徹底的に細部を潰す意義|資料作りを考える

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もう、何万回も議論されててミミタコ状態だろうと思うんですが、本日は「なんで、おっさんたちは、そんな細かいことを気にするの?」という若手の皆さんに向けたお話です。

特に、資料作りの話になると、「そんな大量の細かな資料を作っても、誰も読まないんだから無駄だ」とか「コンサルっぽい見た目がキレイな資料は、中身がないから嫌いだ」とかいう感じのことをおっしゃる高年次の皆さんもいらっしゃったりするので、僕のような資料を頑張って作っちゃう派閥の人にとっては、生きにくい世の中になってきております。

でも、それでも、僕たちは細部まで潰しこむんですよ。誰に、何と言われようとも。

キレイな資料がダメなのではなく、中身がない資料がダメ

僕も社会人1年目の頃に、お客さんに資料の説明をしていて「この①②は、メールで書いていただいている1.2.と同じですか?」と言われたことがあります。その時は、脳内で「え、わかるでしょ?」と思ったんですよ。また、社会人4年目の頃に、上司に「このフォントサイズの違いは何?あと、矢印の太さが違うよね?」と言われました。その時は「え、なんか問題あるの?」って思いました。

矢印の種類、線の太さ、図形の色、図形の大きさ、配置、文字のフォント、サイズ。うん、どうでもいいですよね。わかる。

で、そういうことにプライド持ってやってる人に対しては、なんか、こだわりの職人芸なんだろ、っていう目線を向けたくなりますよね。

でもね、本当に職人芸なのは、注目される「見栄え」じゃないんです。コンテンツなんです。ストーリーであり、論理構成であり、複雑な論点が整理されていることであり、そこで醸成される納得感であり、次のアクションに繋ぎたくなる高揚感です。

それらが無いのは、資料としての用を成しません。結局のところ「資料は見た目じゃないんだよ」というご指摘は、極めて正しいのです。

見た目だけしかないぺらっぺらの資料を作っている人には、見栄えだけとりつくろって悦に入ってるんじゃねぇよ、と僕も言いたい。(僕自身にも言いたい)

細部を潰すのは、”全体の効率性”のため

それでも、僕らが、毎日毎日、コツコツ細部を潰しこむのは、効率性を求めるからです。

先ほど書いた、お客さんや上司の指摘は、コンサルに転職した瞬間に「当たり前以下」のものになりました。そんなの、できて当たり前。より細かいレベル、絶対に、誰も気づかないだろうというレベルまで潰しこみを行うようになりました。

それ、非効率なんじゃないの?って思いますよね。「資料作りを30分で済ますか、5時間かけるかなら、前者の方が断然効率的だ」とか言いたくなりますよね。

ただ、ルビコン川のこちら側に来てしまった僕からの、率直な意見としては「お前の工数なんて知らねぇよ」です。

資料は、何のために作るのか。それは、誰かが何らかの重要な意思決定をするためです。そもそも、その意思決定が重要なモノじゃないなら、資料作りに30分かける意味すらありません。口頭で済ませばいいです。

重要な意思決定は、何億、何十億、何百億円の価値を生みます。そして、それは同時に、同じ規模の損害を生むリスクをはらんでいます。

また、その意思決定を下すためには、(一般的には)多くの人が議論に関わります。(もし、意思決定者および利害関係者があなただけならば、資料は不要です。)

彼らの時間単価は、資料を作る若手の時間単価の数倍~数十倍、数百倍になります。(これを「給料の額」という意味で捉えるのは正確ではありませんが、まぁ、一つの目安にはなります)

だから、若手が5時間かかるものを30分に短縮したところで、組織全体で見れば誤差の世界*なんです。

仮に、若手の1時間の価値が5000円だとして、5時間-30分=4.5時間は2万2500円です。会議の参加者が5人で、その人たちの1時間の価値が平均10万円(若手の20倍)の場合、その費用は1分あたり8333円です。2万2500円は、2.7分。つまり、若手の4時間半の作業は、会議の2分42秒に相当します。

もし、若手社員が30分でつくった資料を出して、会議メンバーが「ん?この水深ってのは、推進の書き間違いか?」とか「この点線で指し示してるのは、この太い実線のとは意味が違うの?同じなの?」とか「えっと、この青い四角と赤い四角は、前のページの青と赤と同じ意味?違う意味?」とか言い出した途端に、若手が節約した4時間30分は吹き飛びます。

もし、そういうツッコミによるタイムロスが1回あたり3分、打合せ中に5回あったら、8333円x3分x5回=12万4995円の損失です。若手が5時間かけて資料を作ることで、これらのロスを回避できたとするならばそのRoI(費用対効果)は、5.5倍です。めっちゃ価値貢献してるやん!って話です。

*:「だったら改善を積み上げる地道なBPRなんて無駄じゃないか」というご意見もあるかもしれませんが、それはそれで極論ですし、曲論です。創出される付加価値が変わらないならば、細かな作業時間短縮を積み上げることは、極めて大きな意味があります。従って、その議論を今回の資料作りの話に持ち込むと、いわゆる「企画業務」において最も重要かつエキサイティングな部分である ”クリエイティビティ” を発揮するつもりが無いって話になってしまいます。

資料作成の話に限らない

さて、お気づきの通り、これは「資料作成」に限った話じゃないんですよね。

そももそ、上述の通り、ちゃんと資料を作ろうと思ったら、中身を考え切らないと作れないわけです。ですので、細部まで詰め切る、というのは、本質的な「仕事の進め方」の話なんですよ。

つまり、ホワイトカラーの仕事の本質は「上司の代わりに考える」「クライアントの代わりに考える」という、自分よりも高単価な人材の、脳を代替することことなのです。(単純作業の繰り返ししかしてない、という人は、事務系ブルーワーカーということですね。残念ながら。)

彼らの貴重な時間を1秒でも増やすために、彼らの代わりに先回りして考える。そして、必要に応じて事前に確認する。場合によっては、いくつかのオプションを用意しておいて、どれが適切か選択してもらう。

そういうことを心がけようとすると、おのずと「細部まで徹底的にこだわる」ことになります。細部までこだわる、のは、別に、それ自身が目的なわけではありません。あくまでも、高単価人材の工数を減らすための手段なのです。

ただし、その先の上位目的は上司を満足させることではありません。最適なリソース配分で会社・事業が回ること、そして、それによって、お客様により一層の価値・便益をご提供することです。お客様の利益にならないようなこと、つまり、自社の中長期的な利益を損なうようなことのために、長時間労働をする必要はありません。

お客様にとって価値があり、また、会社・事業にとって有益である、という前提が満たされている限りにおいてのみ、高単価な社内人材(主に上司)の工数を若手が肩代わりすることの意味があります。

コンサルの提案書で考えてみる

例えば、コンサルティング契約の提案活動。コンサルティングというのは特殊な商売です。「これ」という売り物があらかじめ決まっているわけではありません。クライアントの「こういうことに困ってる」というお話を受けて「だったら、こういうことしたらよいのでは」とお返しする、というプロセスそのものを売っています。そのため、毎回、提案内容がまったく変わってきてしまいます。

従って、コンサルティングの提案をしようとするときには
・クライアントは何に困っているの?何を欲しているの?(課題の仮説)
・我々は、それをどうすれば解決できると思っているの?(解決策の仮説)
・課題や解決策が想定通りであるかは、どうやって確認するの?(仮説検証のやり方・アプローチ)
・出た結論を受けて、その先、何をしていくの?どういう風にして「成果」につなぐの?(机上の空論に終わらない実利につながる方針出し)
というようなことを「提案前に考え切る」ことが求められます。

仮に3ヶ月(12週)のプロジェクトこういうことを考えるとき、経験豊富なコンサルタントであれば、「月単位(含む0.5ヶ月)のタスクイメージ」でも、大まかなアプローチを描けますが、まぁ、週単位(含む0.5週)くらいで考えるのが一般的なんじゃないかと思います。

しかし、若手層は、1日単位(営業日単位)でミリミリと考えた方が良いです。仮に、上司やクライアントに見せる資料が、週単位、月単位にまとめられるとしても、頭の中ではどういうことを、どれくらいの期間やって、どういうアウトプットを作るのか、を「日単位」で、作成しておくべきでしょう。

コンサルファームの上司は、まぁ、鬼のように頭が切れて、鬼のように働いています。(少なくとも昔はそうでした。きっと、今もそうだと思います)彼らに提案書のドラフトをみせると、一瞬で「このアプローチだと失敗する」「この課題は本質的じゃない」「この解決策だとミートしない」などのコメントが返ってきます。

ここで、考えが浅いと「うぐっ」となって終わります。

しかし、あなたが微に入り細に入り考え抜いていたとすると、おそらくは
・これこれこういう理由で、このアプローチが望ましいと考えたのですが、どうでしょう?
・別のオプションとして、こんなのも考えましたが、その場合はこういう問題があると考えたので、今書いてある方がベターだと思っていました。何か、抜けている観点はありますか?
・前回のヒアリングで、クライアントの〇〇さんがおっしゃっていた■■に鑑みると、こういう課題を抱えているのだとおもったのですが、ちがいますか?
というような「自らの仮説を説明して、打ち返す」ことができます。

若手コンサルタントにできるのは、そこまでです。いや、むしろ、それだけできれば十二分です。

そこまでやっても、すべて大外しして終了という可能性もありますが、まぁ、10回中、1回くらいは「お、その視点は新しいな」という風に、上司に気づきを与えられるケースがあります。この1回で、残りの9回の無駄打ちは報われます。

クライアントに最高の価値提供するためには、上司がひとりで思いつけるものに、チームとしてなにかしらの価値を追加しなければいけません。上司が一人で100点を取れるのだとしたら、チームの力でそれを120点、150点にしていくことが重要です。その態度・姿勢が「クライアントの便益」を考える、ということです。

そして、そのためには、事前に、細部までこだわり抜いて、考え抜いて、自分の限界まで詰め切っておくことが大切なのです。

結論:やって、やりすぎということは無い。

コンサルタントに限らず、ありとあらゆるホワイトカラー職の若手は「誰かの時間効率」を引き上げることを目標に据えるべきでしょう。

その意識で取り組んでいると、いろいろな上司が気にしているポイントを考える事になります。それは、多様な視点を身につけることを意味します。視点が多いと、物事を多面的に捉えられるようになりますので、自分自身が上司として振舞わねばならない時のために、引き出しを増やしておく効果も得られます。

何度も同じ事を言って恐縮ですが、これは「意識して、徹底的に、細部まで詰め切る」という行動を繰り返していく中で培われます。上司の顔色を窺い、うわべだけをつくろって、その場をしのぎきる、という態度では絶対に身につきません。

日々、色々な細かい指摘を受けたら「ラッキーだ」と思いましょう。
そして、その指摘の意図するところを汲みましょう。分からなければ質問しましょう。
もちろん、そういう視点を身に着けた上で「使わない」というのも自由です。しかし、社内ならばともかく、クライアント/お客様が同じような考え方だったという場合が、長い社会人生活のなかで出てきます。
そういう状況に備えて、引き出しを増やしておくべきでしょう。

非効率だな、面倒だな、と思う時は、是非、中長期的な視点・全体最適の視点に立ってみましょう。ちょっと違うものが見えてくることもありますからね。

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