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【英文法 重箱の隅】他動詞⇒自動詞〈後編〉

実用から離れて、英文法そのものに対し関心を寄せている読者向けの内容となっています。一匹の猫の個人的な興味探求の記録としてお読みいただければ幸いです。

前編からの続き

これから取り上げる動詞については「主に他動詞で使われる動詞が自動詞として使われる」というのは適切な説明ではない。もっと正確に言えば次のようになるだろうか。

同じような意味を自動詞用法でも他動詞用法でも表す動詞のうち、他動詞用法で目的語となる名詞句を自動詞用法で主語として用いることができる動詞、つまり 「他動詞用法の目的語=自動詞用法の主語」となるような動詞

さっそく、例を挙げてみよう。

1-a.  John broke the vase.
1-b.  The vase broke.
1-c.  The vase was broken.

(1-a) は、動詞 'broke' の直後に 'the vase' という名詞句が続いている。'broke' は他動詞として使われていて、'the vase' はその目的語である。それに対し (1-b) は、動詞 'broke' の前に名詞句の 'the vase' が位置し、後続する名詞句はない。'broke' は自動詞として使われていて、'the vase' はその主語である。この (1-a) と (1-b) のペアのように、他動詞と自動詞の交替が可能な動詞の例を、これから見ていきたい。


その前に、(1-b)と (1-c) のちがいが気にならないだろうか。(1-a) の文で 'break' という動作の対象(目的語)である 'the vase' が主語の位置にあるという点では、(1-b) も (1-c) も同じだ。ただし、(1-b) は (1-c) とは異なり、受動態ではない。(1-b) と (1-c) のちがいは「割れた」と「割られた」のちがいと、ひとまずは言えるだろう。

(1-b) の文は、the vase broke by John とは言えないことからも分かるように、この出来事には 'John' のような動作の主体(行為者)が存在しない、つまり、これは自然発生的に起こった出来事であることを表していると考えることができる。

ただし、それとはちがった捉え方も可能だ。すなわち、主語である名詞句 'the vase' がもっている内在的な性質(「割れることがある」という性質)がもとになって、このような事態が発生したのであって、そういう意味で、これは自発的な出来事である、と。

このような見方をすると、主語の 'the vase' は、この出来事を導いた間接的な原因であって、少なくとも (1-b) の文で 'the vase' を 'break 'という動作の対象(=動作を受けるもの)として意識することはないことになる(したがって、受動態が使われない)。そして、どうやらこれがネイティブ・スピーカーの直観であるらしい。

興味深い話がある。日本人学習者に「ガラスが割れた」を英訳してもらうと、多くの答えが (1-c) のような受動文であるのに対して、ネイティブ・スピーカーの場合は (1-b) のような自動詞用法で訳すことが多いという(ちなみに、ネイティブ・スピーカーは受動文の (1-c) を「割(ら)れた」という出来事ではなく「割れていた」という状態を表わすと解することが多いようだ)。また、日本人学習者は、(1-b) のような、無生物主語を伴った自動詞用法の文を文法的に誤りだと判断する傾向があるという。

英語の運用における、日本人学習者とネイティブ・スピーカーとのズレを示す好例と言えるのではないだろうか(中高生時代の私自身も、きっと受動態を用いて訳していたにちがいない)。無生物主語の自動詞構文を使いこなせるようになると、ネイティブ・スピーカーらしい英語の使い手に一歩近づいたことになることを、先の話は示している。

それでは、他動詞と自動詞の交替の例を、日本語の場合と比較しながら見ていきたい。

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