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【英文法 重箱の隅】他動詞⇒自動詞〈前編〉

実用から離れて、英文法そのものに対し関心を寄せている読者向けの内容となっています。一匹の猫の個人的な興味探求の記録としてお読みいただければ幸いです。

英語の動詞のほとんどが自動詞としても他動詞としても使われるのは事実だとしても、主に自動詞として使われるものと主に他動詞として使われるものとに区別することは一応可能であり、また不合理なことでもない。動詞の表わす意味内容そのものに、自動詞的なもの('run' や 'work' など)と他動詞的なもの('eat' や 'sing' など)があるからだ(ここで「自動詞的なもの」とは、その動詞の表わす動作なり状態なりが対象を必要としないもの、「他動詞的なもの」とは、対象を必要とするものを指す)。そこで今回は、主に他動詞として使われる動詞が自動詞として使われる場合について考えてみたい。

まず、他動詞の目的語が省略されて、表面上は自動詞に見える場合がある。これは、動詞自体の意味から、あるいは文脈から目的語が明白なために省略されたと考えられる。以下、各例文において省略されている目的語について確認していく。

1-a.  I was too nervous to eat.
1-b.  We usually eat at about seven o'clock.
2.  He’s been drinking heavily since his wife died.
3.  Fewer people smoke these days than used to.

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日本語でも「緊張のあまり食べ物が喉を通らない」と言ったりするが、それに相当するのが (1-a) である。この文の ‘eat’ はもちろん、’eat (food)’ を略したもの。ちなみに、自動詞用法の 'eat' は (1-b) のように ‘have a meal’ の意味で用いられることもある。

2 は “He’s been drinking (alcohol) heavily …” の意味で、彼が妻の亡き後に 'a heavy drinker' になったことを述べている。自動詞用法の 'drink' は特に、習慣的な飲酒や適量を超えた飲酒を指すことが多い。

喫煙率の低下は今や、世界の趨勢なのだろうか。3 の文の ‘smoke’ は ‘smoke (cigarettes)’ を略したもの。ちなみに、'tobacco' は 'cigarettes' やパイプなどで吸われる乾燥した葉を指す。

4.  Do you prefer cooking with electricity or gas?
5.  I spent all day cooking and cleaning.
6.  I was dusting when I noticed the piece of paper.
7.  He was ironing when I arrived.

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ここでは、家事に関する動詞を集めてみた。動詞の 'cook' は加熱調理すること(よって、サラダをつくるときには使わない)。問題はガスを使うのか電気を使うのか(調理性重視の私自身はガス派)。(4) の文中の ‘cooking’ の後にはもちろん、'food' が省略されている。

料理の次は、掃除である。(5) は ‘cooking and cleaning’ とあるので、この ‘cleaning’ は ‘cleaning (the house)’ を略したものと考えるのが適当だろう。
動詞の 'dust' は、掃除のうちでも特に家具や部屋などのホコリを払うこと。(6) で ‘I was dusting’ の後に省略されている目的語の一例として、辞書では ‘her desk’ を補っている。最後はアイロンがけ、(7) の ‘ironing’ は ‘ironing (clothes)’ を略したもの。

8-a.  Kerry could read and write when she was five.
8-b.  I'm going to go to bed and read.
8-c.  She writes for a national newspaper.
9.  You draw beautifully.
10.  She usually paints in watercolour.

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(8-a) の ‘read and write’ はいわゆる「読み書き」のことなので、省略されている目的語としては 'letters'(文字)や 'words' などが考えられる。(8-b) は就寝前の読書のことをいっているので、‘read (a book)’ を略したもの。(8-c) には ‘for a national newspaper’ とある(つまり、'write' という行為は彼女の仕事なのだ)ことから、‘writes’ の目的語として ‘articles’ が省略されているのが分かる。

同じ「絵を描く」でも、'draw' はペンや鉛筆などを使い、'paint' では絵の具などを使う。よって、(9) は、相手の描くデッサンに対する褒め言葉である(ちなみに、油絵の具は 'oils'、水彩絵の具は 'watercolor(s)' という)。(9) の ‘draw’、(10) の ‘paints’ ともに省略されている目的語は ''a picture である。

11.  The bank refuses to lend to students.
12.  I don't like to borrow from friends.
13.  We're saving (up) for a new car.

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1 の ‘lend’、 2 の ‘borrow’、3 の ‘saving’、いずれも省略されている目的語は 'money' だ。例えば「人に金を貸すことも、人から金を借りることもしない」という自分の信条を述べるには ‘I neither lend nor borrow.’ 、「貯金が苦手」と自分の弱みを話すには ‘I'm not very good at saving.’ というように、それぞれの動詞を自動詞として用いることで、簡潔な文をつくることができる。

14.  So when did you learn to drive?
15.  Where have you parked?
16-a.  Can you ride?
16-b.  Their daughter is learning to ride.
16-c.  He rides well/badly.

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(14) の ‘drive’ は ‘drive (a car)’ を、 (15) の ‘parked’ は ‘parked (your car)’ を略したもの。動詞の 'drive' は「車を運転する」「車で行く(移動する)」ことを表わすのであって、日本語のいわゆる「ドライブする」を意味しない。よって、‘Can you drive?’ とは、車の運転ができるかどうかをたずねる文。また、’He's parked very badly.’ と言えば、駐車の上手い下手について述べている。

(16) のどの ‘ride’ も、(14) の ‘drive’ 同様、後には目的語として ‘a car’ が省略されているのだろうか。動詞の 'ride' の基本的な意味は「馬に(またがって)乗る」こと。つまり、いずれの ‘ride’ も ‘ride (a horse)’ を略したものである。ちなみに、'ride (in) a car' とは「車に乗客として乗る=乗せてもらう」ことであって、自分がハンドルを握るときは ‘drive a car’ と言う。

17-a.  Enid waved at us and we waved back.
17-b.  She waves her hands about/around a lot when she's talking.
18-a.  I'd like to wash before dinner.
18-b.  She had a wash and changed her clothes.
18-c.  I ran some hot water and washed up.
19-a.  I had to change twice to get there.
19-b.  I went into the bedroom to change.
20. These logs are wet: they won't catch.

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人は、あいさつをするためだったり、注意を引くためだったり、さまざまな目的で手を振る。(17-a) の文の ‘waved’ は ‘waved (his hand)’ や ‘waved (our hands)’ を略したもの。さよならと手を振ることは 'wave goodbye to someone' = 'wave someone goodbye' という言い方がある(この場合の wave は他動詞用法)。また、話をしているときに手を振る仕草も、(17-b) のように 'wave' が使える。

(18-a) は、食事の前の手洗いのことをいっている。よって、‘wash (my hands)’ の略されたものと考えられる。イギリス英語では、自分の体、特に手や顔を洗うことを表わすのに wash を自動詞用法で使うことがある(ただし、日常的な場面では、(18-b) のように wash を名詞として用いて have a wash という言い方をするのがふつうだ)。アメリカ英語では 'wash up' と言うことが多い。ちなみに、'wash up' はイギリス英語では (18-c) のように「食後に食器を洗う」ことも表わすので、ややこしい。

動詞の 'change' は元々「取り替える/交換する」という意味。(19-a) は ‘to get there’ とあるので、乗り物を乗り換えること。よって、‘change’ の後に省略されている目的語としては ‘trains’ や ‘buses’ などが適当か。(19-b) は ‘went into the bedroom’ から判断すると、‘change (clothes)’ を略したもので、ここでの ‘change’ は着替えることを表している。

(20) について。‘These logs are wet’ という手がかりだけでは、ここでの ‘catch’ の見当をつけるのはやや難しいかもしれない。'to sart burning' を意味する 'catch fire' というセットフレーズを知っているかどうかがカギとなる。すなわち、コロン以下の文は ‘they won’t catch (fire).’ を略したものである。

以上、目的語が省略されやすい動詞の実例をざっと見てきたが、普段英語を話したり書いたりしているときに余計な目的語を使っていないかどうか、自分を省みるよい機会となった。

後編に続く

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読む人が英文法について深く広く考えるきっかけとなることを目指して綴られた散文集です。

「重箱の隅を楊枝でほじくる(つつく)」= 取り上げなくてもよい、細かな事までを問題にする(新明解国語辞典)

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