当たりを気にします。家具、家電、キッチンまわりの調理器具や食器類に対する出費は、おそらく増大していきます。
コーヒーメーカー。良いフライパン、鍋、包丁。快適なビーズクッション。そういうものが良く売れそう。
広くて、快適に過ごしたいという意向が高まりますよね。特に、これまで「家=寝るだけの場所」として扱ってた人たちは価値感の大きな転換を求められるでしょう。だって、睡眠時間を除くと、風呂、トイレ、歯磨き、くらいしか家にいなかった人が、いきなり18時間とか過ごすわけですよ。「快適性」に目を向けざるを得ませんよね。
快適な睡眠、睡眠の質というキーワードで「寝具」に注目していた人たちが、住宅全体に目を向けるイメージです。
自宅の滞在時間が長くなると、いろんな不具合が目に留まります。掃除もしたくなりますよね。断捨離が進みます。もちろん、いろいろ買い替えたりはすると思いますが、少しずつ「必要なものしか買わない」スタイルが確立されてくるかもしれません。
そうなると、商品側は「そのひとの一番欲しい物」にならないといけなくなります。FMCG系は良いとして、耐久消費財はお試し消費が難しいものですが、これまでは「安物買いの銭失い」が許容されてきたように思います。今後は、そういうものは厳しいんじゃないかなぁ・・・
また、立地については、これまでとは異なる選定基準になる気がしますけれど、現状よりもコダワリが強くなるかもですね。通勤頻度が大幅に下がるなら、駅近であることのメリットが下がります。(そもそも、高級住宅地って、だいたい駅から遠いですよね)
他者との接触を限定的にしたい、という意向が働くなら、都心のタワマンよりも、郊外の庭付き戸建てを望む人が増えるかもしれませんね。特に、小さい子がいる家庭では。
そう思うと、分譲戸建てを、販売ではなく定期借家で貸し出すモデルも良いかもしれませんね。
シェアリング
直前までみ知らぬ他人の使っていたもの、は、使いたくない、という話になる。消毒とかのプロセスが増えるでしょう。
シェアハウスもつらい。カーシェアリングもつらい。貸別荘や、タイムシェアも、嫌がる人は出てきそう。従来の概念言うところの「潔癖症」が、増えていく感じですかね。(同じ理由で、ホテルも厳しいかもしれませんね。)
上記の住環境で書いた ”賃貸” の場合もそうですけれど「消毒ビジネス」は流行るかもしれませんね。おざなりな感じでアルコールで吹くだけではなくて、ガッツリ消毒するタイプ。(ただ、絶対に効果ないだろそれ、という ”えせ消毒ビジネス” もめっちゃ増えると思います。そういうものに騙されない、賢い消費者になりたいものです)
ただ、シェアリングは、性善説を軸にして回るコミュニティとセットなら運営可能かもしれません。信頼できるメンバーで、お互いに意識が共通の少人数でのシェアリング。あまりレバレッジは聞かないですし、シェアリングプラットフォームとして事業を成立させるのは難しいかもしれませんが、そういう小規模コミュニティを立ち上げ・運営する人向けのサポートビジネスなら余地がある気がします。
旅行・観光(含む交通)
この領域はほんとうにヤバい。人が沢山移動して、一か所に集まることを前提にしてビジネスモデルが構築されているので、この状況下だと事業のモデルそのものが成立しない。
「モノ」の消費については、そこに来てくれた人のことも「地元」とカウントしていた従来の地産地消ではなく、ガチでそこに住む人達の消費に頼る地産地消と、外部の人へのオンラインでの販売で遠方需要を刈り取るくらいしか術がない。サブスクリプション型の食材販売とかは、可能性があるかも。
ただ、普通にやってると小規模事業者が生き残れない。個々の事業者が一人勝ちを目指すのではなく、地域で共同体としての調達・販売モデルをつくり、域内でレベニューシェアが可能な組合の形式にしないと地域経済が崩壊してしまう気がする。
体験型(コト消費)は、ツラい。まぢでつらい。VRとか、ARとか、そういう話になるのかなぁ。。。でも、温泉とかホテルは、そういうわけにはいかないですよね。設備と接客で価値提供をしている。それができなくなる、ってのは、本当に厳しい。
遊園地なども「前の人が触ったところ」を気にせず触れるような世界に戻るのか?って考えると、判断に困りますよね。人の心理は、科学的根拠の有無とは関係ないところで作用するので「科学的にNG」と言われても気にしない人は気にしないし、「科学的に安全」と言われても安心できない人は安心できないんですよね・・・。
一方、自家用車のニーズは高まりそうですよね。自分が清潔さをコントロールできる移動環境を持つわけですからね。一家に一台ではなく、一人に一台欲しくなるかもしれません。パーソナルモビリティーは一気に隆盛になるかもですね。
飲食
飲食業も、前掲のホテルや温泉旅館、あるいはコト消費型と近しい提供便益なので、従来のやり方では厳しいでしょう。
ケータリングサービスもパーティーのニーズなどが減ると考えると、少人数向けに方向転換していくことになりますが、それでも「自宅に他人を招き入れる」に対して、拒否感が出てもおかしくはありません。
ただ、料理のレシピは価値があります。この機会に、本腰を入れて料理する人は増えるでしょうし、料理動画の配信および、レシピ販売、web会議形式での料理教室(ワンポイントアドバイス)などもありかもしれません。(味見ができないのがツラい・・・)
チルド品・冷凍品の宅配も、もちろんアリです。レトルトの一段上、という立ち位置を築ければ勝てます。ガン勝ちです。ただ、日本においては「コンビニのクオリティ」が凄まじいんですよね。その辺のチェーン居酒屋より安くて美味い。
そもそも「チルドで売って、レンチンして食べる」という消費スタイルに特化して商品開発してますからね。で、全国に各チェーン数千店~1万店あるんですよ。経験曲線の駆け下り方が違います。食品メーカーのレトルト品も同じです。
ですから、飲食店としては、コンビニ、レトルトと同じフィールドに乗らないことが大事です。軸ずらし、が大事です。
一方で、コンビニのチルド品や、レトルト食品(常温、冷蔵、冷凍すべて)、即席麺などは、その提供価値のすばらしさに目を向けられるかもしれません。正直、海外市場を席捲できるんじゃないかって気がします。
飲食ニーズそのものは人類が滅亡しない限り無くならないので、価値提供の在り方をうまく修正できれば、大勝ちできる可能性がある市場です。
ちなみに、料理本の中で、うまく軸ずらしをしたなーと思うのはコチラ。発想の転換みがある。
ジム/健康
健康志向は強まります。間違いないです。でも、人と触れ合うことが難しい。そうなると、ジム、プール、などはツラくなる。
NIKE+とか、Runtasticとかの「運動履歴をみんなで共有する」系のサービスは強化されそう。リアルコミュニティが弱まる代わりに、オンラインコミュニティが強まる感じでしょうか。
トレーニングマシンも、そういう「負荷や回数が、自動的にオンラインに共有される」という方向に行くかもしれませんね。あまり価格をあげたくないなら、回数だけ記録してスマホで読み取る方式にすれば、コストを押さえられそう。(タイムスタンプやアップロード機能はスマホでやればいい。負荷もスマホ入力でも別に困らない)
もう少しお金をかけていいなら、bluetoothでスマホに自動送信までやれば、家庭用としては十分かな。
※プロ用は、既にオンラインにログを自動送信する機能がありますよね
あとは、計測系機器ですね。心拍数を計測するために腕につける、睡眠時に横に置いて睡眠レベルを計測する、などなど。普通に体重計も売れそう。
リアル小売
上述のファッション、旅行、飲食などと重複しますけれど、まぁ、細かいことはいいじゃないですか。
で、結論から言うと、まぁ、ツラいですよね。EC的にならざるを得ないです。
一番つらいのが「ついで買い」が減ることなんですよね。スーパーやコンビニであれば、レジ前/横にある商品を手に取ってかごに入れる、という行為がなくなります。もちろん、そういう生鮮やデイリー消費は、さすがに継続的に人が来るから、ついで買いも成立し続けるだろう、という考え方もありますよね。
では、百貨店や複合商業施設、大型書店はどうでしょうか。ふらふらと店内を歩いて「あ、これなんだろう」と思う、セレンディピティがついで買いの基本です。これを喚起していくことが、いろんな商材を一か所に集めていることの価値なんですよね。これが、難しくなるのではないか。
現在のECは、この「偶然の出会い」が弱い。CVRとか言い出しちゃうと、そりゃ目的買いさせた方がKPIが良くなるのは分かるんですが、ショッピングの楽しみってそういうところじゃないですからね。滞在時間を重視した、もっともっともっと「楽しいサイト」を作って行く方が良いのかもしれません。ショップスタッフは、チャットやweb会議システムに接続して、商品の紹介をしたり、お客さんの相談に乗ればいいんじゃないですかね。
あとは、デリバリー速度が鍵ですね。あったまってるうちに決済してもらい、速攻で手元に届ける。後悔する暇を与えない。
ECはここが苦手なんですよね。ノリで買う、が減りますし、例え、カートに入れたとしても、決済する時=クレジットカード番号を入力するときに我に返ってしまう。
だから、顧客体験の設計が重要です。例えば、ファッションであれば、決済の瞬間までweb会議をつなぎっぱにしておいて、オーダー完了を ”データで” 確認した上で、相手のその商品選択を褒め、着用シーンなどをアドバイスし、今後の新作発表の時期をお知らせしてから、再度お礼を言ってweb会議を切るわけですよ。普段、店の出口まで紙袋持ってついていきますよね?アレです、アレ。アレをECでもやりましょう。
リモートワーク関連機器
まぁ、これは言うまでもないので割愛。webカメラとか、良質なマイク、ヘッドセット、ディスプレイ、机、椅子などなどは売れます。そりゃ売れるわ。
でも、もうすでに、ある程度売れた(最低限はいきわたった)感があるので、より高機能なモノ、使いやすいモノを作っていく方向に進むんでしょうかね。
キーワードは「快適性」と「清潔」
ということで、現時点のまとめです。当たるも八卦、当たらぬも八卦。
・感染症のリスクを許容して生きる世界においては、「快適性」「清潔」を売りにするビジネスが強くなります。最もわかりやすいのが消毒。
・コト消費、体験型消費は、極めて厳しい。しかし、デジタル化に正しく舵を切っていた会社は、一歩リード。リアルに根差した価値提供を磨いてきた会社は、価値の提供方法を再考しないといけません。(ただ、温泉とかは本当に無理かもしれません・・・)
・リアル小売りがECに切り替えた場合は、購買の瞬間、購買後のフォローを徹底すべきですね。web会議システムとか最高ですよ。あとは、セレンディピティを実現できるオンラインインターフェイスね。
・オンラインコミュニティの運営サポート事業は伸びるかも。シェアリングビジネスや、運動・健康ビジネスの裏方機能として期待。
・日本の高品質なチルド商品、レトルト商品、インスタント商品は、世界を席巻できるかもしれない
と、わりと悲観的な方向で考えてみました。
我々人類は、「のど元過ぎれば熱さ忘れる」のか、あるいは「あつものに懲りてなますを吹く」のか。
どちらのことわざに近い行動をとるのでしょうね。
どちらであったとしても、この問いの答合せができる状況に、早く世界が戻ると良いんですけどねぇ・・・
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