「共同体感覚」がもたらすもの

自分を犠牲にせず、他者への貢献を目指す。
自分の利益も他者への利益も最大化する。
嫌われることをおそれず、他者への礼節をつくす。

どれも難しい課題ですが、実現は不可能ではありません。
これらは同一線上の両極にあるものではなく、両立が可能だからです。

私はこのことを『嫌われる勇気』(岸見一郎 古賀史健 ダイヤモンド社)、『GIVE&TAKE』(アダム・グラント 三笠書房)、『Think CIVILITY』(クリスティーン・ポラス 東洋経済新報社)の三冊を読んで学びました。

もちろん、それぞれ別の人が書いた本ですので相違点もあります。
例えばNBAのマイケル・ジョーダンについて、『Think CIVILITY』では「礼節ある人」と評価しているのに対し、『GIVE&TAKE』では「利己的なテイカー」とこき下ろしています。
(「テイカー」とはギブアンドテイクの「テイク」を重視する人のことを指します。反対に「ギブ」を重視する人のことを「ギバー」と言います。)

これには理由があり、『Think CIVILITY』では一人のコーチの「スーパースターである彼が、私なんかに丁寧に接してくれた」という「主観的な評価」から引用して、『GIVE&TAKE』では引退後の行動も含めて「客観的に分析」しており、その結果評価が分かれてしまったのです。

この点に関して『Think CIVILITY』は調査が足りなかったのでしょうか?
実は愛想の良さと利己的かどうかには関係がない一方で、愛想の良い人に対する評価は上がりやすくなるのです。
『GIVE&TAKE』では愛想の良いテイカーに気をつけるように述べていますが、どうやら『Think CIVILITY』の著者はこの罠に嵌ってしまったようです。

それでもこの二冊は「自分と会社(或いはチーム)のwin-winの関係を目指す」という点で同じ目標を持っています。その目標を達成するためにそれぞれ「他者志向のギバーになること」「心から相手を敬うこと」という答えを出しているのです。

それでは、なぜここまでして人間は自分とコミュニティの関係を考えるのでしょうか?
その本質に迫るのが『嫌われる勇気』にある「アドラー心理学」です。

アドラー心理学では「すべての悩みの原因は、対人関係である」としています。
対人関係の中で劣等感を持ったり、承認欲求を求めたりして人は悩み始めます。

それと同時に「幸せとは、貢献感である」としています。
そこでアドラー心理学では対人関係の悩みをなくし、他者との共存を考える「共同体感覚」を目指します。

「共同体感覚」の中で、人は自分を見失わず他者を対等な仲間だと感じ、他者貢献を考えることができます。
これこそが『GIVE&TAKE』で述べられている「他者志向」であり、『Think CIVILITY』で重視される「相手への敬意」ではないでしょうか?

これらの三冊(あるいはもっと他の本)を読み比べることで、根底に何があるのか掴めそうな気がしました。

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