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考えるレクチャー「來嶋路子さん 本をつくる、くらしをつくる」 レポ (前編)

2019年3月24日、アートとまちづくりを学ぶThink Schoolの卒業生有志による企画の第二弾「考えるレクチャー」を行いました。
Think Schoolの「Think」をテーマに、これからの暮らしや仕事を考え、今までとは違う視点を持つためのヒントをみつけたいと思いお招きしたのは、來嶋路子さんです。三人のお子さんのお母さんでもある來嶋さんは当日も末のお子さんを抱いていらしてくださいました。その講演についてレポートします。

疲れてボロボロでも自分のやりたいことでなら元気になれる?! 「ミチクル編集工房」の誕生

來嶋さんは、東京で美術出版社の『みづゑ』の編集長、『美術手帖』の副編集長を務め、書籍『モネ、ゴッホ、ピカソも治療した絵のお医者さん』、『ミッフィーと絵かきさん』、『日本美術史』などを編集。
2011年の東日本大震災を機に東京から北海道岩見沢市に移住してきました。
2015年にフリーランスとなり、「ミチクル編集工房」を設立。
2018年には「森の出版社ミチクル」をスタートします。
他にウェブマガジン「colocal」やJR車内誌「THE  JR  Hokkaido」などで連載を持ち、展覧会の図録の編集も手がけるなど幅広く活躍しています。

ご自分で本をつくるようになったきっかけからお話がはじまりました。

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「フリーランスになってから、子どもの面倒を見つつ、複数の仕事をこなしていると結構ボロボロになります。
作業自体でボロボロになるならいいんですけど、依頼された仕事の中でのディスコミュニケーションによるストレスなどがあるとちょっと辛い。
本づくりをしてお金を稼ぐのがベースなら、『自分のやりたいことでボロボロになった方が楽しいじゃん』と。
それで2年前に自分で本をつくってみようと思いました。
依頼仕事の割合をちょっとずつ減らし、自分の取り組みをちょっとずつ増やしていくイメージでやっていけば、ボロボロでも元気になれるかなぁと思い、それで『山を買う』(ミチクル編集工房)という本をつくることになりました」(來嶋さん)


北海道に移住して5年後に來嶋さんは山を買っています。
当時、美術出版社の在宅勤務という形で激務をこなしながら、岩見沢でどう暮らしていけば良いかを考えていた來嶋さん。同じく多忙でヘトヘトになっている東京の友達が岩見沢に遊びに来て元気になって帰っていく姿を見て、「みんなが集えるエコビレッジのようなところを作りたい」と考えたそうです。
でも、やっぱり広い土地は値段が高くて………と思っていたら、山が買えることを知り、お友達と一緒になんと中古車1台分くらいの値段で8ヘクタールの山を買ったそうです。
山を買ったいきさつとその後を綴ったものが、「山を買う」という1冊の本となったのです。

正のスパイラルが起きた!2冊目の本と「森の出版社ミチクル」へ  

「山を買う」出版後、どんなことが起こったのでしょう。

本にしてみたら、まず新聞で取り上げられ、次に新聞を見て岩見沢市の市立図書館が置いてくれました。
図書館は岩見沢市の喜久屋書店さんに注文。喜久屋書店さんもこの『山を買う』を置いてくれることになりました。
喜久屋書店さんで販売が始まったら、また新聞社の人がこの本を買って新聞に取り上げられ、そうすると全国から『山を買う』を買いたという人が連絡をくれて…。
まさにコレぞ『正のスパイラル』が起こり、この本が小さい地域の中で少しずつ回り始めました。
結局、喜久屋書店さん2店舗で200冊くらい売ってもらい、コレすごいなって自分でもびっくりしました。


通常、本の流通というのは、大きい出版取次っていうところで、どの書店に何部出すかがコンピューターで計算されて出荷されます。
取次から書店に来た本は、店頭に2週間並べばいい方で、本によってはダンボールから出されないまま返されるということもあるのです。
そんな中、ずっと『山を買う』を店長さんが大事にしてくれるのはありがたいなと思いました。

これが、出版社を始めようかなという私のモチベーションに繋がったわけです。

出版した本の印税だけで食べていくのは難しいけど、こうやって顔が見える人たちと超ローカルにやっている方がずっと健全。同じ金額でも、もらえるところの違いで全く価値が異なるというのが最近の私の考えです。

加えて言うと、來嶋路子『山を買う』を大手出版社で出そうと思っても、取次さんたちや出版社からの、前例がないため売れるかどうかわからないという理由で、結局、出せないと思います。
そういう意味でも、自分でチャンスを作るってとても重要かなと思っています。

こんなことがあって、昨年(2019年)の夏に出版活動をはじめました。
それで2冊目の『ふきのとう』(森の出版社ミチクル)を作りました」(同)

心のこもった手作りの本を出版したことで、その思いが人に伝わり、それを受け取った人たちが熱い思いで動いて「正のスパイラル」が起こったのですね。

アツアツの状態で本づくりを。  來嶋さんがつくりたい本とは?

では、これから來嶋さんがつくりたいのはどのような本でしょうか。

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「北海道の山奥にいたら、本をつくるネタなんてないなと思っていたら、実は東京とは違うすごいネタの宝庫だと思い始めました。
自然やそれに関わる人、独自の活動をされている人……と話を聞きたい人がたくさん。それを私が本にまとめて『森の出版社ミチクル』として山奥の美流渡で、一人で出版までやっていけたらと。

雑誌には北海道の記事がいっぱい載っていますが、大抵東京の人が来て取材し、持ち帰って東京のデザイナーさんがデザインしていますよね。
この時に、絶対に温度が下がっていると思うのです。他人事になっているのではと。それが客観的でいい場合もある。

でも、せっかく私が『森の出版社ミチクル』で、一人でやっているのなら、話を聞いて手書きで文字(文章)や絵(デザイン)を書くことから印刷まで全部一人でやって、ずっとアツアツの状態で本づくりができるんじゃないと思っています。

それが今、私が新しくやってみたいことです」(同)

來嶋さんはこんなお話もしていました。
インタビュー後、テープ起こしをパソコンでやると作業と感じてしまうので、それも手書きにしているそうです。
手書きで時間をかけると、その人の話に深く入り込むことができ、これが書く前の助走となり書き進めていくことができるそう。
人が発する言葉のその奥にある本当の意味や文字にならない感情までをも聞き逃さず、掴み取ろうとしているかのようでした。
人当たりがよくソフトな印象を受ける來嶋さんに潜むすごさを感じました。

後編では、岩見沢に移住して山を買った來嶋さんに起った意外なことを。
お楽しみに。

森の出版社ミチクル 

https://www.facebook.com/michikuru

(文:企画1期はせがわひろみ/写真:制作1・2期岩﨑麗奈/編集:2期わたなべひろみ)

後編はこちらです

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