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【ミステリ感想】「すべての美人は名探偵である」著:鯨統一郎

以前、ミステリ感想として書かせていただきましたトラベル歴史ミステリ短編集「戦国武将殺人紀行 歴女美人探偵アルキメデス」の作者、鯨統一郎さんの長編ミステリ『すべての美人は名探偵である』です。
凄いタイトルですね。事件の内容がまったくわかりません^^;

美人歴女トリオ「アルキメデス」の前日談の位置づけとなる作品で、殺人事件のアリバイトリック&わらべ歌に隠された秘密に、事件に巻き込まれた歴史学者、早乙女静香たちが挑むというストーリーです。

鯨統一郎さんの本領は、意表を突く歴史の解釈の面白さにあると思うのですが、それが一番生かされるのは短編ではないかとボクは思っています。
本編は長編であるため、殺人事件のアリバイトリックなども盛り込まれていますが、トリック自体は可もなく不可もなく、というか2時間サスペンスドラマにありがちなものといったところで、ミステリファンにお勧めできるほどのものではないとボクは思います。
 
むしろわらべ歌に隠された秘密を解明することに重点を置いた短編(または中編)の方が、シャープな切れ味の作品になったのにという感じでしょうか。
 
とはいえ、美女歴史学者、早乙女静香の傲岸不遜ぶりと、早乙女静香に心酔する桜川東子のキャラクターは立っているので、読むのが苦痛というわけではないですし、なにより、わらべ歌に隠された秘密の解釈が鯨統一郎さんらしい、予想外の解釈で楽しませてくれますので、鯨統一郎さんの作品のファンでまだ未読なら、それなりに楽しめる作品だと思います。

さて、早乙女静香たちが取り組むわらべ歌は、まず知らない人はいないだろう『ずいずいずっころばし』です

ずいずいずっころばし ごまみそずい
茶壺に追われて とっぴんしゃん
抜けたら、どんどこしょ
 
俵のねずみが 米食ってちゅう、
ちゅうちゅうちゅう
 
おっとさんがよんでも、おっかさんがよんでも、
行きっこなしよ
 
井戸のまわりで、お茶碗欠いたのだぁれ

一見意味不明なこのわらべ歌。
一応、歌詞の意味についての通説はありますが、当然のごとく、鯨統一郎さんは、作中の登場人物の口を借りて、異説を唱えます。

東子は歌詞をみながら話し出した。
「『ずいずいずっころばし』は江戸、関東地方の童謡です」
「つまり、江戸で生まれた歌ってことだよね」
「はい。千葉で生まれたともいわれています。でも歌詞の中に ”とっぴんしゃん”という言葉が出てきます。これは東北の昔ばなしの終わりにつく言葉だそうです。江戸、千葉の童謡にどうして東北の言葉が使われているのでしょう?」
(略)
「これは茶壷に追われた人が、東北まで逃げたことを表しているのではないでしょうか」
「茶壷って?」

「すべての美人は名探偵である」より

ここから鯨統一郎さんの奇想天外な異説が展開されますが、「とっぴんしゃん」の言葉ひとつから、よくここまで話を広げられるなぁと感心するか、こじつけにもほどがあると呆れるかは、読む人次第といったところでしょうか。
 
歴史的事実は事実として、それを理解しうえで、あくまでもフィクションとしての小説を楽める方向けのミステリだと思います。
(歴史的事実とフィクションの区別がつかない、またはフィクションを現実だと思いこむのは、さすがに問題ですが)

随分と前に読んだトラベル歴史ミステリ長編でしたが、感想を書くのを忘れていたので、GWのこの期間、書かせていただきました😆。

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